第4章4-12
4-12
・チェアリーのターン
「ねぇ、知ってる?聖都がなんで四角く区切られてるか?」
私は展望台から見える聖都を指さしてユウに聞いた。
「いいや、知らない。どうして?」
「あれはね、人口が増えるにつれて街中に収まらなくなった人達向けに、元々農地だったところを住宅に作り替えたからなんだよ。農業用の水路は直線に作られていたから、それに合わせて住宅が区画されたんだって。そうやって聖都は大きくなっていったんだよ」
「へぇー、チェアリーは聖都の事も詳しいんだね」
私は頭に思い浮かぶままにおしゃべりを続けていた。彼はこちらを見てうん、うんと頷き返してくれる。
「ふふっ。でね、聖都はその水路が街中に張り巡らされていて、そこを小舟で移動できるんだよ」
「舟で移動するの?」
「それがね、歩いて行けばすぐのところでも聖都に住んでいる人たちは、わざわざ船で移動するんだよ。おかしいでしょ?フフフッ」
彼とのおしゃべりは楽しくて、時間を忘れてしまう。
ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・
遠くの方で時を告げる教会の鐘が鳴っているのが微かに聞こえた。
「もう、こんな時間!」
太陽を見上げて驚いた。もう日は真上に来ている。
「そろそろ、買い物に行こっか」
私達はおかみさんのお使いを済ます為、マルシェへ向かった。
着いてみるとお昼を過ぎていた為、既に人出は少なく露店も店じまいをしている。
「もうお昼過ぎちゃったから、終わりだね」
ここで頼まれた物を買うつもりだったのだけれど、もう少し足を伸ばして商店街に行くよりしょうがない。
それよりも、とっくにお昼を過ぎている。彼がお腹をすかしているんじゃないかと聞いた。
「ねぇ、この先に美味しいブリトー食べさせてくれる屋台があるんだよ。そこでお昼にしない?」
今日は朝食が遅かったのでそんなにお腹は減っていなかったが、ブリトーなら軽く済ませられる。それに喋り続けて喉が渇いたので、屋台でプルケを飲みたい気分だ。
昼食がてら二人でもう少しゆっくりしていたい。
しかしユウは自分の事より、店じまいしている露店を見て心配になったのか、おかみさんから頼まれたお使いの事を気にかけてくれた。
「買い物は大丈夫?お店、片付け始めてるけど」
「大丈夫だよ。他の所で買うから」
お使いはおかみさんが私達に気を使わせないようにお駄賃を渡すため用意した口実だ。もし買って帰れなかったとしても「しょうがないね子だねぇ」とかなんとか言って笑い飛ばすに違いない。
私はユウを連れてマルシェを後にした。
屋台の並ぶ広場には教会とは打って変わって、のどかな日常の風景が広がっていた。
午前中に用事を済ませ午後のひと時をここでのんびり過ごすために集まった人達で賑わっている。思い思いにおしゃべりしながらプルケを飲み、広場は陽気な空気に包まれていた。ここに集まっているのは楽観的な人たちが多いみたいだ。
午後の休憩のお供に人気があるのがプルケだ。
私はブリトーを注文してから、店員にプルケが残っているか聞いた。早い日には午前中でも無くなってしまう。
「プルケまだある?」
「今日はまだ残ってるよ」
「じゃあ・・・・・・1つお願い」
「はいよ!」
おかみさんからお駄賃は貰っていたのだから、彼の分と2つ注文してもよかったのだけれど1つにした。同じ器で飲みかわすのは、とてもドキドキする。昨日のペパーミントの時の様に分け合って飲もうと思ったのだ。
(変に思ってないよね?)
彼は1つだけ注文したことを気にしている様子は無かった。それよりも、プルケが注がれる様子を興味深そうに眺めている。
(プルケ初めてなのかな?)
プルケはエルフの村で栽培されるアガベという植物から作られるお酒だ。ユウはエルフの事をほとんど知らない様だからプルケの事も知らなくてもしょうがないかもしれない。
しかし、コッレの街に来たのも初めてだと言っていたし、聖都の事も知らない様子だった。どこに住んでいたのか気になる・・・・・・
「ハイお待ち」
ハッとした。ユウの横顔を見ているうちに、プルケが目の前に差し出された。
その器には溢れんばかりにプルケが注がれている。
(多すぎじゃない?)
店員の顔をみると、ニッコリと笑っている。きっと二人で来たのにプルケを1つしか注文しなかったから、気を使ってサービスしてくれたのだ。
(今日はついてる♪)
なみなみと注がれたプルケをこぼさないように慎重にテーブルに向う。
「ユウ、コースター持ってきて」
プルケを飲むときはヒョウタンで作った器で飲むのが決まりになっている。ヒョウタンを輪切りにして作られた器は丸いから、そのまま置こうとすると傾いてこぼれてしまうので真ん中に穴の開いたコースターは必需品だ。
なぜこんな使いにくい器で飲むのか最初は不思議に思ったが、これは飲み干すまで置いてはいけないという意味があるらしい事を酔っ払いのおじさんから聞かされたことがある。本当かどうかは怪しいが。
プルケは一度作り始めると発酵しつづけるので日持ちがしない。作ったら急いで飲み干さなければいけないから器を置くことを許されないのだとも、これまた酔っ払いのおじさんから聞かされたことがある。
どちらにしても沢山飲みたい呑兵衛の都合のいい解釈の様な気もする。
テーブルまで来ると、ユウがコースターを私の前に置いてくれた。私から飲めと言っているように。
こぼさず運び終えたところで、彼が尋ねてきた。
「それ、なに?」
やはり彼はプルケを知らないようだ。
「プルケだよ。ユウは飲んだことないの?」
彼は不思議そうな顔でプルケを眺めていたので、私はひと口飲んで見せた。
器を持ち上げるとこぼれそうで、テーブルに置いたまま口で受けに行く。
じゅる・・・・・・
飲みながら、目だけ向けて彼を確認すると、私が飲む様子をしげしげと見てくる。そんなに見られていると少し恥ずかしくなり、私は照れ笑いした。
じゅる、じゅる、・・・・・・ごくん。
ゆっくり飲み進め、一息つく。
「ぅんーっ」
プルケの喉にまとわりつく様な”どぅりゅん”とした飲み心地が堪らない。
彼も飲みたそうに、喉が動いたのが見えた。
「ユウも飲んで」
今日は私が先に口を付けた。彼がどういう反応をするのかドキドキする。
知らない飲物だからか、彼は恐る恐る口を近づけていく。
そのユウの口がプルケ触れる・・・・・・と思った時、彼はこちらを見た。
ドキッ!
私が期待して見ていたのがバレてしまった!?
「これって、お酒なの?」
彼はジュースか何かかと思っていたみたいで匂いを嗅いで初めてお酒だと気付いたらしい。本当にプルケの事を知らないようだ。
「そうだよ」
ドキドキしながら見ていた事を隠すように照れ笑いして答えた。恥ずかしさからか、それともお酒のせいもあってか体が火照って熱い。
改めて彼の口が飲み口に近づく。
じゅる・・・・・・ごくん。
(あ、いった)
ユウの喉の動きに合わせて、私の喉も思わず動いてしまう。
「美味しい?」
「うーん」
彼の反応はいまいちだった。プルケは味やのどごしにクセがあるので、飲みなれない人には敬遠されることもある。
それならと思い、
「ちょっと貸して」
私はプルケを返してもらうと半分まで飲み進め、そこに屋台でオレンジジュースを足してもらった。プルケは色々な果汁で割って飲んでも美味しいのだ。
「これなら飲みやすいよ」
オレンジジュース割にすると、ユウは気に入ってくれたようで喉を鳴らして飲みはじめた。
ゴクゴク・・・・・・ふーっ!
私が口にしたものを彼はゴクゴクと飲み進める。
(やっぱり、こういう事を気にしない人なのかなぁ)
それともこちらが気にし過ぎなのだろうか?
(・・・・・・むふふっ)
彼が飲む姿に、顔が緩んでしまう。私は少し酔いはじめていたのかもしれない。




