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第4章4-8

4-8


・チェアリーのターン


私達は中庭で朝食を摂ることにし、二人でベンチに腰掛けた。

中庭は10歩もあるけば端から端まで渡りきれる程小さな空間だけれど、壁面にはツタが生い茂り、おかみさんが世話をしている鉢植えなども置かれていて、緑に囲まれているため狭さを感じない。

エルフの私には緑が溢れるこの空間はとても落ち着く。


上を見ると、四角い空は澄んでいて青かった。四方を建物に囲まれているから光は正午にならないと射し込んでこない。けどそれまでの間、朝のひんやりとした空気に中庭は満たされる。ベンチで静かにしているとまるで水の中に漂うようにどっぷりと朝の静寂に浸れる。

午後は午後で、太陽の光に照らされた建物が少しづつ熱を蓄えていき、その熱の反射でベンチに座っているとポカポカとして、うたた寝するにはちょうど良い場所だった。


チュン、チュン、

どこからか小鳥のさえずりが聞こえる。中庭はとても静かで、普段は気にする事の無い小鳥の声が際立つ。

ここは食堂から厨房を挟んでいる場所にあるため、食事に来ている人たちの喧騒もここまでは届かない。

宿に向かう時は中庭のアーケードを通るたび、喧騒と閑静を切り替えることができ、この空間はとても良い役目を果たしている。


「はい、サンドイッチ」

私はユウにサンドイッチを手渡した。

「ありがとう」

彼がサンドイッチを頬張る横顔をさりげなく見る。昨日は一晩よく寝た事で疲れも取れたのか、その表情は落ち着いているように見えた。


(大丈夫そうかな)

私が心配し過ぎていたのかもしれない。話しかけても気落ちしている様子はもう無かった。

「おいしいでしょ」

「ああ、美味しい」

この食堂自慢のウサギ料理を食べ進めるうちに笑顔も見せてくれた。

おかみさんの言葉ではないが、朝ごはんはちゃんと食べないと元気が出ないのは本当だ。

私も彼がそんなに落ち込んでいないことが分かり、安心から笑みがこぼれた。


安心出来たところで、ユウに聞いた。

「今日、どうする?」

彼の好きなようにさせてあげようと聞いたのだけれど、ユウは困っているようだった。お金がない事で私に気を使っているのかもしれない。


(そうだ!ここでただ、ゆっくり過ごすのもいいかも)

どうせ門は閉まっているのだし、この中庭で1日過ごすのがいい。彼とおしゃべりをし、喉が渇いたら厨房に頼んでお茶も用意してもらえる。午後になったらここでうたた寝をしてのんびりするのだっていいかもしれない。


(ひざ枕してあげようかな・・・・・・)

午後のひと時にまどろみながら彼の頭を膝に乗せ、あの黒髪を優しく撫でる。そんな想像をすると顔が緩んできた。

(むふーぅ!うふふっ)

焦がれていたあの黒髪を好きに撫でまわせる!


お金も無いのだからどこかに出かけるのではなく、ゆっくり彼と二人だけで過ごすのはとてもいいアイディアだ。そう思い「ここでゆっくりしようよ」と、伝えようとした時、

「アンタたち、ヒマだろう?ちょいとお使い頼まれてくれないかい?」

食堂の方からおかみさんがやって来て言った。

(ゔっ!)

またしてもおかみさんの横やり。

(どこかで私達を監視してるんじゃないかしら?)


少し不審に思いながらも私はおかみさんの問いに答えた。

「うん・・・・・・お使いって?」

「今日はお客が引きそうにないから、手が空かなくてねぇ。代わりに仕入れに行ってきて欲しいのさ」


「どうする?」

おかみさんには良くしてもらっている。その手前、断りづらくユウに判断を任せてしまった。

私としては彼が「疲れているから」とかなんとか言って、おかみさんの頼みを断ってくれるのを望んだのだけれど・・・・・・

「いいんじゃない?」

ユウはおかみさんのお使いを引き受けるらしい。


(しょうがないか)

私も諦めて頷いた。

「急ぐことはないから、その辺ぶらつきながら夕方までに戻ってくればいいよ」

おかみさんは私を手招きする。

「食器返してくるから、ユウは出かける準備してて」

食器を返すついでに、私はおかみさんの後を追った。


通路を少し進みおかみさんはこちらへ振り向いた。

私の背中越しに中庭の方を気にしてから、おもむろにポケットに手を入れる。

「はいコレ。代金とメモね」

手の上には赤い魔宝石と小さな紙切れが乗せられた。


メモを見るといくつかのハーブと野菜の名前が記されている。

「これだけ買ってくればいいの?」

「アンタ、ハーブには詳しいだろ?良いのを買ってきておくれよ」

「他にも買うものがあれば行ってくるけど?」

「それだけでいいよ。残った分は駄賃に取っておきな」

「え!?」


赤い魔宝石はスライムなんかとは比べ物にならない手ごわいモンスターが落とす最上級のものだ。ハーブと野菜を買ってもおつりの方が余りある。


「そのおつりでお昼に何か食べてくればいいよ」

「そんな、ちゃんと返します!」

「いいから、いいから!彼と街でもぶらついてきな。どうせ今日は外には出られないんだから」

「でもっ」

おかみさんの気遣いにはいつもありがたく思っている。けど、さすがにここまでされると申し訳ない。


魔宝石を返そうとする私の手を、彼女はふっくらとした大きな手で包み首を振る。

「アンタが選んだ人なんだから彼をとやかく言うつもりはない。ただ、アンタを見てるとこっちがヒヤヒヤするんだよ」

(それって、どういう・・・・・・)


不思議に思っている私の目を真っ直ぐ見ておかみさんは言った。

「いいかい。こういう事はちゃんと手順を踏んでいくんだよ。わかった?」

「・・・・・・」

どう応えていいかわからない。


「まずは、いっぱい話して相手の事を良く見な」

おかみさんはそれだけ言うと、ニッコリ笑ってから厨房へと入って行ってしまった。

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