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第5章5-9

5-9


・ユウのターン


シャリン!

抜刀の澄んだ金属音を響かせ、オレは剣を上に向けて抜いた。

それに合わせて大きく一歩前へ踏み込みモンスターとの間合いを詰め、そのまま上げた剣を振り下ろす。

ヒュン!

振り下ろした剣が弧を描き、風切り音をたてる。

ゴリュ!

肉を断ち、骨に食い込む手ごたえが剣を通して、手に伝わった。


自分ではカッコよく会心の一撃を放ったつもりだったが、腰が引けていたらしく剣はかろうじて切っ先がモンスターの頭を捕らえただけだった。

しかし、打ち所が悪かったのかモンスターはそのまま地面に突っ伏した。

「ふーっ」

初めてモンスターを倒したことに、少し高揚感を感じる。


・・・・・・・・・・・・。


「あれ?」

聞いていた話では倒したモンスターは粉になって魔宝石を落とすはずだが、目の前のモンスターは横たわったままだ。

(粉にならない??そういうタイプもいるのか?)


よく見るとウサギ型のモンスターは大きな足をピクピクと痙攣させていた。

(まだ倒せてなかったのか。妙にリアルだな)

一撃目はとっさの事だったのでためらう間も無かったが、改めてとどめを刺すとなると気がひける。

(いや、モンスターだから!)

そう覚悟を決めたオレは、例えモンスターとはいえ苦しまないようにと首を狙って剣を刺し込んだ。


グサッ

首からはドクドクと血が流れそれに呼応して、痙攣させていた足はゆっくりと動きを止めた。

しかし、それでも粉にはならない。


「もしかして・・・・・・」

「ユウ!大丈夫!?」

「うおっ!」

声がした方を振り向くと、チェアリーが息を切らせて土手を上がってくるところだった。

(ビビったー)

自分が何か悪い事をしている気がして萎縮しているところへ、突然声をかけられたものだから驚いた。


彼女がオレの足元に転がっている”それ”を覗き込む。

「ウサギじゃない!」

(やっぱりかー)

オレがモンスターだと思って倒してしまったのは、この世界のウサギだったらしい。

(妙に生々しいと思ったんだよ)

引き抜いた剣からは赤い血が滴り落ちた。


故意ではないとしても、地面に横たわるウサギを見ていると罪悪感が湧いてくる。

だが・・・・・・

「すごい!すごい!ユウ、狩り上手なんだね!」

何故かチェアリーは、はしゃいだ声をあげた。

(へ?)

「ねえ、これ私が貰ってもいい?」

「は?・・・・・・いいけど、どうするの?」

「おかみさんのお土産にしたい」

(ああ、そうか。あの宿の名物だもんなウサギ肉)

食べる事で命が無駄にならない方が、オレの罪悪感も薄れるというものだ。


彼女はバックからナイフを取り出すとウサギの前にしゃがみ込んだ。

「ちょっと待っててね」

オレに言ったのだろうか?ウサギに語りかけたのだろうか?

チェアリーはウサギの耳を掴むと躊躇なくナイフで切り落とした。

「え?ちょっと!」

その行動が理解できない。


彼女がナイフと切り落とした耳を両手に持ち振り返った。

「すぐ解体して、血抜きしないと生臭くなっちゃうから。待ってて」

ウサギの耳からポタポタと血を滴らせて、ニッコリ笑う。


(ちょっと、怖いんですけど・・・・・・チェアリーさん??)

オレが声も出せず固まっているうちに彼女はうさぎを仰向けにして、今度はナイフでお腹を裂き始めた。ためらうことなく、まるでパンでも切るかの如く。

(あああぁぁぁー!!)


ウサギのお尻から首元まで、ツーっとナイフを滑らすと鮮血と共に内臓が露わになった。

初めての光景にオレは貧血を起こしたように力が抜け、足がふらふらつきその場に座り込んだ。

チェアリーはニコニコしながら内臓を取り出していく。

(これは食文化の違い、これは食文化の違い、これは食文化の違い)

心の中で呪文の様に同じ言葉を繰り返し、彼女を見守った。


子供の頃、父親と行った魚釣りで釣った魚をその場で捌いて食べた事があった。

父親がまだ尾ヒレをバタつかせている魚の首元にナイフを差し込んだ時には子供ながらに残酷だと思ったものだが、いつの間にか自分も父親と同じように魚をさばけるようになっていた。


テレビなどでも生きのいい魚を捌くシーンは普通に放送されている。それは日本人にとって魚が食材として身近だからだ。

今、笑顔でウサギを解体している彼女にはウサギが身近な存在で、もう食材にしか見えていないのだろう。


内臓を取り出していた彼女が思い出したようにこちらを向いて、オレに聞く。

「ユウはレバー食べられる?お昼に出してあげようか?」

正直、解体しているのを見せられ食欲などこれっぽっちも無かったが、これは断ってはいけないような気がしてオレはうなずいた。

「うん・・・・・・食べようかな」

「苦手な人もいるからね。じゃあ、お昼はパンとレバーね」


ズリュ。

ウサギのお腹に突っ込まれた手が、レバーと思われる部位を取り出す。すべて赤色に染まっていてオレには区別がつかない。

その赤いモノを取り出して、困ったようにチェアリーが固まった。

「どうしたの?」

「うん、置く場所がなくて・・・・・・」

彼女はおもむろに立ち上がると、レバーとナイフを手に持ったまま、血を滴り落としてオレの方へ近づいて来た。

(恐い!恐い!どこのスプラッター映画だよ!)


チェアリーは座っているオレの前で反転するとお尻を突きだしてきた。

「ユウ、カバンからお鍋取り出して」

手が血まみれで困った彼女は下げているカバンから鍋を取り出してほしいのだと言う。


鍋を取り出すぐらい構わないが、彼女は腰辺りにある自分のカバンをお尻で突き上げたものだから座っていたオレからはスカートの中が丸見えだ。

(おぅ!!)

オレは立った!地面から。


生と性が混じり合い変な気分だ。心がざわつく。

彼女に見えてしまったことを悟られないよう、平静を装ってカバンに手をかけた。

「どのへん?」

中を覗いてみるが上の方には見当たらない。

「奥の方」

感触を頼りに手を突っ込む。


「あった」

荷物をかき分け取り出した鍋に、レバーが入れられた。鍋に入っていてもオレにはまだ食材のようには見えない。それは鮮血をまとう臓器だ。


彼女が赤い血の付いた手を見せてさらに言う。

「もう1つお願いしていい?袖が汚れちゃうから腕まくってくれる?」

「いいよ、」

そう応えたがオレは思った。なんで解体を始める前にちゃんと準備しないのだろうと。彼女はしっかりしているようでいて、少し抜けたところがあるようだ。


差しだされた腕を取り、袖をまくる。

その腕はとても白く、手についた血の赤と対極に映って、なんだか背徳的なエロさを醸し出していた。

(チェアリーは分かっているのかな?)

自分が男にとってかなり誘惑的であるという事に。

チェアリーはオレに対して自然に接してくれているようだが、度々ドキリとさせられる事がある。それは狙ってやっているのではなく、どこか抜けたところのある彼女の素なのだと思う。


今朝のひざ枕の時もそうだ。簡単に男の前で寝顔をさらしていたし、今もオレの顔の前にお尻を突きだしていた。

エルフの村の顔見知りばかりの中で育ってきたからなのかもしれない。きっと警戒感が薄いのだ。

(勘違いするな。平然と、意識しない様に、)


「できたよ」

腕まくりを終えると、彼女がまた無垢な笑顔をふりまく。

「ありがと」

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