第5章5-6
5-6
・チェアリーのターン
私は幸せの中に身をゆだねていた。
(う~ん・・・・・・ユウ・・・・・・)
彼と触れ合っている肌から温もりが伝わる。彼の匂いに包まれ呼吸をするたび彼を感じる。手を伸ばせば彼の男らしい肢体に触れられる。
(・・・・・・私達、結ばれたんだ)
夢のようなひと時にうっとりしていると、
ふぅ・・・・・・
耳に吐息がかかった。
(んんっ・・・・・・くすぐったぃ・・・・・・)
私の反応を見た彼が、更にいたずらっぽく耳をもてあそぶ。
じらす様に触れるか触れないかの距離で私の耳の輪郭をなぞっていく。
(ぁぁ、)
いつ触れられるのか私が身をよじりながら待っているのを見て、楽しんでいるようだ。
(うぅん、ダメ・・・・・・ハァ)
不意に彼の指が私の耳をはじいた。
ピンッ!
ビクビクッ!
体に稲妻が走ったような刺激に私は身悶えた。
(ぁんっ!)
私の耳が敏感で弱い事をいいことに、彼は執拗に同じところを攻めてくる。
ピンッ!
ビクビクッ!
(だめだって、だめぇ、・・・・・・ハァ、ハァ)
声も出せず身をよじりながらも、私はその快楽を含んだ刺激に身をゆだねた。
(はぁ、はぁ・・・・・・ゆぅ)
私も子ねこになったように頬ずりして甘え、その愛撫に応える。
「チェアリー・・・・・・」
彼が甘くとろけそうな声で私の名前を呼ぶ。
(ンっぅ!ユウ)
ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・
私達の甘いひと時を引き裂くように、鐘の音が響き渡った。
「うーん・・・・・・エッ!!」
いつもの鐘の音が聞こえた事で、反射的に目を開けるとそこは宿の中庭だった。けど、なぜか視界は真横を向いている。自分の置かれている状況が掴めず平衡感覚は失われ、動けない。
(なんで??)
あの甘いひと時は何だったのか?もしかして夢?ぼんやりする頭がパニックに陥る。
「お、おはよう」
混乱する私の頭のすぐ真上で声がした。
ゆっくり、目だけをそちらに向けるとユウが私のことを見降ろしているのが分かった。
頭が更にパニックを起こす。
(夢じゃない??)
私は彼の太ももを枕にベンチに横になっていたのだ。なぜこんな状況に!?
落ち着いて考えてみた。
(ユウと一緒に中庭に来て・・・・・・おかみさんに貰ったパンを食べて・・・・・・お腹がいっぱいになって・・・・・・)
昨日、ほとんど寝られなかった私は空腹が満たされた事で睡魔に襲われ居眠りしたのだ。寝てしまった私を彼がひざ枕してくれていたらしい。
ユウにひざ枕されながら、夢とも現実とも分からない赤面するような妄想に身悶えていたのかと思うと急に恥ずかしくなり、見下ろす彼の視線を避け私はそのまま固まった。
彼は何も喋らず固まっている私を不思議に思ったのか、また名前を呼ぶ。
「チェアリー?」
耳の側で彼の甘い声が聞こえる。
(ハァ・・・・・・夢みたい)
私はその呼びかけに答えず、もう一度目をつむった。
(ああ!神様ありがとうございます!)
ひざ枕で触れている頬は彼の温もりでほんのり温かい。太ももに添えていた私の手からも体温が伝わってくる。
(あったかい)
それは夢で見ていた光景と同じものだった。
ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・
遠くで朝の礼拝を知らせる教会の鐘が鳴り続けている。
(もう少し、もう少しだけ!)
「チェアリー?」
また彼が私の名を呼んだ。何度でも呼んでほしいが、今度は少し困ったような声のトーンだった。
(ずっとこのままでもいいのに)
私はゆっくり息を吐いた。
ハァーーー。
そして、名残惜しむようにゆっくり息を吸い込んだ。胸いっぱいに彼の匂いを。
すぅーーー。
(シャワー後のいい匂い、)
かぐわしい匂いに頭がクラクラする。足腰には力が入らず、まるで私は狩られた獣の様にぐったりと伸びてしまった。とどめを待っているウサギの気分だ。
立てないでいる私に、また彼が耳元でつぶやいた。
「チェアリー、耳真っ赤だよ?」
!!
「イキャン!!」
恥ずかしさから飛び起きた私は、耳を見られないように手で押さえた。
(あれ?帽子は?)
耳を押さえた手は帽子に触れなかった。頭の上をさするが、かぶっていないようだ。
動揺する私をよそに、ユウがベンチから立ち上がり床に落ちていた帽子を拾い上げる。
(あ、私の帽子・・・・・・)
目で追う私の前でパンパンと帽子をはたき、頭に乗せてくれた。
「・・・・・・ありがと」
エルフは四六時中帽子を被ったままだ。家の中でも常に被っているし、他の種族のように熱いからと言って簡単には人前で取ったりしない。
耳を見られることを頑なに嫌っているという訳ではないが、人目にさらすことに慣れていないので見られている事を意識すると恥ずかしくなってしまう。
(見られた・・・・・・)
ひざ枕している間、ずっと私の耳を見ていたのだろうか?無防備に寝顔をさらして、耳まで丸見えで・・・・・・
(ユウなら、べつにいいけど、)
私はそう思いながらも、かぶせてもらった帽子のつばを握り、ぎゅーっと頭に押さえつけて深々と被り直した。
「もう行ける?」
彼が優しく尋ねる。
「うん・・・・・・」
本当は行きたくなかった。ずっとこのまま彼の膝の上で甘えながら寝ていたい。
「ハァ、」
私は小さく息を吐いてベンチを立った。




