第4章4-6
4-6
・ピコのターン
(うー、食べすぎたー)
コウの町の屋台を全て食べ回るつもりでいた私だが、さすがに制覇はできず満腹になって座り込んだ。幸福に満たされ私のお腹はパンパンに膨らんでいる。
断わっておくけど、ただ食欲の限りを尽くして食べ歩いていたわけではない。通行止めが解除されるのを待っているついでに、もしかしたら黒髪のヒューマンがいないかと見張っていたのだ。パパの依頼は忘れていない。
屋台からは広場を見渡せるので足止めを喰らって立ち往生する人達が集まっていて観察するには丁度よかった。
しかし、これだけの人が居ても黒髪のヒューマンは見つからない。やはりコッレを拠点にしている冒険者なのだろうか?ただ、そのコッレに行こうにもいっこうに通行止め解除の知らせが入ってこなかったため私のお腹は膨れ上がる一方だった。
コウの町へはお昼より少し前に着いたのだったが、そろそろ日も傾き始めた。だけど馬車乗り場にはまだ人が溢れかえっている。
一時は歩くこともままならない程に混雑していたのも、皆それぞれに居場所を求めて散っていき、今は幾分落ち着いている。
ここにいるのは解除の知らせをじっと待つ人たちが残っているようだった。今日中になんとか目的地に行きたいのだろう。
ベンチというベンチは人で埋め尽くされ、段差という段差も座って待つ人たちに埋め尽くされている。
私はというと、自分のリュックをイス代わりにしてちょこんと座りお腹が落ち着くのを待ちながら、行きかう人たちを眺めた。
(いないわねぇ・・・・・・)
目の前を通り過ぎていく人を一人づつチェックしているのだけれど、目的の男性は見つからない。そもそも黒髪の人すら見かけない。
(手掛かりが無さすぎだわ)
たまたま通りかかった時に見かけた何のゆかりもない人を探そうというのが、最初から無理がある気がする。
彼はつば広の中折帽をかぶり、体にはストールを羽織っていた。どこにでもいそうなヒューマンの格好だ。ただ、腰にギルドで貸し出されている剣を刺していたので冒険者であることは察しがついた。
(バッチを見てればねぇ・・・・・・)
冒険者ギルドで渡される会員バッチに記されている数字さえ分かれば、それが手掛かりの1つとなる。それを元に冒険者達に尋ねれば誰だか分かったかもしれない。
(ちゃんと見えるところに付けておきなさいよ!)
私はいつも着ているコートのフードにバッチを付けている。背の低い私は見下ろされることが多いからあえて、頭のてっぺんの相手に見えやすい場所に付けているのだ。
堂々と付けているのは、もちろん見た相手に冒険者だと分からせるためだ。これを見れば私が小さな子供じゃなく、ピコ族の冒険者なのだと、誰が見ても分かる。
だが他人の事など意外と見ていないものだ。私のバッチに気付いている人がどれだけいるのか分かったものではない。そう言う私も、黒髪の男性の特徴などほとんど覚えていなかった。
彼の特徴といえば、黒髪でヒューマンということと、背は高すぎず低くも無く、体型はガッチリという感じではなかった・・・・・・気がする。
とにかく大柄ではなかったのは確かだ。まぁ、私から見たらピコ族意外みんなデカブツではあるが。
他に覚えている事といえば、女性を連れていた。大きな帽子をかぶり、その下にはサラサラとしたブロンドの綺麗な髪を垂らして、顔立ちのスッキリした美人であることはチラッと見ただけだが感じた。
(そういえば、エルフっぽかったわね)
エルフの特徴である耳は帽子に隠れて見えなかったので断定はできない。
男女2人組の冒険者で黒髪のヒューマン。
馬車乗り場には人がごった返していたが、その条件に合う2人組はいなさそうだ。
人混みを観察しているうちに、なんだか辺りがざわつき始めた。側にいた人達の話し声が聞こえる。
「通行止め、解除されたんじゃないか?馬車が動き始めたぞ」
ざわめきは波となって一斉に周囲に伝わり、皆が馬車に乗り込もうと搭乗場所にはあっという間に列ができあがった。
(出遅れた・・・・・・)
お腹がいっぱいで、動きたくない。立とうかどうしようか迷っているうちにも列は伸びていく。
馬車なら今から出発すればコッレの街へは日暮れ前になんとか着けるかもしれない。歩きだと完全に日は暮れてしまう。
(今日はコウの町に泊まろうかな)
混雑した馬車に揺られるのは、乗り気がしない。
「よっと!」
私は宿を探すため座っていたリュックから降りた。
周りでは屋台も早々と片付けを始めている。まだ日は明るかったがお客が一斉に馬車へ向かった為、今日の仕事は終わりの様だ。これだけの人が立ち往生していたのだから、さぞ商売繁盛したに違いない。
馬車乗り場を離れようと歩き出すと、片付けをする一件の屋台に目が留まった。炒り豆を売っている店のようだ。
馬車の旅で小腹がすいた時、手軽に食べられるように売られている定番商品の炒り豆。
(そういえば、また作っておかないといけないわね)
私はいつも西の山へ遠征に行く際には手作りの携行食を持って行く。豆はその携行食の材料になる。
山を下りたので次の遠征に向け、こういったものを少しずつ準備しなくてはいけない。
炒り豆の屋台へ近づき店主と目が合うと、売れ残りを処分するチャンスと見て笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい。今日はもう仕舞いだから安くしとくよ」
とても繁盛したのだろう。残っている豆の袋は数袋しかない。
「全部貰うわ」
「そいつは助かるよ。ならコレはおまけね」
店主は片付けていた荷物の中から包みを取り出し渡してくれた。
「ドライフルーツだよ」
ドライフルーツも馬車の旅のおともとして人気があるものだ。それにちょうど携行食の材料として使える。
「いいの?ありがとう」
屋台を後にし、私は宿を探しに向かった。
(今日は一日じっとしてたから、かえって疲れたわぁ)




