第3章3-4
3-4
・ライリーのターン
ガラガラガラガラガラッ・・・・・・
街中の狭い路地と違いコッレの南門を出ると、馬車が車輪の回る音を軽快に響かせ走り始めた。
手綱はアンスに任せ、私はその隣で向かい風が肌をさする心地よさに身をゆだねた。
私達が先頭を走り、その後ろをフィンとメリーナがそして最後尾をエリアスとパウルの馬車がついてくる。馬車3台で連なって街道を南へ走っていく。
「ライリー様、どこまで行かれるのですか?」
「この先を少し行った所に川が流れているでしょ、橋を越えたら右へ曲がってちょうだい」
「分かりました」
門を出ると街道は南へ真っ直ぐ伸びていて、その道を1キロほど進んだところに小さな川が流れている。その河原が目的の場所だ。
私は辺りを見回した。
街を一歩出ればモンスターのテリトリーだ。先頭を預かるものとして辺りを警戒してはみるが、そこには平和そのものの景色が広がっていた。一面草原でヒツジがのどかに草を食んでいる。
街の周辺は特にモンスターの討伐に力を入れている。見回り馬車で警戒し、兵士達が頻繁に退治してくれている甲斐もあってこの辺りでモンスターを見かけるとすれば、草陰に隠れられるスライムぐらいだろう。
(心配性なのかしらね。私は)
先ほどココにお母さんの様だと言われた事を思い出した。自分では面倒見がいいつもりでいたのに、そんな風に見られるとは思っても無かった。
私が警戒を怠らない事を気にしたのか、アンスがポツリと言う。
「良いところですね」
北方遠征に行っていた者からすれば、ここはまるで天国だ。遠征地の様に植物がはびこっていないため、モンスターがいれば直ぐに発見しやすい。
遠征地では少しづつ植物を伐採し、見晴らしの良い土地を広げている、そこへこれからヒツジとヤギを放牧する予定だ。ヒツジ達が草や木の芽をはんでくれることで、徐々に草原へと変わっていってくれる事だろう。
気の長い話だが目指しているのは今、目の前に広がっている様な草原だ。
(エルフの長はこの景色を良いとは言わないだろうけど)
エルフたちは草木の利用に精通している。それはエルフの長の意向によるところが大きい。
長は人々の生活に役立てる為、様々な植物を集め育てている。その育てた植物を今度は売ったり加工したり、エルフ達はそうして生活の糧を得ている。だから土地一面を草原にしてしまうことに反対なのだ。例えそれがモンスターを発見しやすくして、倒すためなのだとしても。
私がエルフに対してモヤモヤした気持ちでいると、前方にオレンジの実を付けた旅人の木を見つけた。
「よっ!」
席を立ち上がり、馬車が木の下を通り抜けざまに枝の一番下、手の届きそうだったオレンジに狙いをつけ1つもいだ。
その実を見て思う。
(こういう習慣は私も嫌いじゃないわ)
旅人の木の様に街道沿いに果物やハーブを植えるのは、エルフの習慣だ。
「あっ!取れなかった!!」
「どんクサイいなぁ、お前は。ハッハッハ!」
「あんたが馬車をゆっくり走らせてくれれば取れたのよ!ほんと、気が利かないわね」
振り向くと後ろから付いてくる馬車に乗っているメリーナが、私のマネをしてオレンジに手を伸ばしたが取り損ねたようだった。
もいだばかりのオレンジを半分に割り、それを後ろの馬車へ投げた。
「メリーナっ」
シュッ!
「わっ!とっと!」
彼女は私の投げたオレンジを落としそうになりながらも受け取ると、
「ありがとうございますっ!」
オレンジを持った手を振りながら、私に笑顔を投げ返してくれた。
席に座り直すと後ろから二人がじゃれ合う声が聞こえてきた。
「今度はうまく取れたじゃないか。落っことしそうだったけど」
「うるさいっ!そんな事言うと、あんたには分けてあげないわよ」
喧嘩するほどなんて言うけど、そのやり取りは微笑ましく思える。
「あの二人、付き合ってるのかしらね?二人で馬車に乗ってじゃれ合っていると、まるで恋人のようだけど」
「え?さぁ・・・・・・」
アンスは二人のやり取りを聞いてなかったのか、感心の無さそうな言葉が返ってきた。
ピコ族は愛想が悪いと一般的に思われがちだが、そんなことはない。アンスと一緒にいると様々な表情を見せてくれる。
アンスも北方遠征の警戒感が抜けていないのだろう。周囲を警戒していて、聞こえていなかったのかもしれない。
オレンジの皮を剥き、一房摘まんでアンスの口元へ差し出してあげた。
「今から気を張りつめなくても大丈夫よ」
「えっ!?あ、あのっ」
彼女は照れているのか、オレンジを食べようとはしてくれない。
「なに照れてるの?ほら、」
私の方も手を引くつもりはない。その事が分かると、彼女はためらいながらも口をあけ、
パク!
私の指に触れないよう、口先で気を遣いながらはむ姿はどこか可愛らしい。
「なんか・・・・・・すいません」
「すいませんじゃないでしょ、こういう時は」
「はい・・・・・・ありがとうございます」
「よろしい」
アンスはモンスター退治に関してはとても頼れる。だけど人とのコミュニケーションに対してはてんでダメだった。
そのため彼女には嫌がられているかもしれないが、私は積極的に交流するようにしている。
(最近はよく笑う様になったけれど、)
彼女はまるで人見知りの激しい子供のようで、それが放っておけないのだ。
(こういうところが、お母さんみたいと思われるのかしら?)
ココに言われた言葉をまた思い出した。
パク!
「甘いわね、このオレンジ」
アンスと交互にオレンジを摘まみながら馬車に揺られているうちに、目的の川へはあっという間に到着した。
橋を渡って右に曲がり、川の流れに沿って下流へ少し行く。
「とりあえず、この辺でいいわ」
馬車を降り、皆に声をかけた。
「さあ、ジャンジャン石を積んでちょうだい」




