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第4章4-1「ライリーのターン」

4-1


・ライリーのターン


「ハァ、ハァ・・・・・・うッ、もうだめっ・・・・・・」

息の上がったココが辛そうに、地面へ膝をついた。

(弱音を吐く余裕がまだあるみたいね)


動きを止めたココに容赦なくスライムが襲いかかる。

ドコッ!

まるまったスライムが勢いよく体当たりした。

「ンっ!!」

ココが声にならないうめき声をあげる。


一撃、一撃は大したことなくても何度も体当たりを喰らえばダメージは蓄積していく。やがて立つことも出来ず、倒れ込んだところで、口と鼻を塞ぎ窒息させようと張り付いてくる。

スライムとの戦いでは立ち止まる事は死を意味する。弱いからと油断すればやられることもあるのだ。


「立てっ!!ココ!死にたいのかっ!!」

私はココに怒声を浴びせた。


「ンーーーーッ!!」

ココは歯を食いしばりながら立ち上がり剣を振るったが、足腰はもうフラフラでむやみやたらに振り回しているため余計に体力を消耗していくばかりだ。

ココのモンスターに対する戦闘経験は見るからに浅い。


私は弓を引き、ココの後ろで襲いかかろうとするスライムを射貫いた。

ヒュン、・・・・・・ブシャー!

ヒュン、・・・・・・ブシャー!

ヒュン、・・・・・・ブシャー!


ココは自分の事で手一杯で私が助けている事には気が付いていなさそうだった。それでいい。すぐ助けてもらえると思っていては訓練にはならない。

これは気の緩んだココとアデリナに喝を入れる為の罰だ。


二人にはスライムの群れの討伐をさせている。

私はその様子を昨日、馬車から下ろしたままに積まれている河原の石の上から見下ろしながら時に怒鳴りつけた。


前方の草原の中にポツンと残っている浮島の茂みからはスライムがワラワラと這い出してきていて、その集団が波の様にこちらへ押し寄せて来る。かれこれ数百匹は倒したはずだ。

周囲には拾う事も後回しにされた魔宝石がそこかしこに転がってキラキラと光っている。


側には共闘しているエリアス達もいる。

彼らも息が上がり始めていたが、その表情にはまだまだ余裕がありそうだ。

「しかし、この数ハンパないな!っと!!スライムでもこれだけ倒せば、かなりの稼ぎになるんじゃないの?ほいっと!!こりゃあ、今晩はご馳走をたんまり食えそうだ!はッ!!」

フィンがしゃべりながら器用にスライムを切り倒していく。


「黙って戦えないのっ!?ご馳走じゃなくアンタの口にスライム突っ込むわよ!ハァ、ハァ、」

メリーナが疲れからかイライラしたようにフィンに食ってかかる。

「もうばてたのか?だらしないな。オレの後ろに引っ込んでろ、よっと!!」

「まだ、大丈夫よ!」

「スライムなんかにやられたら、冒険者達の間で笑いものにされるぜ!ハッ!!」


二人の様子を見て、エリアスが檄を飛ばす。

「スライムだからと気を抜くな!」

普段は温厚そうな印象のエリアスだが、やはりパーティーのリーダーらしく奮起させる時は心得ているようだ。


そのエリアスの後ろでパウルは黙々とスライムを倒していく。

時々止まって、周りの状況を確認するとパーティーが囲まれないようにポジションを変えながらサポート役に徹していた。

あの中で一番、戦闘経験がありそうなのはパウルだろう。


その彼が何かを気にして、時々こちらを見てくる。

私の事を見ているのではなく、私の背後を守っているアンスを意識しているようだった。


アンスは両手を後ろで組んで、体当たりをしてくるスライムを蹴りだけで粉砕している。

本気を出すまでもないといった様子で、自分からは攻撃せずスライムが体当たりしてくるまでワザと待ってから、まるまって飛びかかってくるスライムを蹴り上げている。まるでボール遊びでもするかのように。


そのうえ、蹴り上げられて粉散したスライムが空中に残していった魔宝石を地面に落とすことなくキャッチして革袋にしまっている。

アンスがいれば私は安心して背後を任せられる。


ココに視線を戻した。彼女は肩で息をし、剣を杖代わりにしてなんとか立っているといった感じだ。完全に周りなど見えていない。

キリキリキリ・・・・・・

弓を引き、ココの後ろで体当たりのモーションを取っているスライムに狙いを定める。


「ハッ!!」

その狙いを定めていたスライムをアデリナが切り倒した。

続けざまに周囲のスライムを切り倒していく、ココが休める時間を必死に稼いでいるようだ。


「アデリナっ!!助けるな!!」

私が怒鳴るとアデリナが言い返してきた。

「嫌ですッ!!助けます!!」

ココの周りのスライムを次々に倒していく。口ごたえなどしなさそうなアデリナには意外な姿だ。ココに関することでは別なのだろう。


「倒すなと言っているッ!!」

「嫌ですッ!!」

「倒すなッ!!」

「嫌ですッ!!ハァ、ハァ」

こちらに言い返す事は出来ても、アデリナもココと同じく限界に近いようだ。


「アデリナ!お前の役目はなんだッ!!」

「・・・・・・」

「お前の役目はなんだッ!!索敵だろうッ!」

「ハイッ!索敵係ですッ!」


ヒュン、・・・・・・ブシャー!


「そのお前がやられたらパーティーはどうなるッ!」

「・・・・・・」

「敵の発見が遅れて、パーティーを危険にさらすことになるんだぞ!お前はパーティーを全滅させるつもりかッ!!」


ヒュン、・・・・・・ブシャー!


「自分の身を守れない奴は置いていけッ!」

「嫌ですッ!!」

「置いていけッ!!」

「イヤですっ、うっ」


ヒュン、・・・・・・ブシャー!


「ココッ!お前がアデリナを守るんじゃなかったのかッ!!アデリナの足を引っ張るなッ!自分の身は自分で守れ!!」

「うワッーーーーーッ!!」

私の怒声でココもアデリナもべそをかきながら必死になって剣を振るい続けた。


それから小一時間

スライムを掃討した私達は地面に転がった魔宝石を集めていた。


ジャラ、ジャラ、

フィンが革袋に入った魔宝石をメリーナの目の前で満足気に持ち上げる。

「大収穫!大収穫っ!これでまた昼飯に肉が食えるなっ」

「分かった、分かった、また作ってあげるわよ。疲れてるんだから、もう!うっとうしい!」

二人の様子を見てエリアスは笑い、パウルまでも口元に笑みを浮かべている。

(いいパーティーね)


ココとアデリナに目を移すと彼女達はもう疲れ切って、お互い寄りかかる様にへたり込んでいる。魔法石を集めて回る気力も残っていないらしい。

「今の戦い、ライリー様がいなかったら私達、死んでたね・・・・・・」

「死んでないし、生きてるし・・・・・・」

ぶつぶつと呟き、目はうつろに空を見つめ二人は放心状態だ。


その時、

ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・

頭の中に直接、鐘の音が響いた。

(これは・・・・・・普通の福音の方か、)


それは”福音”と呼ばれるもので、モンスターとの戦いで生き残った戦士を称える神からの祝福だとされている。

(あの人はレベルアップなんて呼んでたけど)

今回のモンスターが大量に生まれる現象も期間限定イベントなどと呼んでいた。あの人はモンスターとの戦いを遊びか何かととらえている節がある。

(何がイベントよ。戦うこちらの身にもなってみなさいよ!)


「ライリーさま・・・・・・福音を授かりました。祈りを」

魔宝石を集める私の側へ、ココとアデリナがよたよたと近づいてきた。今聞こえたのは彼女達の福音だったようだ。

福音を受けた者は神への感謝を祈りに込めるのがアイオニオン教の教えだ。


「私は18の鐘が鳴りました・・・・・・」

「私は20の鐘が鳴りました。ここまで生き残れたことを神に感謝します」

二人が膝を折り、私の前に手を差し出しす。私はその手を取り、祈りを受けた。

「よくがんばりましたね」

言葉をかけるとココはふてくされて横を向いてしまった。


私もひざを折り彼女らの目線に合わせ、優しく微笑みながら肩に手をかけた。

「さあ、帰りましょう」

”帰る” 街に帰れる、家に帰れる、その安心感を含んだ言葉に、彼女達はそれまで張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう。みるみるうちに大粒の涙を流して、わんわんと声をあげた。

「うっ、ウッ・・・・・・うわぁーーー、ああ、ぁぁー」

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