第5章5-18
5-18
・チェアリーのターン
「はい、熱いよ」
「ありがと」
ユウが渡してくれた串焼きには大きなタマネギの輪切りと、それとは不釣り合いな小さなお肉が刺さっていた。
(フフッ、かわいい)
肉の大きさもそうだけど、彼が律儀に2人分串を用意してくれたところが可愛くも思える。
「いただきます」
ウサギを狩ってくれた彼に感謝して、串焼きにかじりつく。
(あふっ!)
焼きたてのタマネギはアツアツだったけど、火を通したことでとても甘い。
「うん、タマネギ甘くておいしいよ」
「はふっ、はふっ」
彼もフーフー言いながら串焼きを頬張っている。
二人で分け合った串焼きはあっという間に完食してしまった。
「おいしかったね」
「ああ、美味しかった」
「けど、小っちゃくてちょっと物足りなかったかな。ユウが一人で食べても良かったんだよ」
「オレも思った、小さいなって。本当はウサギは2匹いたから、両方とも捕まえられれば1つずつ食べられたんだけどなぁ・・・・・・そうか、これが二兎追う者はってやつか。ははっ、1匹でも捕まえられてよかったよ」
彼は兎にまつわるエルフの格言を言った。「二兎追う者より、一兎をエルフは選ぶ」
それは、捕まえられるか分からない2匹のウサギを追いかけている者より、既に1匹捕まえている者を亭主に選びなさいというエルフの教えだ。
今でこそウサギは家畜として飼育されているが、むかし狩の腕が重要な婚姻条件だった頃は、人を見るより捕まえている獲物を見て判断していたという話らしい。
「ふふふっ(ユウは合格よ)」
彼の串焼きを食べ終えたので、次は私のパテを披露する番だ。
「レバーも食べて」
ひと口パテを頬張った彼は大げさなくらいに私を褒めてくれた。
「美味しい。即席でこんなにも美味しい物が作れるなんてチェアリーは本当にすごいよ」
「フフフッ」
身をよじるほど嬉しい。これでこそ作ったかいがあるというものだ。
(もう!もう!もう!もう!もう!もう!もう!もう!)
ニヤケてだらしない顔になるのを我慢して、その行き場を失った感情を持っていたパンへ押し付けた。
ぎゅーっ!
ぺちゃんこになったパンをちぎりながら、私は恥ずかしさを隠すようにパテをすくって食べた。
「こうやって食べるとおいしいよ」
彼も私のマネをして食べる。
「おいしいよ」
こうして向かい合って一つの物を分け合って食べていると、もう夫婦のように感じてしまう。
(はぁー・・・・・・幸せ)
ユウはパテを気に入ってくれたのか、最後まで残さずフライパンからすくい取ってキレイに食べてくれた。
「ごちそうさまでした」
「ハイ、ごちそうさま」
「ふー」
満足気に一息ついた彼にお茶でも入れてあげようと思ったのに、ユウはおもむろに立ち上がった。
「早く片付けて、またスライムを探そう」
「え、もう?まだゆっくりしてようよ」
スライムを沢山倒した方がいいに決まっているが、今日はもうウサギを狩ることが出来たからそんなに慌てることはない。それにまだ私は毛皮を綺麗にしておかなくてはいけないのだから。
彼にはゆっくりしてもらって、その間に私が毛皮を綺麗にすればいい。
カバンからカップを取り出す。
「今、お茶を入れるから、ほら座って座って」
ユウはすぐにでもスライムを探しに行きたいといった感じだったが、頭を掻きながら渋々座ってくれた。
「こんなにのんびりしていて大丈夫?」
「ん、何が?」
「その・・・・・・お金の事とか、」
(そうか、気にしてくれてるんだ)
彼に余計な気を使わせないように、私は明るく応えた。
「大丈夫だよ、今日はもう」
苦しいのは確かだけれど、今日はユウがウサギを狩ってくれたので大丈夫だ。それにもし本当にどうしようもなくなった時には私の村に帰ればいい。
(でも、村に帰るってことは・・・・・・)
それは両親に彼を合わせるという事だ。そう意識すると急に恥ずかしくなり、私は毛皮を取りに席を立った。
(まだムリ!ムリ!親に合わせるなんて、心の準備が)
それにユウだってお金が無くなったからという理由で私の村に行くのは嫌だろう。冒険者がダメなら何か手に職を持たないといけない。
お互いの準備が出来るまで、まだ冒険者は続けないといけなさそうだ。
毛皮を取って戻ってきても彼は心配そうな表情だったので、私はウサギの毛皮を見せながら言った。
「ユウがウサギを狩ってくれたから今日はもうゆっくりしてていいと思うんだけど・・・・・・ダメかな?」
洗ったので毛の汚れは落ちた。後は皮に付いている膜を取る作業が残っている。
「まだ皮を綺麗にしないといけないし、ほら、綺麗にしてから持っていかないとケチ付けられて高く買ってもらえないでしょ?」
「チェアリーがいいなら、それでいいよ」
ユウもそういう事ならと納得してくれた。
カップのお湯が沸くのを待つ間、毛皮の膜取りにかかる。
背中の部分は思った以上に綺麗に剥ぐことが出来たのでほとんど手をかける必要は無い。ただ、足の部分はナイフを使ったので所々肉や膜が残っている。
ウサギは他の動物に比べて皮が薄いので、気を付けて剥がさないと破れてしまう。指で地道に剥がしていく作業だ。
作業する様子をユウが興味深そうに覗いてきた。
「エルフは狩をよくするの?」
「うん、するよ。でも昔ほどじゃないってお父さんは言ってたっけ。私はお父さんから狩の仕方なんかを教わったんだよ」
「ふーん、」
「今のエルフはハーブとか植物を育てて売るのが仕事になってるけど、昔は狩った獲物のお肉や毛皮を売る事を仕事にしてたみたい」
「へーぇ、ちょっと興味あるかも」
「そう?お父さんは毛皮の加工もしてるんだよ。ほとんど趣味だけど」
「加工も?オレも教えてもらいたいな」
(意外な共通点発見っ!!)
私は興奮した。両親に合わせる事を考えていたら彼の方から、父の趣味に興味を示してくれたのだ。
(この前もエルフの家に住みたいって言ってたし、やっぱり私の村で暮らすこと考えてくれてるんだ)
ユウならすんなり両親に合ってくれるのかもしれない。私は彼の興味が薄れないうちに毛皮について教えることにした。




