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第5章5-4

5-4


・チェアリーのターン


「ねぇ、朝ごはん食べにいこ」

話を断ち切った私はユウの手を引き食堂へと向かった。

ただ、朝早いこの時間は仕込みに忙しくまだ準備中だろう。中に入ってみると、予想通り人の姿は無かった。


彼を引っ張って今度は厨房へ向かう。

普通なら泊り客が厨房へ入ってきたら嫌がられるだろうけど、私はもう半年近くこの宿にいるため顔なじみだ。それに融通の利くおかみさんは私が厨房へ入ることを気にしない。

それどころか時には手招きして、厨房に招き入れると「作りすぎたから」などと言ってパンをくれる。私はそれを持ってモンスター狩りに行き、途中お腹が空けば、おかみさんの愛情を噛みしめながらお腹を満たしていた。


ユウは厨房に入る事をためらっているのか足取りは重かったが、私は構わず繋いだ手をグイグイ引っ張った。

その訳は昨日のように彼が寝坊助でだらしないと、おかみさんに思われるのが嫌だったからだ。それに2日連続で夕飯に顔を見せなかった事もおかみさんはいぶしがっていた。

今日は朝から二人でいるところをちゃんとおかみさんに見せておきたい。


厨房に入ると、おかみさんと従業員がみんなで揃って輪になり何か話合っていたようだった。

「おや、今日は早いんだね」

入ってきた私達に気付いたおかみさんはそう言った。

(これでユウが変に言われなくて済むわ)


おかみさん達は福音の事を話題にしていたようだ。

その事で従業員たちに小言を言われて、おかみさんが腕をブンブン振る。

「ああ!悲しい!悲しいよアタシは。よかれと思って作ったのに、こんな言われよう!」

彼女が大げさなジェスチャーを交えながら話すものだから、私はその姿に思わず笑ってしまった。


おかみさんと従業員は喧嘩するように話しているけど、それはいつものこと。

客の入りがいい時の厨房は戦場になる。注文が飛び交い、お客さんに料理を出すタイミングを逆算しながら今やるべきことを臨機応変に切り替えていく。だから自分の意見を相手にはっきり通しておかなくては混乱するため、口調も荒々しくなる。


私もお客さんが多いときに、おかみさんから皿洗いのお手伝いに呼ばれ厨房にいた事があるが、そこは戦場と呼ぶにふさわしかった。もちろんモンスター退治の時のような殺伐さは無いのだけれど、ピリピリとした空気は一緒。

そんな厨房でそれぞれに与えられた役割をこなしていても、どうしたってトラブルは出てくる。誰かの手順が狂いはじめると皆にその影響が広まるのは冒険者パーティーも同じだ。


そこでピリピリとした空気の中、おかみさんはワザと自分を茶化す様に振る舞う事がある。いま腕をブンブン振っている様に。それは場を和ませるためにしている彼女なりの気遣いだ。


その事はみんなもよく分かっている為、おかみさんが何か言い出すと皆が自分の役割を思い出し不思議とうまく仕事が回り始める。

きっとおかみさんが冒険者パーティーを引きいても同じように上手く回していくだろう。

私も日ごろからおかみさんの様に気配りの出来る人になりたいと願っている。


「フフフッ」

笑いながら見ていた私に、おかみさんはまかないのパンを差し出してきた。

「ほら、持っておいき。アンタ達は三食パンでもかまわないだろ?」

もしかしたらこのまかないも私達の為に多く作っておいてくれたのかもしれない。こういうところがおかみさんの凄いところだ。皆の事を気にかけ、良く見てくれている。


「ありがとう!」

私は遠慮なく、まかないを受け取った。

彼を連れて来てからおかみさんは特に私の世話を焼いてくれているように感じる。遠慮する方がかえって気を遣わせてしまうだろう。


それでも、いつもお世話になっていることに心苦しさはある。

(なにかお返しをしなきゃ・・・・・・)

そう思うけどすぐにはいいお返しが思い浮かばず、とりあえず今貰ったパンで朝食を摂ることにした。

「ユウ、ベンチに行って食べよ」


中庭に引き返しさっそく紙袋からまかないを取り出し彼に渡す。

「ハイ、」

「ありがとう」

私も1つ取り出し、少しづつ引きちぎりながら食べ始めた。

(今日の具は何かな?)

ちぎった部分から、トロッとした赤いソースが見える。どうやらトマトベースのソースが入っているようだった。

おかみさんが作るまかないパンは厨房で出た野菜くずや肉の切れ端、余った料理など、その時々によって中身の具が変わる。いわば残り物処分も兼ねている。


「おいしいなコレ」

彼も気に入ったらしい。さすが長年厨房を仕切っているだけのことはあって、残り物を使ったまかないといえども味は抜群だ。

「今日のはたぶんウサギの煮込みの余ったソースじゃないかな」

ユウはよほど気に入ったのか、パクパクとあっという間に1つ平らげてしまった。

「沢山あるから、いっぱい食べて」

私はパンの入った紙袋ごとユウに渡した。


紙袋を受け取った彼がさっそく2個目にかぶりつく。

(夕飯食べてないから、お腹が空いてるのね)

私も、トマトソースが染み込み、美味しそうに赤く染まったパンにかぶりついた。

(おいしい)


そのソースはウサギ肉のうまみが凝縮されていてコクがあり美味しかった。

肉などの具はほとんど残っていないようだけど、みじん切りにされたニンジンが沢山入っているのが目につく。

きっとなべ底のソースにみじん切りにしたニンジンを加えてひと手間かけてあるのだ。

ソースはニンジンの甘みで優しく仕上がっていてコクはあるのにくどくなく、これなら何個もパクパクいけてしまう。


私が味わってパンを噛みしめていると、ユウは3個目に手が伸びていた。

(ふふっ)

静かな朝の空気の中、彼と二人だけでベンチに座り、同じ物を食べる。

ゆっくり流れていくこの時間がいとおしい。


じっくり噛みしめながらパンを1つ食べ終わった私は、お腹が満たされ急に眠気を感じた。

(ねむい・・・・・・昨日の夜、ほとんど眠れなかったからなぁ)

まぶたは重く、開けている事ができない。

「すぅー・・・・・・スゥ―・・・・・・」

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