第5章5-3
5-3
・ユウのターン
キュッ!
「よし!」
チェアリーに買ってもらった真新しいパンツの紐を締め、オレは気合いを入れた。
このパンツはズレ落ちないように、紐で結んで止めるようになっている。
(もしかして、ゴムはこの世界にないのか?)
異世界もののラノベを読んできたオレでも、さすがにゴムの作り方は知らない。だが、オレだけが知っていてこの世界にない物に気付くと、それがお金儲けに繋がりそうでワクワクする。
お金儲けはチャンスを待つことにして、とりあえず今日はスライム狩りだ。
服装を整え、部屋の窓から空を覗く。外はだいぶ明るくなってきた。
(チェアリー、起きてるかな)
早く出かけたかったので彼女の部屋まで起こしに行こうかと思ったが、
(早朝に男が部屋を訪ねてきたら嫌だよな)
と、思いとどまった。
どうしようか?と思案し、中庭があることを思い出した。
(あそこで待っていればいいか)
中庭を通らなければ、宿の外には出られない。あのベンチで座って待っていれば、彼女と行き違いになることはないはずだ。
オレは部屋を出て、中庭に向かった。
中庭に差し掛かると、ベンチに先客がいるのが見えた。少しうつむき加減にじっとして動かない。顔は見えないけど、その座っている人物の帽子には見覚えがある。
「チェアリー?」
「ひゃい!!」
何をしているのかと思い声をかけただけなのに、ビックリさせてしまったらしい。
(かわいい)
彼女は信心深い子だ。もしかしたら祈りを捧げていたのかもしれない。邪魔をしてしまったかと思いながら彼女に近づいた。
(なんの穢れも無い、純真な子なんだろうな)
彼女はまるで人々に奉仕をするシスターのように、オレの事に親身になってくれる。
「早いね」
「ユウの方こそ」
「ああ、早く目が覚めたから、このベンチで君を待っていようかと思って」
オレも彼女の隣に腰かけた。
中庭を満たす朝のひんやりした空気が、シャワーの後で火照った体に気持ちいい。
一呼吸おいてから、チェアリーが口を開いた。
「・・・・・・その、もう平気?」
「あー・・・・・・」
昨日、酔っ払ってしまった事を聞かれ、オレは返事に困った。
気分はいい。シャワーを浴びた事で二日酔いの気持ち悪さはすっかり洗い流され、さっぱりしている。
自分の事はいいが・・・・・・
(迷惑かけたんだろうなぁ)
泥酔していた間のことは覚えていないので、オレがどんな醜態をさらしたのか気になる。
「なんか・・・・・・色々、ごめん」
なにかやらかしていないか聞きたかったが、そんな事聞けるわけもなく謝る事しかできなかった。
すると彼女はオレの手に自分の手を乗せてきた。
「いいの。気にしないで」
優しくそう言ってくれたが、何も言わないその気遣いがかえってオレを不安にさせる。
(あー、きっと何かやらかしたに違いない)
チェアリーはベンチを立ち、オレの手を引っ張った。
つられて一緒に立ちあがる。
「ねぇ、朝ごはん食べにいこ」
彼女はこれ以上この話題に触れないようにしてくれたのか、繋いだ手を食堂の方へと引っ張っていく。
(やらかしてる・・・・・・きっと何かやらかしてる・・・・・・)
引っ張られるまま、食堂へ来てみると人は誰も居なかった。テーブルやイスなどは綺麗に並べられていて準備は出来ているようだが、まだ時間が早いのかオープンはしていないようだ。
チェアリーは誰もいない事を確認すると、オレの手を引いたまま遠慮することなく厨房へと向かう。
(勝手に入っていいのか?)
オレは外で待っていたかったのに、チェアリーが手を放してくれないのでそうもいかない。彼女には迷惑をかけっぱなしで頭が上がらないのだ。
素直に引っ張られていくと、厨房に居たおかみさんに見つかってしまった。
「おや、今日は早いんだね」
「おはよう」
「おはようございます」
おかみさんは作業台を従業員達と丸く囲んでいる。
「今、まかないを食べていたところさ」
オレ達の視線に気付いて、手に持っていた食べかけのパンのようなものを見せながらそう言った。
輪の中心にはそのパンのようなものが大きな皿にいくつも山積みにされている。
「昨日は福音のおかげでお客さんがひっきりなしに来てたからねぇ、昼ごはんを食べる間もなかったんだよ。だから今日は手軽に食べられるようにパンにしたのさ」
おかみさんの説明に従業員が口を挟んできた。
「だからって、門はもう開いているのにおかみさんは作りすぎなんですよ。こんなにあったら三食パンじゃないですか」
「そうですよ。それに福音は収まったんだし、今日は門も開いたままだろうって言ってるじゃないですか」
どうやらここでも福音について話し合っていたらしい。
(福音ってなんなんだ?)
未だに蚊帳の外に取り残されていたオレは、門が閉鎖されていたことをおかみさん達の話で思い出した。
話の内容から門の閉鎖は解け、その訳の分からない福音というものも収まったようだ。
「ああ!悲しい!悲しいよアタシは。よかれと思って作ったのに、こんな言われよう!」
おかみさんは悲しいと言いながら腕をブンブン振りだした。その光景は言っては失礼だが、腕を振る度にぜい肉がぶるんぶるんと波打って、なんとも滑稽に見える。
笑っちゃいけないと思ったオレは視線をそらした。が、そらした先で目に入ったチェアリーの表情は、はばかることなくクスクスと笑っていた。
「そうかい食べたくないんだね、なら食べなくていいよ!」
紙袋を取り出したおかみさんは、パンを手に取り袋の中へ次々と放り込んでいく。
「食べないとは言ってないですよ!」
止めるのも聞かず、紙袋にいっぱいになるまで詰め込まれたパンはチェアリーの前にズンっと差し出された。
「ほら、持っておいき。アンタ達は三食パンでもかまわないだろ?」
「ありがとう!」
チェアリーは嬉しそうにその紙袋を受け取った。
「ユウ、ベンチに行って食べよ」
オレは彼女に促され、中庭へ引き返した。




