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第4章4-2「チェアリーのターン」

4-2


・チェアリーのターン


私は宿の中庭に置かれているベンチでユウが起きてくるのを待っていた。

「はぁー」

朝の礼拝に二人で教会へ行きたかったが、彼は朝食時を過ぎても起きてこない。昨日のスライムの事もある。ゆっくり休ませてあげようと、起こさず待っているのだけれど・・・・・・

「はぁー」

ため息ばかり出てしまう。


ユウは昨日、夕飯も食べに来なかった。よほど落ち込んでいるのではないかと心配になる。

(一緒にいてあげたかったのに)

おかみさんの配慮という思いがけない横やりに合ったため、私は昨日の夜、悶々としてろくに眠れなかった。目を閉じればベンチでもそのまま眠れそうだ。


「なんだい、アンタまだ居たのかい?お祈りは?」

ビクッ!

目を閉じてうつらうつらとしている所に、食堂から宿の方へと向かうおかみさんが声をかけてきたものだからドキッとした。

私のモヤモヤした気持ちを彼女はまた見透かしているのではないかと思って構えてしまう。


「まだ彼が起きてこなくて」

「女の子を待たせるなんて、とんでもない男だねぇ。アタシがたたき起こしてきてやろうか?」

私が慌てて止めようと立ち上がると、おかみさんは笑って去っていった。


「ハァ、」

ベンチに座り直し、持て余した時間で今日の予定を立てることにした。

バックから財布を取りだし、いくら入っているか確認する。

「いち、にい、さん、・・・・・・」

そんなに多くはないけれど、私が河原で狩ったスライムの魔宝石で数日はやりくり出来るはずだ。


昨日の今日で、またスライムを狩りに行くというのはユウにとって酷なことだろう。今日、一日くらいはゆっくり過ごしてモンスターの事を忘れさせてあげたい。

(朝ごはん食べたら、お祈りに行って、その後に街をちょっと散策して・・・・・・そうだ!買い物もしないと)


財布の中身とにらめっこしながら算段をつけているうちに用事を済ませたおかみさんが戻ってきた。

「アンタまだ朝食たべてないんじゃない?先にお食べよ」

「うん。でも、彼と一緒に食べたいから」

おかみさんはハイ、ハイ、といった感じに手を上下に振りながらそのまま行ってしまった。


彼女の姿が食堂の奥へと消えたのを確認して、私はユウの部屋まで様子を見に行った。

部屋の前に立って耳を澄ませてみる。

・・・・・・

さすがに扉越しでは、私の良く聞こえる耳でも小さな寝息を聞き取ることは出来ない。

というより、さっきから何度も部屋と中庭を行ったり来たりして、扉の前に立って耳を澄ましているのだけれど、物音がしない事で不安が募っていく。


ノックして起こそうか?でも落ち込んでいるのならそっとしておくべきか?また同じ理由で迷っているうちに、ギシギシッとベットの軋む音が聞こえてきた。

(あ、起きた?)

耳を澄ます。バタバタと部屋の中を歩く足音も聞こえる。


私はドアをノックした。

コン、コン、コン。

ドタドタと慌てた感じに足音が近づいてきて扉が開く。ユウはいかにも今起きたばかりの顔だった。

「おはよう」

なるべく自然体を心掛けて声をかけた。

「ああ、ごめんっ!寝すぎた。今準備するからっ」

「ううん、いいの。慌てなくても大丈夫だよ」


彼が床に脱ぎ捨てられていた防具を拾い、急いで身に付け始める。

「防具は付けなくてもいいよ。まず、朝ごはん食べに行こ」

脱ぎ捨てられている防具が目に付き、片付けてあげようと部屋へ入った。

(脱ぎっぱなしにして・・・・・・よっぽど疲れてたんだ)

足元に落ちている籠手を拾うためかがみかけた瞬間、クラっ!っと、立ちくらみの様な感覚に襲われた。


「あっ、」

バランスを崩しよろめく。と、彼が腕で抱えて支えてくれた。昨晩はなかなか寝付けなかったから、睡眠不足かもしれない。

謝ろうと顔を上げたらユウと目が合った。

(あぁ、近い・・・・・・)

彼の腕に抱かれるこの状況を私は昨日の夜、何度も夢見ていたのだ。

(・・・・・・ずっと、待ってたんだから)


「大丈夫?」

耳に吐息がかかる程の距離でつぶやかれた。

(ぅんッ!)

声は殺したが、抑え込んでいた気持ちが溢れてしまいそう!

すぐ隣にはベットがある。彼の胸に身をゆだね一緒に倒れ込んでしまえば・・・・・・


コンッ!コンッ!コンッ!


私の願望を邪魔するように、扉をノックする音が聞こえた。

「ハイ!ハイ!ベットメイキングの時間だよ!」

開け放たれたままだったドアの前に、おかみさんが立っている。


ズカズカと部屋に入ってきた彼女は、私達とベットの間にその恰幅の良い体を押し込む。

「朝ごはん食べないから、フラフラしちまうんだよ!シャキッとおし!」

おかみさんはその巨体に似合わず、テキパキと動く。部屋に1つある窓を開け放って換気をし、床に転がった防具を拾って机に置くと、手早くシーツをはぎ取り仕事をこなした。


またしても横やりを入れられたことにあっけに取られて、二人しておかみさんの作業を見つめるしかなかった。

「さあ、出て、出て!朝ごはん食べに行きな」

仕事を終えたおかみさんは私達を部屋から追い出し、食堂へ行くよう促す。

(また邪魔された・・・・・・)


追いやられるように食堂へ来てみると、お客さんがいっぱいで店内はほぼ満席だった。

座る場所に困っている私達に、おかみさんが言う。


「今、街の外に出れないから、みんな仕事にならなくてねぇ。暇を持て余してるんだ。待ってても席は空かないよ」

「え!?外に出られないって、なんで?」

「昨日の福音はアンタ達も聞いただろう?」

確かに昨日の夕方突然、福音を聞いた。おかみさんとも何が起こっているのかと話したのだ。

「お客さん達の話によると、コッレの街に居た全員が福音を聞いたようなんだよ。神様からの祝福だって喜んでいる人もいれば、良くない事の前触れじゃないかって心配する人もいてねぇ」


福音はモンスターを倒すと極稀に、頭の中へ直接鐘の音が聞こえる現象だ。それをアイオニオン教では神様からの祝福としている。

普通、街にいるだけで聞くことの出来るものではない。モンスターを倒すことで初めて聞くことが出来るものだから、パーティーメンバーの誰かが福音を受けると皆で感謝するのが習わしだ。

だからモンスターのいない街の中で、しかも住人全員が聞くなどおかしい。


「それで街の外の安全が確認できるまでって事で、さっき門が閉鎖されたようだよ。閉まる前に朝一で来た行商人は道中変わった様子は無かったって言ってるからすぐ閉鎖も解かれると思うけどねぇ」

(ちょうど良かった)

今日はユウを休ませてあげようと、モンスターを倒しに行くつもりは無かったのだから。街を巡るのに丁度いい口実が出来た。

それに福音は神様からの祝福だ。気にはなるけど、悪い事が起きるとは思えない。


「さあ、さあ、そういうことだから、朝ご飯食べな。」

「でも、座るところが・・・・・・」

「ちょっと待っといで」

私達に待つように言うと、おかみさんは厨房へと入って行った。すると待つまでもなく、すぐに手へお盆を乗せ戻ってきた。


「朝食は過ぎちまったから残り物だけど、中庭で食べな」

渡されたお盆の上にはサンドイッチとスープが乗っている。

「わぁ、ありがとう。いくらですか?」

「いいよ、いいよ、残りものなんだから。食べてもらった方が片付いてありがたいくらいさ。アハハッ!」


本当に気の利く人だ。私達がお金に困っているのを知っていて、残り物などと言って気を使わせないようにしてくれたに違いない。しかもすぐに運んできたところからすると、最初から用意して待ってくれていたのだろう。


私達は朝食をとるため中庭へ戻った。

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