第4章4-10
4-10
・チェアリーのターン
おかみさんのお使いで食材を仕入れに行く事になった私達は宿を出た。
「これからどこに行くの?」
「まずは教会に行ってお祈りしましょ」
朝の礼拝の時間は過ぎてしまっていたが、今日はちゃんとお祈りをしておきたい。ユウを誘って教会へと向かう。
礼拝堂の前まで来たところで、いつもと様子が違う事に私の耳が気付いた。外の敷地までザワザワと人々が話している声が聞こえてきたのだ。
中に入ってみると、そこには沢山の人が集まっていた。
「普段からこんな感じなの?」
彼も不思議に思い、尋ねる。
「ううん、いつもはもっと静かだよ。朝の礼拝の時間は過ぎてるし、もっと人は少ないはずなんだけど・・・・・・きっと福音のせいじゃないかな?」
私は近くにいる人達の話に耳を傾けた。
「街の門が閉められたって事は危険って事じゃないの?」
「違うわよ、閉められてるから安全なんだから。もしモンスターが襲ってきたとしても街にいれば安心よ」
「冒険者達は今、ほとんどコッレの街に残っていないって噂でしょ?」
「うちの息子は兵士務めなのよ、もしもの時は真っ先に討伐にかり出されるからもう心配で・・・・・・」
「さっき展望台に行って街の外の様子を見てきたけど、モンスターなんていなさそうだったわ」
「大丈夫だって、そもそも福音なんだから、神様からの祝福なんだよ。何かいいことの前ぶれだよ」
それぞれ不安を抱えているようだったが、危機が差し迫っているようではなさそうだった。
とりあえずは安心し、私はお祈りをする為に空いている席を探した。
(あった)
一番最前列の真ん中の席が空いている。
今日は神様に彼と引き合わせてくれたお礼をちゃんと言っておきたかったのだ。一番前の席なんて感謝の祈りが良く届きそうでいい。
私はユウの服を引っ張り呼んだ。
「あそこが空いてるよ」
私達が来るのを待っていたかのようにそこだけ空いていた席に座り、神様へお祈りを始めた。
(神さま、彼ともう一度引き合わせてくださり、ありがとうございました。彼の隣にいられる、それ以上の事を私は望みません。どうか私達をお見守りください)
ただただ、感謝の念を込め祈り終えると、とても高い充足感が心の底から湧いてきた。
隣でお祈りを終えたユウがこちらを見つめる。きっと私と同じようにこの出会いに感謝していたに違いない。私達はお互い心が通じ合っている気がした。
「もういい?」
「うん、行こうか」
祈りを終えた私達は教会を出た。
それにしても、福音の事が気になる。教会にいた人達もかなり気にしている様子だった。
「ねぇ、この近くの展望台に行ってみない?」
私も街の外の様子が気になり、西の平原が見渡せる展望台に行ってみたいとユウを誘った。
「展望台?いいよ。」
彼は行くことに賛成してくれたけれど、その口ぶりから展望台の事を知らないようだ。
「ユウはもしかしてコッレの街、初めて?」
「そうだよ。チェアリーは?ここに来てどれくらい?」
「私は半年くらいかな。その前は聖都にいたんだよ」
「へぇ、そうなんだ。街の事教えてよ」
彼は私の側に来て横に並び、昨日の様に私の話を聞きたいと言う。
(あぁ、神さまありがとうございます)
彼の隣にいられるだけで幸せを感じ、私はまた神様に感謝した。
「いいよ。じゃあ、何から教えてあげようかな。」
さっきおかみさんに言われた言葉を思い出した。「まずは、いっぱい話して相手の事を良く見な」彼とのおしゃべりは楽しい。言われなくても、もっと沢山話していたい。
ユウを見ると、私が話し出すのを優しく待ってくれている。やはり彼は私の理想とする人だ。
歩きながら街の事について、私は話始めた。
「コッレの街はね、聖都の次に古い歴史があるんだよ。元々はただの山だったらしいんだけどね、昔モンスターの大量発生がコッレで起こって、そのモンスターたちが一斉に聖都に向かってきたんだって」
「うん、それで」
「それでね、モンスターはなんとか倒したんだけど、もうモンスターが発生してもすぐ分かるように山の木を全部切り倒したんだって」
「山の木を全部?」
「そう、木が無い方がモンスターがいてもすぐわかるからって。でね、その時切り倒した木を使って頂上に建てられたのがさっきの教会なんだよ」
「へぇー」
「そのあと教会の周りにも家が建ち始めて、だんだんと今の街の姿になっていったんだって」
コッレの街の歴史は教会で礼拝後に語られるシスターのありがた~いお話で何度となく聞いていたので知っていた。
「ほら、この辺りの住宅は教会が立てられた頃と同じ時代の建物だから、その時切り倒された木が使われてるんだって」
教会を中心として広がっている頂上付近の住宅街はコッレの街の中でも最初に築かれた場所だ。
私の説明にユウが家々を見回す。
「この通りは道幅が狭いでしょ」
「うん、そうだね」
「古い時代は馬車が通る事を想定してないからなんだよ。人が通るぐらいの道で良かったんだって。でも街が大きくなっていくと教会まで馬車が登れるように山を削って、その土で谷を埋めてなだらかにしていったみたい」
「ふーん、」
「だから街を中腹まで下ると、道幅も急に広くなるでしょ。あそこは馬車が通るようになってから建てられた場所だからなんだよ」
「街の事、詳しいね。チェアリーはすごいよ」
(ふふふっ)
ユウに褒められて、私はのぼせた。彼はやはり聞き上手だ。ニコニコしながらこちらの話に耳を傾けてくれている。
(でも、こんな誰でも知っている様な事、)
私はシスターからの受け売りを自慢げに話していたことに気付いた。聞き上手な彼はきっと、自分が知っているような事でもこちらに気を使って聞いてくれているに違いない。
(こんな話が聞きたいんじゃないよね。えっと、何かなかったかな?)
「私、コッレの街で行ってみたいカフェがあってね・・・・・・」
私は話題を変えた。
そうこう話しているうちに目的の展望台へと到着した。教会からは西へ少し行った場所にあるため、そんなに時間はかからない。
「おおっ」
そこから見える景色の良さにユウは驚いているようだった。
「コッレの街の一番西の端なんだよ」
驚くのは景色だけじゃない。この場所は斜面からせり出す様に作られた展望台が自慢なのだ。
「降りよう」
彼が驚いてくれたことが嬉しくなり、私は軽快に階段を下った。
まだ午前中だ。こんな所で油を売っている人はほとんどおらず、私みたいに外の様子が気になったのか、確認に来た人がちらほらといるくらいだった。私達は空いているベンチに腰を下ろした。
「ここは聖都に向かってお祈りが出来るように作られた場所なんだよ」
「へぇー」
モンスターが攻めてきていないか、私は防壁の外側へ目を凝らした。
(フォコン族ならここからスライムだって見えるのかな?)
目を凝らした限りではモンスターの姿は発見できず、眼下に見える聖都はいつもと変わらず穏やかな様相だ。
私は安心して、聖都に向け祈りを捧げた。
(彼をモンスターの恐怖からお守りください)
目を開けると彼も祈りを捧げていた。
展望台は聖地へ祈りを捧げる為に作られた場所だけど、それだけではない。建物に遮られることなく西の空が望めるここは絶好の夕日スポットなのだ。
「ここはね夕方になると、とっても綺麗な夕日が見られるんだ・・・・・・」
夕日という言葉を口にして私は後悔した。
(あ゛あ゛あ゛ぁぁぁーーー!一緒に夕日を見に来ればよかったーーーぁ!)
街をぶらぶらしてから、最後に夕日を彼と一緒に眺めれば最高の休日になったはずなのに!行く順番をミスった事に私は絶句した。
「今度は夕日が沈むところも見たいな」
私が放心しているのを気遣ってくれたのか、ユウがまた来たいと言ってくれる。
「うん!また来ようね」
楽しみはまた今度にしようと、私は返事した。




