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第3章3-9

3-9


・ピコのターン


「ハァ・・・・・・広い」

コッレの街の南門を出たところで私は、山の中とは違う草原の見晴らしの良さに感嘆の声をもらした。門から出た時に味わえる景色の解放感は何度体感しても心地いい。

(この解放感は山の中に居た者しか分からないでしょうね)


見晴らしがいいのでモンスターなどいたらすぐにでも分かるが、一応辺りを見回して警戒してみる。

だけど、その影はまったくなさそうだった。おかみさんの言う通り、モンスターは減っているらしい。


そこには平和そのものの風景が広がっている。行きかう馬車のガラガラガラッと車輪の転がる音がなんとも牧歌的な雰囲気を醸し出し、耳にも心地いい。

今日は馬車に乗って目的地までいくつもりだったが、ウサギ料理を食べすぎたため腹ごなしに散歩がてら歩くことにした。モンスターの心配も無いのだから散歩には丁度いい。


街道は南へと真っ直ぐに伸びている。その道を歩き始めてすぐ、気になる2人組を見つけた。

道脇の石積みに一人は腰掛け、もう一人はその後ろに身を隠す様に立っていた。その身なりは”冒険者風”に体裁を整えてはいたが、まとっている雰囲気が如何にも初心者といった感じがする。私には分かる。


初心者冒険者が狩りの練習でもしているのかと思ったが、腰かけている方は足を空中に放り出してブラブラさせ何をする訳でもなく座っている。

気になったので近づきながら観察していると、座っている方もこちらに気付き視線を合わせてきた。その顔は人懐っこそうだ。

(ああいうタイプは苦手・・・・・・)

興味ありそうに見てくるタイプは大抵、ピコ族を子供の様にしか思っていない。そういう人を相手にするのは疲れる。


その人懐っこそうな方がもう一人の方に耳打ちする。聞いた方はそれに応えるように肩へ手を置いた。

(私の事をひそひそと)

自意識過剰かもしれない。だが、実際ピコ族だと分かっていてもちょっかいを出してくる人はいるのだ。そういう経験がピコ族の孤高感を育てていく。


二人の横を通り過ぎざまに、後ろにいた方も私の事をチラッと見た。

(フォコン族か、)

目が合った瞬間、その瞳が光る様に赤かったのが見えた。それはフォコン族の特徴だ。


(なに、見てたのかしら?)

フォコン族の目は良い。こんな門を出てすぐの所で何をする訳でもなく居ること自体、なにかを観察しているのだろうという事が察しがつく。

モンスターではなさそうだった。周り一面見晴らしがいい為、フォコン族でなくてもモンスターがいれば容易に発見できるだろう。


2人組の横を通り過ぎても背中に視線を感じムズ痒い。いつまでもフォコン族に見られているのだろうと思いつつ、そのまま歩みを進めると二人組が観察していたらしき者に出くわした。


前方で男女の冒険者が木の下で何かしている。

徐々に近づいていくと、男性がジャンプしてオレンジを取ろうとしているのが分かった。女性の方はその男性を見つめてこちらに気付いていない。


(いい趣味してるわ・・・・・・)

さっきのフォコン族はこの二人をのぞき見していたのだろう。オレンジが取れないでいる男を笑いものにでもしていたのか?それとも、男女の恋路に二人して話を咲かせていたのだろうか?


(・・・・・・平和ねぇ)

街のすぐそばとはいえ、出くわした人達はモンスターのうろつく場所だというのにまったく緊張感が無い。常に緊張を強いられる西の山とは大違いだ。


「フフッ」

フォコン族ではないが、男性がオレンジを取ろうとピョンピョンとウサギの様に跳ね続けている姿を見たら、可笑しく思えた。

(なんで、剣を使わないのよ)

彼が差している腰の剣で払い落とせば簡単なのに。その事に気付いていないところがかわいい。


その彼が、邪魔に思ったのか着ていたストールと帽子を脱ぎ女性に渡した。帽子でぺちゃんこになった髪を整えるように2度3度かき上げた姿に目が止まる。彼の髪は黒髪だったのだ。

(珍しい、)

よく見ようと私は彼の側へ近づいていった。


近くまで寄ると、女性の方がようやく私に気が付いた。ビックリさせてしまったのか、じっとこちらを観察しているのが通り過ぎざまでも何となく分かる。さっきの人懐っこそうな冒険者と同じく、じっと見てくるタイプは苦手だ。


その彼女を無視して男性の方へ近づいていくと、

「だはっ!」

彼はオレンジを取るのに失敗して膝から崩れ落ちた。

(ちょうどいい)

私は彼の前へ回り込み、耳をよく見た。背の低い私には地面に手をついていてくれた方が良く見える。


(エルフじゃないわね)

男性の耳はヒューマンのそれと全く変わりなかった。

エルフの特徴は耳に現れる。大体は耳の長いものが多いが、中には短め者も生まれる。しかし、長さはまちまちでも、耳の先が尖る特徴はエルフの血を引き継いでいれば必ず現れると聞いた。


(黒髪のヒューマンか・・・・・・)

息を切らしている彼は話すことが出来ず、私の事を不思議そうに見てくる。

「こんにちわ」

私が男性を観察しているのを気にしたのか、女性の方が代わりに声をかけてきた。


(ウサギじゃあるまいし、取って食べたりしないわよ)

私は彼女に応えることなく、立ち上がった男性に腰の剣をゆび指さしてあげた。

「あ、」

彼は指摘されたことでようやく気付いたらしい。少し間の抜けた声を上げた。


加えて”剣がお飾りになってるわよ”そう言いかけたが、喉まで出かかって飲み込んだ。

(人を笑いものにするのは良くないわね)

口が緩みかけたのをかみ殺して、私はその場を後にした。


街道をひたすら南へ、はるか前方の山すその切れ目を目指し歩いていく。

途中の石橋を渡り、しばらく行くと流れを南に変えた小川が、右手側を流れはじめる。

その水面に反射した陽の光がキラキラと輝いていた。目を細めて眺めていると、なんだか眠気を誘ってくる。

(やっぱり馬車に乗れば良かった)

馬車に揺られながら気持ちよくうたた寝するのも悪くない。そう考えていると、

ガラガラガラッ・・・・・・

後ろから馬車が走ってくる音が聞こえた。

(ちょうどいい!)


乗せていってもらうため道の端に寄り馬車が来るのを待つと、ほどなく私の目の前で止まった。

その馬車は荷馬車だったが、御者席には手綱を握る御者と先客らしき冒険者が乗っていた。


馬車は馬車組合でそのすべてが管理されている。商人などは必要な時に組合から馬車を借りるのだが、荷物を運ぶ以外にもその仕事とは別に人を乗せて小遣い稼ぎをしている。人も荷物も乗せられるだけ乗せた方が借り賃が浮くからだ。


御者が声をかけてきた。

「乗ってくかい?」

「どこまで行くの?」

「この先のコウの街まで行くよ」


コウの街はコッレと同じく山を切り開いて作られた街だ。コッレに比べれば規模は小さいが、その先のエルフが住むシエルボの街への中継地点として人で賑わう。

私も今日のところはコウの街まで歩くつもりだった。


額に手を当て太陽を確認する。日は真上にあり、今からコウの町に馬車で向かうと、早く着きすぎて時間を持て余しそうだ。

時間を持て余すぐらいなら、やっぱりこのまま歩こうか?どうしようか迷っていると、御者が言葉を続けた。


「お嬢ちゃんはどこまで行くんだい?」

(お嬢ちゃん・・・・・・)

その言葉に少しムッとしたが、まぁ、悪気はないようだし、便宜上そう呼んだだけだろう。いちいち反応していてもしょうがないと思い、私は応えた。

「シエルボの街までよ」

「なら、乗せてってあげるよ。こっちはコウの街で荷物を下ろしたら、次はシエルボに向かうつもりだったんだ」

「そうなの?」


荷台を見ると木箱が荷台いっぱいに積まれていた。

「コウの街で荷物を下ろすから少し待ってもらう事になるけど、陽が落ちるまでにはシエルボに着くはずさ」

「で、いくら?」

「そうだなぁ、シエルボまで1000シルバでどうだい?」

「いいわ。お願いします」


私は革袋から緑の魔宝石を取り出し、渡した。

「じゃあ、これで」

「あい、どうも。狭くてごめんよ、もうちょっと詰めれば・・・・・・」

そう言って御者が座る場所を空けようと腰を浮かせる。それを私は手を挙げて制した。

「いいわよ、私は後ろに乗るから」

こういう場合、後から乗り込んできた人が話の種にされ、やたらと質問攻めにあうのがオチだ。私は話の種にされるつもりは無い。


「なら今、荷物を積み直してやるから待ってな」

「いいから、いいから、私ならそこの隙間に乗れるわ」

わずかに開いた荷台と木箱の隙間を指さし言った。小さい体はこういう時役に立つ。


御者が馬車から降りてくる前に、私は荷台へ向かうと、リュックを胸に抱えそのわずかな隙間にお尻をねじ込んだ。

(・・・・・・ちょっと狭い)

窮屈ではあるけど、御者と冒険者の間に挟まれ肩身の狭い思いをするよりはマシだ。

手を振り御者に出発してもよいと合図を送ると、馬車はゆっくり進み始めた。


ガラガラガラッ・・・・・・


眠っていこうかと思ったが、その前にリュックから宿のおかみさんに貰った紙袋を取り出した。テクテクと歩き続けているうちにポンポンだったお腹はこなれてしまっていた。

テリーヌが挟まれたパンを頬張る。ウサギの煮込みに負けないくらいこちらも絶品だ。

(ほんと、平和ねぇ・・・・・・)

流れていく景色をサンドイッチを頬張りながら眺めていると、改めてそう感じた。

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