第5章5-15
5-15
・ユウのターン
「洗ってきたよ」
チェアリーが川で洗い終えたレバーとハツを入れた鍋を手に、戻ってきた。
(ついに食べる時がきてしまった・・・・・・)
彼女に準備はゆっくりでいいと言ったが、それは先延ばしにしかならなかった。オレが狩ってしまい、捌くところもすべて見てきたウサギなだけに目の前に置かれた内臓を見ると感慨深い。
鍋の中には綺麗に洗われてツルツルになったレバーと心臓が光っている。
(これはレバーとハツ、これはレバーとハツ、これはレバーとハツ)
自分に、もうこれは食べ物だと言い聞かす。
「これで何を作るの?」
「レバーはパンに付けるパテにしようと思って」
そう言ってカバンから小さなフライパンを取り出す。
「ユウは心臓をお願いね。串焼きにするんでしょ」
(オレがやる事になってる!?)
彼女に心臓を食べるかどうか聞かれた時、串焼きがいいと言ったためにオレが作る事になってしまったらしい。
「ああ、分かった」
ここまでくれば全て面倒をみようと思い、引き受けた。
鍋の中のハツはとても小さく、ひと口で食べてしまえそうなくらいの大きさだ。ウサギの1メートルもあろうかという体格からは想像できないほど小さいので意外だった。
(一人で食べるのもな・・・・・・)
1つしかない物を譲ってもらい自分勝手に串焼きで食べようとしているみたいで気がひけたので、ハツの串を二人分用意することにした。
彼女からナイフを借りてハツを半分に割り、それを流木を削って用意しておいた串に1つずつ刺す。
(ちょっと寂しい、)
半分に割った事でさらに小さくなってしまったハツだけでは、串に隙間が空きすぎていて寂しい。串焼きなのだからネギでも欲しいところだ。
(そうだ、タマネギがあったな)
ちょうど今朝、朝市でチェアリーが買ったタマネギをカバンの中に入れていたのを思い出した。
タマネギを取り出し聞く。
「串焼きにしたいんだけど、使ってもいい?」
「いいよ。私も使うから、半分くらい残してね」
そう言った彼女はフライパンにバターを入れているところだった。
オレがタマネギの皮をむき、串に刺す分のスライスを2枚切り取る。彼女の方は残った玉ねぎを手に持ち、そのまま空中で器用にナイフを使ってみじん切りにし始めた。
(まな板も無しにみじん切りが出来るなんて器用だなぁ)
チェアリーはカバンにかさばるものを入れたくないから、まな板も持ってきてはいないのだろう。アウトドア慣れした彼女を見ているとなんだかカッコいい。
みじん切りにされたタマネギがバターの溶けたフライパンに落ち、ジュワーッと音を立てた。辺りにいい匂いがたち始め、オレの胃を刺激する。
かまどに置いた串もジュウジュウと音を立て始めている。
(うまそうだな・・・・・・ハッ!!)
少し前まで食欲などこれっぽちも無かったのに、焼き始めた途端お腹が空き始めたことに驚いた。
(料理ってすごいなぁ)
肉はそのままだとただの動物の肉かもしれないが、焼くことでそれは料理になるのだ。さっきまでの串に刺さったウサギの心臓は、今はもう串焼きのハツになっていた。
料理は火が使える人間の特権なのかもしれない。
日本でただ住んでいただけでは得られない貴重な体験を今している事にようやく心が追いついた。
(モンスターを狩るばかりが異世界生活じゃないか・・・・・・)
もっとこの世界の事が知りたくなった瞬間だった。
しみじみとハツの串焼きとパンの焼き具合を見ていると、また彼女が手伝いを頼んできた。
「ユウ、チーズを削って欲しいんだけど頼める?」
「チーズ?いいけど、」
カバンから出された紙包みを受け取ると、中から握りこぶし大のチーズの塊が出てきた。
(何を作ろうとしてるんだっけ?パテ?)
レバーのパテというとオレの中ではクラッカーにでも付けて食べる小洒落たイメージだ。自分では作った事も無く、なじみがない。
チーズと一緒にナイフも渡されたオレは聞いた。
「どれくらい削ればいい?」
「たっぷりおねがい」
チーズの塊はそのまま食べるような柔らかい物ではなく、すりおろし器で擦って使うような硬いものだ。
(そうか、チェアリーはナイフ1本で全部こなすのか)
ウサギを捌くのも、タマネギをみじん切りにするのも、チーズを削るのもナイフ1本なのだ。彼女のサバイバル力には憧れるものがある。
彼女に負けないようさっそくナイフでチーズを削り始めた。
グッ、グッ、ググッ・・・・・・
硬いようでいて中心部分はゴムのように少し柔らかく、削る手に力がこもる。
しかし、しばらく続けるうちにコツをつかんで上手く削れるようになった。
ズーッ、ズーッ、ズーッ、ズーッ、・・・・・・
慣れてくると削る感触が心地いい。
一握りほど溜まったところで試しに少しつまんで味見したら舌がしびれた。
「しょっぱ!」
「フフッ、ヒツジのミルクから作られたチーズだよ。保存が利くように塩がたくさん使われていて、水分も少ないから硬くてしょっぱいの」
「へーぇ」
オレがチーズを削っているうちに彼女はフライパンにレバーを入れ炒めていた。それをスプーンで潰すようにしてペースト状にしている。
「チーズちょうだい」
包み紙に溜めておいたチーズを渡すと、フライパンに全て投入された。
更にカバンから紙包みをいくつか取り出し中身をふりかけていく。それは今朝、朝市で買っていたドライハーブのようだ。
良く混ぜ合わせたところで、チェアリーがスプーンにすくって味見する。
「うーん、もう少ししょっぱくてもいいかな?」
チーズの塩気だけで味を決めるらしい。
オレにはなじみのない料理だったので作り方をしっかり覚えようと見ていると、
「ユウも味見して。もう少しチーズ入れた方がいい?」
味見の為、オレにもスプーンを渡してくれた。
少しすくって口にした途端、風味が口いっぱいに広がる。それはレバー特有のクセのある濃厚な味わい。
(レバー好きにはたまらないだろうな)
オレはどちらかといえばレバーはいける口だ。少し血なまぐさいところも旨味のうちだと思っている。
このウサギのレバーはトリに比べると甘みがある気がする。味も獣らしいと言うか、風味が強かった。それに、チーズの塩気が十分効いていて、後味を引く。
「ちょうどいいよ。おいしい」
「そう?じゃあ、食べよっか」
満足した彼女はにっこり笑った。




