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第1章1-6「エルフのターン」

・1-6


カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、キュッ。

「うーん、」

カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、キュッ。

「ウ~ン、」


私は迷っていた。

迷い過ぎてさっきから同じ道を行ったり来たりしている。

少し歩いてキュッと止まり、悩んでからターンしてまた引き返す。私はそれを繰り返していた。

歩くたびカッ、カッ、カッ、と石畳を踏む私の靴音だけが鳴っている。


別に道に迷っているわけじゃない。

迷っているというのは、そこの芝生に倒れている人を助けるかどうかということ。「あなたって子は!どうしてすぐに助けてあげないの!?」そんな風に怒る母の声が聞こえてきそうだ。

(私だって助けたいと思うよぉ~)

心の中で母に言い訳する。



始まりは今朝の事。

朝の礼拝をしに教会へ向かうため、私は起きてすぐ簡単な身支度を済ませ宿を出た。今日は街の外に出てモンスターを狩ろうと、早めに礼拝を済ませるつもりでいたのだ。


朝早くならまだ礼拝に来る人も少なく、心穏やかに祈ることが出来る。

それに私は朝の少しひんやりと澄んだ空気が好き。森の中の空気に似ている。


礼拝だけ簡易的に済ませようと朝食は取らずに出てきた。食事をしている間に朝の礼拝を知らせる鐘がなってしまいそうで、お祈りを済ませたらすぐ宿に戻って朝食にするつもりでいた。


その為、服装もラフだ。

武器や防具などは宿の部屋に置き、これだけはというアイテムをまとめたショルダーバッグを肩から下げ、帽子をかぶって出てきた。

帽子はつば広で、かぶると耳まで隠せる大きめの物を愛用している。それには理由がある。

私はエルフだ。エルフの特徴である長く先の尖った耳を隠すためのに大きな帽子をかぶっている。


エルフ。

森の民、森の中で自然と共に暮らす人々。


私の村には数百人ほどのエルフが暮らしていて、皆顔なじみ。気心の知れた間柄で特に不自由などない。

しかし・・・・・・

(出会いが無いのよ!出会いが!!皆無!)

出会いといったら週に1度、街からやってくる行商のおじさんくらい。


その人とも子供の頃からの顔なじみだ。

行商馬車に私が顔を出すと決まっておじさんは「少し見ないうちにまたべっぴんになったねぇ、早くいい人見つけなよ」と言うのが口癖だった。


(つい一週間前にあったばかりですっ!出会いも無いのにどうやっていい人見つければいいのよ!)

毎回の事なので反論する気も起きず、モヤモヤはいつも胸の中にしまう。

おじさんは私の胸の内など知るはずもなく、ご機嫌取りなのか決まってジャガイモを1つ投げてよこし「1つのジャガイモをみんなで分けるんだよ」そう言った。

訳がわからない。


いい人を見つけろと言われても、村の人たちはみな物心ついた頃からの顔なじみ、家族の様なものだ。恋愛感情などこれっぽっちも沸く余地が無い。


それでも年頃になると縁談の話が回ってくる事もあった。私も話だけなら聞いてみようかと思ったら、相手は従兄弟のお兄ちゃんだった。村の中では年も近かったから選ばれたんだろうけど・・・・・・

(待って!お兄ちゃんとは結婚できないからっ)

私は村を出た。出会いを求めて。


勇んで村を出てきたはいいが時々、村の事や家族の事が頭に浮かんでくる。いや、最近はしょっちゅうだ。

なぜか今朝は行商のおじさんの顔が浮かんだ。


懐かしい顔を思い出しながら教会を目指すうちに、さほど時間もかからず敷地の入り口までやってきた。

こんな早朝だが門は開け放たれている。これには理由がある「どんな種族、どんな人でも受け入れる」という教会の理念に基づき、いつでも門は開かれているのだ。


(だったら、最初から門なんて必要ないでしょ?)

そんな事を思う事がある。森の中で暮らすエルフにとっては、ヒューマンのこういう形式にはめる考え方が無駄のようにも思う。

まぁ、どんな人にでもいつでも門は開かれているという教義自体、異論はないし私は気に入っている。


そのいつでも開かれている教会の門をくぐり敷地に入ったところで、私は地面に転がっているある”もの”に目が留まった。

「キャ!死体!!」

思わず声に出してしまった。芝生の上に人が倒れていたのだ。


普通なら芝生の上で人が転がっていても、昼寝中?くらいに思い通りすぎるが、ここは教会。

魂の入れ物が大地へと帰っていく場所。

私は死を連想した。


(でも、こんなところに置いておくかしら?)

葬儀をこれからするにしても、あまりに無造作に置かれている。

私は確認の為に恐る恐る近づいた・・・・・・

「すぅー、すぅー」

すると、かすかに寝息が聞こえてきた。


「よかった、死体じゃなかった」

エルフの耳はただ大きいだけではない、とても聞こえが良いのだ。普通の人が聞き取れないような小さな音も聞くことが出来る。

今もその死体・・・・・・もとい、寝ている人から5mは離れているけど、小さな寝息を聞き取った。


(なんで、こんなところで寝てるの?)

それはその人の勝手かもしれない。しかし、昼寝にしては早すぎる。

(まだ早朝よ)


この人は一晩中ここで寝ていたというのかしら?

(もしかして、行き倒れ!?)

教会に助けを求めてやってきたが、ここで力尽きてしまったのかもしれない。


だったら助けなければいけないと、すり足でもう少し側まで近づく。背伸びをするようにその人の顔を覗き込んだ。

とても安らかな表情で寝息を立てている青年。


ズキューン!!

その顔を見た途端、私の胸があり得ない音を発したのを大きな耳が捉えた気がした。

「ハァ、ハァ、ハァ、」

心臓が大きく膨らみ、一気に押し出された血液が塊となり押し流され、喉を詰まらせたように息苦しい!

(なに?この感覚、胸がドキドキする)


「すぅ――、はぁ――、すぅ――、はぁ――、」

落ちつこうと深呼吸をしても、ドキドキは収まらない。

(助けなきゃ、)

そう思うが、息苦しくて自分が助けてほしいくらいだ。

「すぅ――、はぁ――、すぅ――、はぁ――、」

深呼吸を続けるうち、鼓動は少し落ち着いてきた。


改めて青年の顔を見ると、苦しそうな顔はしていない。見たところケガもしていない様だ。

(寝ているだけのようだし、このままでもいいんじゃない?)

そう思うことにして、教会に続く石畳の小道を歩きだした。


カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、キュッ。

「うーん、」

やっぱり気になる!放っておけない!

カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、キュッ。

「ウ~ン、」

近くに引き返すも、なぜかその人の事をまともに見ることもできなくなり始めていた。


私は教会に続く小道をずっと行ったり来たり悩みながら同じことを繰り返しているという訳なのだ。


彼を意識しているのは明らかだった。

(いくら出会いを求めていたからって、そんな見ず知らずの人を・・・・・・しかも朝っぱらから、こんな所で寝ているような人に)

自分の気持ちを確かめる様に行っては返すを何度も繰り返して歩いたのが良かったのか、だいぶ胸の鼓動は落ち着きを取り戻してきた。


チラッ

彼の側に行き、横目で確認する。

その人は黒髪で、この辺では見かけない顔立ちをしていた。耳が尖っていないからエルフではない事は確かだ。たぶんヒューマンだろう。

(なんだか人が良さそう)

優しそうな顔立ちに、そう思った。


(着ている物は、チュニックだけ?・・・・・・ンッ!!)

私の目はその人のある部分に釘付けになってしまった!

「わっ、あぁ!み、見えそう!」

芝生の上で寝ているその人は足をこちら側へ向けている。

私が立っている場所からだと丁度、チュニックの隙間から股間が・・・・・・


(えっ!え?やだ、もしかして、はいてない?)

カッ、カッ、カッ、カッ、カッ!

私は素早く、その場を離れた!

(いったい何してるのっ?私っ)

鼓動があり得ないくらい早くなっているのを感じる。

どきどきどきどきどきどきどき・・・・・・


見ず知らずの彼の事が気になってしょうがない。

今度は少し離れた場所から様子をうかがった。


黒い髪はエルフの中ではかなり珍しい。

(黒髪なんて、ヒューマンでもそんなにいないんじゃないかしら?)

黒っぽい茶色や、灰色なら見たことがあるが、彼の髪は真っ黒で、艶があり、コシが強そうだった。

私のコシの無い猫っ毛とは違い、ハリのある黒髪だ。


「あの黒髪、撫でてみたい」

突然そんな衝動にかられた。その衝動を抑えられず、考えると同時に私の体は動いていた・・・・・・彼を起こさないよう、ゆっくり、静かに、慎重に。

はたから見たら、倒れている人に忍び寄る私は不審者そのものかも。


私はさっきから何をしてるの?そう思っても、そう思ってはいても。

(これは介抱よ、そう介抱!)

言い訳するように心の中でつぶやきながら、足音を消して静かに近づく。


「ハッ!!」

やましい事をしているせいか、誰かに見られている様な気配を感じて私は後ろを振り返った。

けど、誰もいなかった。

辺りも見回す。そろそろ礼拝を知らせる鐘が鳴る頃だが、まだ人はいない。

(まだ大丈夫。大丈夫だから・・・・・・はぁ、はぁ、はぁ)

本当に私は何をしているのだろう?


彼の側に近づき、あと少しで黒髪に触れられるというその時、

「すぅー、すぅー、すぅー・・・・・・うぅ~ん!!」

(起きる!!)

そう思うが早いか、私は駆け足で離れ、敷地内に植えられているイチイの木の後ろへと身を隠した。

(何で隠れたのっ?やましい事なんて・・・・・・ほら、あれは介抱だから!)

心の中でまた言い訳をしつつ、彼の様子を枝をかき分け覗き見た。


「なんじゃこりゃー!?」

ピクッ!!

彼が急に叫んだので、体が反応する。

(私じゃないです!!)

なぜか心の中で謝る私。しかし、本当にまだ何もしていない。

(まだ、未遂よ!)

だだ、私は頭を撫でて介抱してあげようとしただけ、それだけっ!


どうやら彼は困っているみたいだった。

木の陰から観察して今更気付いたが、彼は軽装の上、荷物が見当たらない。本当に行き倒れていたのだろうか?

お金などを落として困っているのかもしれない。


ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・


彼の様子をうかがううちに、朝の礼拝を知らせる鐘が鳴りはじめた。

(ああっ!今日は早く礼拝を済ませて、モンスターを狩りに行くつもりだったのに!)

しかし、モンスター狩りの事などどうでもいい。それよりも彼の事が気になってしょうがない。


(困っているみたいだし、声をかけてみようかな?)

そうは思うが足が動かない。茂みに隠れてしり込みしているのが自分でも分かる。

さっきから私はどうしちゃったのかしら?行動と思考がまるで噛み合わず、ちぐはぐじゃない。


ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・


行くのか、行かないのか、せかすように鐘が鳴っている。

まごまごしている内に鐘の音に吸い寄せられた人々が教会の敷地へと集まり始めていた。

(早く行かないと、誰かに取られる!!)

意を決して、彼の方へ歩き出した。


取られる?何を考えているの私は。彼は誰の物でもないだろうに。

(私はただ、困っていそうだったから・・・・・・)

どきどきどきどきどきどきどきどきどきどき!

頭で考えようとするが、ドキドキしすぎて考えにならない。

(落ち着け私の心臓!自然に、怪しまれないように)


芝生の上でへたり込んでいる彼の前に立ち、手を差し出しながら言った。

「大丈夫ですか?(言えた!!)」

声は裏返ることなく、なんとか自然に話しかけることができた。第一関門クリア!けど、表情は既に崩れそうだった。

(だめ!ニヤケそう!)


「ん?」

首を少し傾け、可愛く、印象がいいように彼に向けて必死に作った微笑みを向ける。意識しすぎて、逆に顔が引きつってないかが心配になる。


顔を上げた彼は一瞬驚いたような表情をしたが、私が差し出した手を取ってくれた。

(!?あったかい)

握った彼の手は驚くほど暖かった。


逆に私の手はというと、血の通わない死体のように冷たい。彼の手との温度差で気付かされる。

(私の心臓はどうしちゃったの?こんなにドキドキしてるのに、血は流れてるの?)

鼓動だけが早く、血が巡らない。めまいがするようだ。


彼を起こすため手に力を込める。が、思うように力が入らない。

(あぁ、朝ごはん食べてくればよかった)

腕の力だけじゃ無理だ。私は足を支点にして全体重を後方へかけた。

男性の体の重さを感じる。


後ろへのけぞった瞬間だった、ふわっと宙に浮くような感覚を味わった。

彼が起き上がった為、勢い余って今度は私の方が倒れそうになったのだろう。


「キャ!」

声を出すより早く、私は力強く腕を引っ張られた。

(あぁ・・・・・・ちかい!)

彼に引きよせられた体は、お互いの息がかかるほど近かった。


思わず、息を飲んだ。

(ゴクリ・・・・・・)

飲んだはいいが、今度は呼吸の仕方を忘れたかのように吐くことが出来ない!くるしい!


「・・・・・・ぁ、う、」

エルフでも聞き取れるかどうかの小さなつぶやき。言葉と言うより呼吸だったのかもしれない。

彼の目が私を捕らえて離さなさず、喋ろうにも何も言えない!

私はその熱い視線に耐えられず、目線を外した。


・・・・・・


沈黙が流れる。

(このシュチュエーションって、もしかして!?)

沈黙とは真逆に頭の中はパニックを起こしてわめき出す。


(えっ!なに!?なに!?なに!?えっ、も、も、も、もっ、もしかして私、キスされる!!!えっ、あ?ええっ~、ま、ま、ま、まっ、待って!え?ウソでしょ?そんな出会っていきなり・・・・・・)

頭の中ではひっきりなしに喋っているけど、それが言葉として出てこない。


力強く腕を引っ張られ、体を寄せられた時、私はひょいっと抱き上げられた小動物のようだと思った。

身動きがとれず、何も喋れない。為すがままに可愛がられる愛玩動物。


(ありえない)

しかし、そう思いつつも彼に身を任せようとしている自分もいる。名前もまだ知らないのに。

(キスをするのに帽子が邪魔じゃないかしら・・・・・・)

そんなことまで考えてしまう。


その時、神さまのいたずらか「帽子が邪魔なら取ってあげよう」と言わんばかりに急な突風が吹き、かぶっていた帽子が飛ばされてしまった。

「あっ!」

2人同時に同じ言葉を発した。


私は飛ばされた帽子を目で追った。

「エッ?・・・・・・ルフ」

ピクッ。

彼が驚いたようにつぶやいた言葉に、私の体が無意識に反応する。


エルフであることがバレてしまった・・・・・・

エルフだという事を恥じているわけではない。恥じる必要もない。

だけどこの街は主にヒューマンが多い。差別というほどでもないれど他種族はどうしても避けられる傾向がある。私もそれを経験してきた。


この人も他のヒューマンと同じだろうか?私はおずおずと言葉に出した。

「ええ・・・・・・確かに私はエルフよ・・・・・・」

「ははっ・・・・・・」

彼がかすかに笑った。私の良く聞こえる耳はそれを聞き逃さなかった。

その乾いた笑いを聞いたらさっきまで高ぶっていた鼓動がスゥ―っと、落ち着きを取り戻してきた。


直視することも出来なかった彼の顔を、今度は見返す。その目は泳いでいて私の事は見ず、後ろばかり気にしている。

私は何を一人で勘違いしていたのだろう?

(バカみたい・・・・・・)


冷めた口調で聞いてみた。

「エルフを見るのは初めて?」

もう行こう・・・・・・私は手を放し、一歩後ろへ後ずさった。


が!?


彼は私の肩を急に掴み真剣な顔をした!

ズキューン!!

本日、二回目!!今度こそエルフの私なら聞き取れるのではないかという大きさで心臓が脈打った!

どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき!!


痛いくらいに私の肩をガッチリ掴み、彼がマジマジと私の顔を覗き込む。

(なに、この人!もうっ!)

どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき!!


(めっちゃ、見られてる!!)

意識すればするほど鼓動は早くなる。顔が熟したリンゴのように真っ赤になっているだろうなと想像した。そんな想像をすれば、ますます顔が赤くなっていくようだった。

どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき!!


(う~ぅ、耳、赤くなってるんだろうな)

エルフの耳を嫌いだと思ったことは無いが、1つ欠点があるとすれば緊張すると耳が真っ赤になる点はどうにかしたい。

耳はジンジンして熱く、鏡で見なくても顔から耳の先まで真っ赤な事は想像がつく。

(緊張しているのがバレバレじゃない!)


教会に向かう人たちが、後ろでこそこそ喋っているのが聞こえてくる。

「あら、あの二人・・・・・・」

「ふふっ・・・・・・」

一人で浮かれて、落ち込んで、またドキドキして。しかも周りには人が!!

(ああっ!はずかしい!!)


”穴があったらかぶりたい”

小さい頃に教えてもらったエルフの格言だ。

鍋でもバケツでも穴があったらかぶってこの真っ赤な耳を隠したい。まさに今がそんな状況だった。


(そうだ、帽子!)

私の帽子はどこへ飛んで行ってしまったのだろう?

(神さまのバカ!)

真っ赤な耳を隠したい!とにかく恥ずかしい!とりあえず帽子をかぶりたい!

そう思い、やっとの思いで言葉が出た。


「とりあえず帽子をかぶらせて。それから・・・・・・ゆっくり、ね?」

絞り出すようにそう言ったつもりだったけど、ちゃんと言えたのか自分でも分からない。

彼の腕を抜け、急いで飛ばされた帽子を拾いに行く。

(それから・・・・・・ゆっくり??私は何を期待しているの?!ただゆっくり話し合いましょうって意味だから!も~っ!恥ずかしい!!)


地面に落ちた帽子を拾い上げた時、背後から大声で叫ぶ声が聞こえた。

「うおーーーーぉ!っしゃーーーー!!」

(えっ?)

振り返ると彼が空に向かって叫んでるじゃないですかー!!

(あ、あ、あ、あ、ぁぁぁ!!!何か変に勘違いされたんじゃ!?)

もう耳どころではない、全身が真っ赤に燃え上がり火を噴きそう!


固まってぼう然とする私をよそに、彼は何か語り始めた。

(え?えっ!?なに??)

私は頭に血が登りすぎていて、自慢の耳でも上手く聞き取れない。

「青い空!白い雲!・・・・・・そして、緑の大地・・・・・・麗しきエルフ!」

”麗しきエルフ”その言葉はハッキリと捉えた。


彼と目が合う。

(これってもしかして!?)

「なんと美しい事か!この・・・・・・祝福あれ!」

彼は腕を広げ周りの人たちに言い放った。

(公開告白!!)


ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・


私たちを祝福するように教会の鐘が鳴っている。

ボフッ!!

私は帽子の両端を掴むと、それを破れんばかりに勢いよくかぶった。

そして駆けだした!


(ありえない!ありえない!ありえない!!)

頭でそう繰り返していたけれど、顔はにやけてデレデレに緩んでいるに違いない。こんな顔を見せられるはずもなく逃げてしまった。


急いでイチイの木陰にまた戻り、舞い上がった気持ちを落ち着かせようと息を吐く。

「ハァー・・・・・・見つけたよ、私のいい人」

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