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第3章3-5

3-5


・ライリーのターン


「ふーっ」

呼吸を整え足元に転がっている石にかがみ込む。その両端を掴み軽くゆすって、持ち上がりそうか確かめた。楕円形のそれは長さが50㎝も無いくらいだが、見た目の小ささよりずしりと重い。

「ふんっ!」

一瞬息を止めて下半身に力を込め、立ち上がりながら石を持ち上げた。

そして、掴んだ腕は下へ伸ばしたまま石をぶら下げるように馬車が止まっている方へ運んでいく。


ドコッ!

土手の下まで運び、石を放り投げた。

「ふぅ・・・・・・」

女性組が河原で石を一カ所へ集め、男性組が集めた石を更に土手の上へ運び荷馬車へと載せていく。男性陣は坂を登らなければいけない分、負担が大きそうだった。

「ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・・・・」

体格のいいエリアスも息を切らせて土手を上がっていく。


分担作業で石を集めているというのに、アンスだけは別だ。石を抱え上げると、そのままヒョイヒョイと土手を駆け上がり、馬車へと積む。

「アンス、あまり無茶しちゃダメよ。まだ準備段階なんだから今からへばってもらっては困るわ」

「大丈夫です」

アンスは一言応えただけで、また石を抱え土手を登っていってしまった。

(さすが、ピコ族ね。力の強さではかなわないわ)


「ん~っ!」

土手の上のアンスを見上げながら、私は腰に手を当てそのままのけ反った。

「はぁーーーっ」

石を運び続けたために、こわばってしまった腰の筋肉が伸びて気持ちいい。


辺りを見回すと、持ち上げられそうな石はあらかた拾ってしまい、残っているのは運べそうにない大きなものと握りこぶし程のものばかりになった。

小さな川で、それ程ゴロゴロと石が転がっている訳ではない。その為、下流へ少しづつ移動しながら拾い集めている。

(そろそろいいかしらね)


3台の荷馬車には、集めてきた石が荷台へと積み上がった。

「エリアス、そろそろ下ろしに行きましょうか」

「そうですね。あまり積み過ぎても馬がばててしまいますから」

彼が言った様に、重い石を運ぶことを考えて2頭引きの荷馬車を借りてきたのだ。


額に手を当て太陽の位置を確認すると、まだ真上には来ておらず昼時には少し早い。

「じゃあ、下ろし終わってからお昼にしましょう」

話を聞き、メリーナが側に寄ってきた。

「なら私はここに残ってお昼の準備をしておきますよ。帰って来たらすぐ食べられるように」

「そう?一人で大丈夫?」

「任せてください。私がこのパーティーの料理番してるんですよ。今日は重労働だからと思って、スタミナつけるためにお肉用意したんです」


私がメリーナと話しているのを聞いて、フィンも話に入ってきた。

「おっ!肉って聞こえたぞ。あれか?タマネギで作ったタレに絡めて焼く・・・・・・」

「はい、はい、それよ。アンタが好きなやつ」

「やったね!最近モンスターを倒せてないから飯がどんどん寂しくなる一方だったもんな」

「今日は特別。力を付けないといけないからね」


フィンが調子よく話す。

「聞いてくださいよ。この前は丸パン1つと小さなチーズをみんなで分けて食べたんですよ。それだけじゃ全然足りなくて水で紛らわせようと魔宝石使おうとしたら、コイツもったいないから使うなって取り上げるんですよ」

その時のやり取りが目に浮かぶ。

「フフフッ」


フィンの話に私が笑っていると、メリーナは顔を真っ赤にして恥ずかしがった。

「あーもう!何でそんな事、話すワケ?あんた魔宝石気軽に使いすぎなのよ!少ないお金でやりくりしてあげてるこっちの身にもなってよ」

「フフフッ」

メリーナはいつもこんな感じに小言を言っているのだろう。それに対してフィンは気にも留めていないようだ。


「でも、コイツ口はうるさいけど、料理だけはうまいんすよ」

「だけってなによ!だけって!」

「フフッ、仲がいいのね」

「なっ!」

からかうつもりは無かったのだけれど、メリーナの顔は更に赤くなった気がする。


「じゃあ、任せるわ。期待してるから」

「はい、」

返事をしたメリーナは昼食の準備に、馬車へ荷物を取りに向かった。余程恥ずかしかったのか、この場から逃げるようにして行ってしまった。


「ライリーさん、オレも残ってていいですか?ほら、あいつどんクサイから肉焦がして台無しにしないか見てないと」

「フフッ、いいわよ」

取ってつけたような理由に思わず笑ってしまった。モンスターは少ないと言っても、それでもメリーナの事が心配で一人残しておけないのだろう。

私に笑われてフィンはきまり悪そうに頭を掻いた。彼と昨日初めて会った時にはお調子者の印象を受けたが、根はとても優しいようだ。


フィンとメリーナを河原に残して私達は積んだ石を下ろすため街道へと一旦引き換えし、そこから道を南へと進んだ。

コッレの街の南に広がる草原は周りをぐるりと小高い山に囲まれ、盆地になっている。そこへ東の山を水源とする川が、盆地へ注ぎ込み東から西へと流れる。川は途中、南北に伸びる街道と交差し、そのあと南へと向きを変え、街道を沿うように流れる。


川の流れを右手に眺めながら馬車に揺られていると、喉の渇きを覚えた。

「アンス、喉乾かない?」

彼女の返事を待たず、私はカバンからカップと魔宝石を取り出した。

そして、魔法で水を作りだす。

「ウォーター」


たぷんっ!

カップに水が注がれた。が・・・・・・

パシッ!

乾いた音がしたかと思うと魔宝石が割れ、粉となって消えてしまった。


「ちょうど寿命だったみたいね」

魔宝石は使い続けていると、粉となって消えてしまう。火を起こしたり水を生み出したりと、生活に欠かせないモノとなっているが、無限に使える道具ではない。消耗品だ。


「ほら」

私は水の入ったカップをアンスへ差し出した。

「いえ、私は結構ですのでライリー様がお飲みになってください」

「遠慮しないの、最後の一杯よ」

魔宝石の予備は持っている。しかし、魔宝石はそのまま通貨の代わりとなる価値のあるものだ。

メリーナの事ではないが、そうホイホイ使ってはいられない。


「なら、尚更ライリー様が」

あれだけ石を運んだ後だ。アンスだって喉が渇いていないわけがない。しかし彼女はかたくなに飲もうとはしなかった。

(頑固な子ねぇ)

毎回、世話を焼くたびに彼女は断ってくるのだ。遠慮を通り越して頑なに。しょうがないので私はカップに口を付けた。

ごくっごくっ!

「ふぅー」

力仕事の後だったので、全身に水がしみ渡る。


半分まで飲んだところで、アンスに残りの水を渡した。

「ほら、半分づつならいいでしょ」

「いえっ、その・・・・・・はい、ス」

アンスが謝りかけたので、私は彼女が言い終わる前に言葉を挟んだ。

「す?」

「ス・・・・・・ありがとうございまス」

「ふふっ、それでいいわ」

アンスも喉が渇いていたらしく、渡した水を一気に飲み干した。

(本当に手間のかかる子だこと)


しばらく馬車を走らせているうちに盆地の出口が見えてきた。東西両側の山すそがちょうど途切れている。

その出口から北東に周囲1キロ程の丘が広がっている。いや、丘と呼ぶほどでもない、なだらかな盛り上がりがあり、そこだけこんもりと木々が生い茂っている場所。

草原の中でポツンと木々が茂り、まるで海の離れ小島の様に見える森。地名などないが、その見た目から浮島と呼ばれている。そこが今回の目的地。ドラゴン退治の主戦場となる場所だ。


木々が茂り森が残されているのは、エルフの長の指示だった。

森の民エルフは土地を全て草原にする事を好まない。と言っても、その当てつけに浮島がある訳ではない。茂みが残されているのは今回の作戦で重要な役目を果たすからだ。


その浮島を前方500メートル程に捕らえたところで、街道をそれ草原の中に馬車を止めた。

「ここにするわ。さあ、石を下ろしてちょうだい」

私の指示に皆が黙々と石を下ろし始める。


石を運ぶことに比べれば、下ろす作業は馬車の荷台から放り投げればいいだけなので楽だ。そんなに時間もかからず済んでしまった。

「ごくろうさま。お昼はメリーナがお肉を用意してくれているそうよ。早く戻りましょ」

皆に声をかけると、パウルが近づいてきた。


「本当にこの場所に現れるのか?」

彼は今回の作戦に疑問を持っているようだ。というより、慎重なタイプなのだろう。私は余計な心配をさせないよう、事もなげに応えた。

「ええ、」

「なぜわかる?」


彼の質問にかつて私も同じような質問をしたことを思い出した。

「ウラワザ・・・・・・(あの人はそう言っていた)」

つぶやいた言葉の意味が分からず、パウルはいぶかしげな表情をする。


私は言葉を選びながら続けた。

「あなた、モンスターが生まれるところを見たことある?」

「いや」

質問の意図がつかめないためか、パウルの普段から寄せている眉間のシワが更に深くなった。

「私もこれまで生きてきた中で一度も見たことないわ」

隣で聞いていたエリアスもうなずいている。


モンスターから如何に身を守るか。また、どうやって倒すかをこれまで人々は考え抜いてきた。だから生まれることに関しては気に留めてこなかったこともある。

そもそも、モンスターは命のある生き物とはまるで別物だ。生まれるという表現自体、当てはまらないのかもしれない。


「モンスターはある条件を揃えてあげると、どこに生まれるか絞る事ができるのよ」

「その生まれる場所が、あの茂みなのですか?」

私はエリアスの問いにうなづいた。


まだ納得できないパウルが続ける。

「その条件とはなんだ?」

「それは教えられないわ」

その条件は私以外に数人しか知らない秘密だった。


パウルが詰め寄る。

「これからお互い命を預け合うというのに、隠し事をするのか?」

彼の言い分はもっともだ。戦闘になればお互いの信頼関係は重要だ。信頼できない相手に背後を任せることは出来ない。

「そうねぇ・・・・・・あなたが冒険者をやめて、神にその身を捧げる聖職者になるというのなら教えてあげてもいいわよ。ただし、知ったが最後、誰かに口外すれば神の御名の元に裁きを受けることになるけどね」

嘘をつくつもりはない。けれど、言えない事だってある。


これ以上ツッコまれないように私が少し大げさに言ったのが効いたのか、

「ふんっ、冗談。オレは敬虔なアイオニオン信者ではあるが、堅苦しい聖職者になろうとは思わん。自由な冒険者稼業をやめられるか」

パウルはそう言い放って、馬車へと乗り込んでしまった。

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