第4章4-11
4-11
・ユウのターン
展望台のベンチに座ってしばらくチェアリーのおしゃべりを聞いた後、オレ達はようやくおかみさんに頼まれた品物を買いに向かった。
彼女の案内で路地を下って行くと、人通りの多い見覚えのある場所に出た。
(リンゴを買った所か)
そこは一昨日リンゴを買った市場だった。しかし、この前と違って人出は少なく、既に露店も店じまいを始めている。
「もうお昼過ぎちゃったから、終わりだね」
それはマズいのでは?そう思ったが、彼女に慌てている様子はない。
「ねぇ、この先に美味しいブリトー食べさせてくれる屋台があるんだよ。そこでお昼にしない?」
(もう昼か、)
朝ごはんが遅かったから気にならなかったが、いつの間にか昼時らしい。
昼ごはんにするのはいいが、彼女は何かと寄り道が多い気がする。
「買い物は大丈夫?お店、片付け始めてるけど」
「大丈夫だよ。他の所で買うから」
(本当に大丈夫かな、寄り道してて)
そう思ったが、この街の事を知らないオレは彼女に付いて行くしかない。
市場を抜け路地を進むと、ちょっとした広場に出た。
広場には何件かの屋台が出ており、その周りに簡素なテーブルと椅子が置かれている。そこで思い思いに食べたりおしゃべりして、くつろいでいる人達で広場は賑わっていた。
(観光地みたいだな)
何をする訳でもなく、テーブルを囲んで談笑している光景はどこかヨーロッパの観光地のような雰囲気だ。
人混みを縫って進み、お目当ての屋台を見つけたチェアリーは早速注文しはじめた。
「ブリトー2つね」
「はいよ!何の具にします?」
「私は、えっと・・・・・・チリビーンズ。ユウは?」
彼女に促され、屋台の看板に書かれているメニューを見た。
(ハム、ビーンズ、ポーク、チキン・・・・・・)
色々な種類の具材が書かれている。
(ブリトーはやっぱりチキンだろう)
そう思い、チキンを注文する。
「あと、プルケまだある?」
「今日はまだ残ってるよ」
「じゃあ・・・・・・1つお願い」
「はいよ!」
(ぷるけ?)
聞きなれない言葉だ。
興味が湧いたのでプルケが何か観察した。
注文を受けた店員は側に置いてある瓶に沈めてあったひしゃくを手に取りると中身をグルグルかき回し、そして木製らしき丸底の器を手に取り瓶の中身を注いだ。
その液体は白濁していて、ひしゃくから注がれる様子はドロドロとしている。
(なんだ・・・・・・アレ)
「ハイ、お待ち」
店員は謎の白い液体をチェアリーに手渡した。彼女はそれをこぼさないように両手で慎重に持って、側のテーブルに向かい始めた。
「ユウ、コースター持ってきて」
こぼさないように白い液体の水面を見つめているチェアリーはオレの方を見る余裕も無く、指示する。
「はいコースター。ブリトーが出来上がるまで少し待っててください」
そう言って店員から渡されたコースターは真ん中がくり抜かれたドーナッツ型をしていた。丸い器を置くために作られているのだろう。
プルケが何なのか分からないままオレはテーブルに腰を下ろし、渡されたコースターをチェアリーの前に置いた。彼女はゆっくり慎重に丸い器をコースターに乗せる。
こぼさず運び終え、緊張が解けた彼女は微笑んだ。
「それ、なに?」
「プルケだよ。ユウは飲んだことないの?」
「うん・・・・・・」
見た目はヨーグルトを水で薄めた様な、そんな色をしている。
(すっごく怪しいんだけど!飲むの?それ)
そう思った矢先、彼女はテーブルに置かれているプルケの器に顔を近づけた。帽子のつばが当たらないように手で押さえて、ゆっくりその白い液体をすする。
じゅる・・・・・・
口を器に付けながら、上目遣いにこちらを見る目が笑った。
(やべぇ)
白い液体をすする彼女を見て変な妄想が膨らむ。
じゅる、じゅる、・・・・・・ごくん。
「ぅんーっ」
満足気に白い液体を口に含んだ彼女はかすかに鼻から息を漏らした。そして、口周りに付いた液を舌で舐めとる。
れろん・・・・・・ちゅぱ!
(えっろ!!)
親切にしてくれる彼女にそんな事を考えては失礼だろうと思いながらも、オレの男の部分が反応してしまう。
ゴクリッ!
思わず、オレの喉が鳴った。
それが聞こえた様に、チェアリーがそのプルケなる飲物を進めてきた。
「ユウも飲んで」
彼女は器を持ち上げ、オレに差し出す。
(これも異世界の洗礼か、)
正直、とろみのある謎の液体なんて彼女が口にしなければそれを飲み物として受け付けなかっただろう。
覚悟を決め、器を受け取ったオレは恐る恐る口に近づけた。
するとプルケからは芳醇なアルコール臭が漂っているのをオレの鼻が嗅ぎとった。
「これって、お酒なの?」
彼女に確認すると、
「そうだよ」
ニコニコしながらこちらを見ているチェアリーの白い肌は、お酒の為かほんのりピンクに染まっていた。
(濁り酒ってところか?)
この謎の液体が酒だと分かると少し抵抗は減り、オレは改めてそのプルケに口を付けた。
じゅる・・・・・・ごくん。
それは口に含むと、まだ発酵しつづけているのか僅かにシュワシュワと発砲していた。味は酸味の中に微かに甘みがあり、後味に葉っぱのような青臭さが残る。どろっとしているので甘酒のような飲みあたりで、何とも不思議な飲み物だ。
「美味しい?」
「うーん」
味は酸味があるので好みが分かれるだろうが、飲めなくはない。ただ、どろっとしているのが気になる。
(変な妄想したからな)
「ちょっと貸して」
オレの反応が悪かったからか、チェアリーはオレから器を取り上げ、
ゴクゴクッ!
プルケを勢いよくあおった。
彼女は半分に減ってしまったプルケを手に席を立つと、さっきの屋台へ持って行ってしまった。
「オレンジ足してもらえる?」
(何してるんだ?)
どうやら残ったプルケにオレンジジュースを注いでもらったようだ。
器を持ってニコニコしながら、帰ってきた。
「これなら飲みやすいよ」
差し出されたプルケはオレンジ色と白色の混じり合った、パステルカラーな飲み物になっていた。
オレは彼女からプルケを手渡され、もう一度口にした。
じゅる・・・・・・ごくん。
さっきよりとろみは無くなり、色もオレンジ色で抵抗なく飲める。
「こっちの方が好みだな」
そう言うと彼女は笑ってくれた。
ゴクゴク・・・・・・ふーっ!
抵抗なく飲めるようになったオレはゴクゴクとプルケをあおった。少し歩いたので喉が渇いていたところだ。オレンジの酸味も加わった事で、さっぱりしていて美味しい。
(これは危ない飲み物だな。ジュース感覚で飲める)
アルコール度数がいくつなのかは見当が付かないが、飲んだ感覚ではビールに近い気がする。
オレは普段、酒をほとんど飲まない。飲めないという訳ではなく、たしなむ程度には飲んだりもする。
酒が嫌いと言う訳じゃない、酔っ払いが嫌いなのだ。酔っ払いを見かけると、自分はあんな風に辺りに迷惑をかけないようにと思って、酒は遠ざけている。
「はぁー」
久しぶりに酒を飲んだ事と、すきっ腹にアルコールが入った為、あっという間に酔いが回ったようだ。耳がジンジンと熱い。
「チリビーンズとチキンのお客さまー、」
ブリトーが焼き上がったのか、店員が呼んでいる。
「取ってくるね」
彼女がブリトーを受け取りに立ち上がった。
オレも手伝おうと席を立ったのだが・・・・・・
ガタッ!
思った以上に酔いが回っていたのか、オレは少しよろめいてイスの背を慌てて掴んでしまった。
「大丈夫?酔っちゃった?座ってていいよ」
彼女はオレに声をかけ、ブリトーを受け取りに行ってしまった。
(あー、なんかチェアリーの前では全然いいところがないなオレ)




