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第3章3-8

3-8


・ピコのターン


「ふぅー・・・・・・食べすぎた」

テーブルの上には空になった器が並んだ。

宿の食堂はお昼時には早いこともあってお客は少なく、私は心おきなく食事を楽しむことが出来た。


宿をたつ前の食べ収めとばかりに、名物のウサギの煮込みに加えて、ウサギのレバーを使ったテリーヌ、モモ肉のロースト、それにウサギのパイ包みを注文し、ウサギ尽しのフルコースで至福の時を過ごした。


コートの下に隠れて見えはしないが、私の小さなお腹にはウサギ丸々一羽が収まり、ぽっこりと膨らんでいる。両手で満足気にお腹をさすると、その張り具合がよく分かる。


(もう少しいけそうね)

お腹をさすったらウサギが奥の穴へ隠れたのか、あともう少し入る余裕が出来た気がする。バスケットに山盛りもられているおかわり自由のパンを1つ手に取り、ウサギの煮込みが入っていた皿を引き寄せ残ったソースをパンに付けながら食べた。


名残惜しそうにソースも残さず食べている姿が目に止まったのか、おかみさんが話しかけてきた。

「さすがピコ族だねぇ、気持ちいい食べっぷりだよ。これなら皿を洗うのも楽だねぇ、アハハハッ!」

ピコ族はその体格に似合わず大食漢だ。それは筋肉が発達しているので代謝が良く、体を維持するためにもよく食べるからだった。


私が最後のソースをパンでキレイに拭き取り口に含むと、

「飛び上がるほど美味しかったでしょ?ウサギだけに」

おかみさんの決まり文句が飛び出した。

「ええ、月まで飛び上がるほどね。ごちそうさま」

私がお世辞で返すと、おかみさんはにっこり笑った。そして、

「ちょっと待っといで」

そう言い、パンの入っていたバスケットを抱え厨房へと入っていく。


しばらく待っていると、紙袋を手に持ち戻ってきた。

「テリーヌを挟んであげたから、持っておいき」

先ほどのパンにテリーヌをわざわざ挟んでくれたらしい。

ウサギ料理の美味しさもさることながら、このおかみさんの気さくな人柄にファンも多くお店に足しげく通う常連客は多い。


私もそのファンの一人だ。

「ありがとう」

ピコ族の私にも彼女は分け隔てなく接してくれることが嬉しい。

「もう行くのかい?」

「ええ、お世話になりました」


私は会計を済ませる為、リュックを開き革袋を取り出した。

「じゃあ、お勘定おねがい。これで足りるかしら?」

革袋から赤く光る魔宝石を取り出しおかみさんに渡す。


「十分だよ。ちょっと待ってね、今おつりを・・・・・・」

おかみさんが前掛けのポケットからコインを取り出そうとするのを私は手で制した。

「おつりは取っといて、パンのお礼よ」

「アンタ、太っ腹だねぇ」

今は懐が温かい。革袋の中には西の山でモンスターを倒して集めた魔宝石がギッシリ詰まっている。

それに私のお腹は言われた通り、ぽっこり出ていた。そのお腹をポンポンと叩いて見せたら、おかみさんは笑ってくれた。

「最近、モンスターが減っているでしょ?冒険者さんたちは困っているって聞くけど、本当にいいのかい?」

「?・・・・・・ええ、」


おかみさんの言葉が気になった。

(モンスターが減っている?)

ほぼ一カ月ぶりにまともに話したのはおかみさんが初めてだ。そのおかみさんが妙な事を言ったので聞き返した。

「モンスターって減っているの?」

「減っているも何も、最近この辺りで見かけるのはスライムぐらいだよ。あら、アンタ知らないのかい?」

「私、1ヶ月ほど西の山に入っていたから」

「西って言うと聖都を越えた先の?へ~ぇ、アンタ凄腕の冒険者なんだね」


聖都ケイの西は未開の地だ。

教会が主導する遠征では平地の開拓が優先される。そのため、山が広がっていて平地が少ない西方は手付かずにされ、モンスターも放置されている。

開けた場所で戦うのと違って、山での戦いは苦戦するため冒険者達も滅多に見かけない場所になっている。


「西の方はモンスターがまだ多いのかい?」

「山の中は見通しが利かないから、なんとも言えないわね」

山の中を分け入っていた為か、モンスターが減っているかどうかは私には分からなかった。それに、どちらかといえばモンスター退治はついでのようなもので、私はひたすら西へと向かって突き進んでいたから気に止めていない。


「この辺りでは稼ぎにならないからって、みんな遠くの方まで狩りに出かけちまって、うちも泊り客は随分少ないんだよ」

おかみさんの言葉に納得する。最近、西の山で冒険者のパーティーをよく見かけたのはこの為だろう。

「なら、次に来た時も泊まれそうね。用事を済ませたらまた寄るわ」

「そうかい。じゃあ、食べ尽されないようにウサギをたんと用意して待ってるよ。アハハハッ!」

私はラビット・インを後にした。

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