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第5章5-21

5-21


・ユウのターン


牙を手にしたチェアリーは、カバンから革製の包みを取り出し言った。

「これを見て。こんな感じの留め具を作ろうと思ってるの」

取り出した革の包みは20センチほどの長さがあり、革布がクルクルと巻かれ筒状になっている。その中心に革紐が巻かれ先端に乳白色の牙らしきものが付いていた。


「これって、ウサギの牙なの?」

「そうだよ。お父さんが作ってくれたの」

「へぇ、カッコイイね」

それは女性が持つようなシャレていて小綺麗な革製品という感じではなく、使い込んで味わいの出た革が醸し出す大人の小物といった感じだった。彼女の父親の好みなのだろう。留め具に牙を使っているのがワンポイントになっていて、男っぽさが出ている。


「見て、先端はとっても固いけど、アゴに埋まってる根元の部分は柔らかいの。中心部分は空洞にもなっているし穴も開けやすいんだよ」

「ふーん」

茹でた牙を摘まんでオレに見せながら、説明してくれた。

ウサギのアゴから張りだしていた牙は、初めて見た時には小さそうに見えたが、取り外された状態で見ると根元まで含め5センチ強といった長さだ。


彼女はナイフを持つと根元の部分を少しカットしてみせた。そんなに力をかけず切れたので、まるで昼食に削ったチーズのようだった。

「本当に柔らかいんだね」

「時間が経って乾いてくると根元の部分も固くなるから、固くなる前に穴を開けるの」


チェアリーは父親に作ってもらったという革の包みの紐をほどくと、それを地面に置いて広げた。

(おおっ、カッコイイ!)

開くとそれは道具入れだった。革の布に幾つもの片口の小袋が縫い付けらてていて、その中にこまごまとした道具が整頓されて収められている。


こういった道具類を見ると無駄にテンションが上がってしまう。まるでホームセンターに行って使いもしない工具類を眺めている時に似ていて、男心をくすぐられる。


彼女はその道具の中からキリを取り出し牙の根元に差し込むと、いとも簡単に穴を開けてしまった。

「やってみる?」

「ああ」

牙と道具を受け取り、オレも彼女をまねてキリを差し込んだ。

「割らない様に気をつけてね」

それは牙とは思えないほど柔らかく、中心が空洞になっていることもあって簡単に穴を開ける事が出来た。


「穴に革紐を通せば完成だよ」

不思議な事に革紐を通すと急に渋いアクセサリーに変わって見える。

「おおっ」

「小物を入れる革袋の留め具にしてもいいんだけど・・・・・・」

そのままカバンにストラップとして下げていても良さそうだと思ったのだが、彼女はまだ手を加えるつもりらしい。

「ユウ、そのストールちょっと脱いで」

「ん?これ?」

「羽織っているだけだとズレ落ちちゃうでしょ?この牙をボタンの代わりに付けてあげる」

「え、出来るの?」

「簡単だから、ちょっと待ってて」


(本当に何でもできるんだな)

植物の知識は豊富だし、獲物を解体して調理も出来る。カバン一つに必要な物を全て詰めて、誰かに頼ることなく生き抜いていけそうなたくましさがチェアリーを見ていると感じる。


毎日同じような事を繰り返すだけの会社務めに疲れ切っていたオレは、こういう自然を相手に生きていく生活にどこか憧れていたのかもしれない。

獲物を狩って食糧とし、皮は加工してお金を得る。それで生活が成り立つのなら楽しくていいかもしれないと思った。

(スライムもいないしな・・・・・・)


今日のスライム狩りはもういい。毛皮の膜を取る作業に集中だ。

手を動かしながら、彼女に聞いてみた。

「ウサギの皮は何に使われるの?」

「うーん・・・・・・大体は防寒着かな。ウサギの皮は薄いでしょ?軽いから着てても重くないし、毛はフワフワで温かくて手触りがいいから、コートに使われることが多いよ」

「へー、」


(そういえばオレがしている胸当てとかはどうやって作られるんだ?)

装備している胸当てをさすってみた。革製だと思うが木の板の様にとても固い。それに毛皮ではない。毛は剃ってしまうのだろうか?疑問が浮かぶ。


オレが胸当てをさすっているのを見てか、彼女が答えてくれた。

「そういう防具は木で型を作ってからね、その上に半乾きの皮をピンと張って乾かすの。そうするとカチカチに型どおりに固まるよ。後は強度を出すために蜜蝋なんかを使ったりするみたいだけど」

「お父さんは革の防具も作ってるの?」

「頼まれればね。面倒くさいからってあんまり作らないけど」

(武器を作る鍛冶屋はなんとなくイメージ出来るけど、防具屋っているんだなぁ)

自分が装備して今ここにあるのだから当然誰かが作ったもののはずだ、しかし、防具作りはイメージしづらい。


彼女は更に説明を続ける。

「防具に使うにはいいけど皮はそのまま乾かすと固くなっちゃうから、そうならないように馬から取った馬油ヴァーユを塗り込んでよく揉むことで柔らかくしてるの。使い込むことでもっと柔らかくなるし」

チェアリーは道具入れをさすりながらそう言った。確かに彼女の持っているその道具入れは使い込まれて柔らかそうで、いい味わいを出している。


「革は時々、馬油を塗ってお手入れした方がいいよ。でないと雨に濡れた後そのまま乾くとバリバリになるから」

「ふーん」

オレは自分が履いているブーツを見た。教会で貰った誰の物とも分からない革製のブーツだが、クタクタになってシワが付きお世辞にも綺麗とは言えない。しかし、これはこれで味わいが出ていてカッコイイ。

「馬油、貸してあげようか?」

「持ってるの?」

「うん、お手入れは宿でしているから部屋に置いてあるけど」

「じゃあ貸してもらおうかな」

「いいよ。帰ったら貸してあげるね」


彼女は父親が革の加工をしているためか、革製品についても物知りだ。更に聞いてみた。

「こういうブーツとかって毛は付いてないけど、これって剃ってるの?」

「ううん、違うよ。それはね、木を燃やした後の灰を水に溶いてその上澄みに毛皮を漬けておくの」

「灰に?どうして?」

また想像もつかない材料を使っていることに驚いた。紅茶や道端の雑草、灰にと、どれも身近にあるものばかりだ。


「灰の液に10日も漬けておくと、皮がぶよぶよになるんだけどね、それで毛がスルッと抜けるようになるの。乾かした後に革も柔らかく仕上がるしね」

「本当に詳しいんだね」

「そんなことないよ・・・・・・お父さんに直接聞いた方がもっと細かく教えてくれるよ」

「そうだなぁ、こういうのに興味あるし会ってみたいな」

「ふ-ん・・・・・・フフッ」


彼女は何がおかしいのか、急にニヤニヤしだした。

「なに?」

「ううん!何でもない」

何だろうと思い、聞いても彼女は教えてはくれない。

(質問しずぎて子供っぽかったのかな?)

オレは黙って皮の膜をめくる作業に戻った。

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