第3章3-2
3-2
・ライリーのターン
私が教会裏の倉庫へ着くと、勇者様も急いで朝食を済ませてきたのかほぼ同じタイミングて到着した。
「さあ、こちらへ」
さっそく中へ入る様に促したが、彼は何を躊躇しているのか倉庫へ入ろうとしない。
教会から施しを受けることに抵抗を持っているのかもしれない。
「さあ」
彼に余計な引け目を感じさせないよう笑顔を向けると、ようやく中へ入ってくれた。
中は小窓があるのみで薄暗い。窓から射し込む光を頼りに辺りを見回す。
「んー・・・・・・」
服を見繕うついでに思い出した。彼は昨日サンダル履きでは擦れて痛いから靴が欲しいと言っていたはずだ。
「昨日、欲しいって言ってたわよね?」
彼に尋ねながら、靴が置いてないか薄暗いなか目を凝らす。
「フク」「カバン」「ヌノ」「ボウシ」・・・・・・倉庫の中は寄進された物が種類ごとに木箱に入れられ、きちんと整理されている。
「んー・・・・・・」
上から下へと順番に探していくと足元に「ブーツ」と書かれた木箱を見つけた。
(これでもいいか)
「ありましたよ。ブーツ」
ガーッ!
私が足元の木箱を引き出すと、立っていた彼はキョトンとした表情で私を見下ろした。
「昨日、サンダルで歩きすぎて擦れて痛いから、靴が欲しいと言っていたのを思い出したんです。良かったらどうぞ」
不思議そうにしていたので説明してあげると、なぜか彼は手で顔を覆い上を向いてしまった。
「どうされました?」
「あなたの優しさに心が震えているんです・・・・・・」
(そう・・・・・・気を張っていたのね)
昨日からあまりに勇者様が平然とこの状況に順応していたので、私は彼が漏らした言葉に普通の人と同じであることを感じ取り、少し安心した。
「フフッ、私に感謝する必要はありませんよ。この倉庫にある物は信徒たちによって寄進されたものなのです。他にも必要なものがあればどうぞ自由にお持ちください」
顔を覆う彼に言葉をかけると、嬉しそうに木箱をあさり始め、気に入ったものを試着していく。やはり何も持たない状態で困っていたのだろう。
私も何か彼に合うものがないか探してみようとしたが、男性の服の好みがわからない。
(そういえば、昨日ベンチで寝ようとしてたわね)
そんな事を思い出し「ヌノ」と書かれた木箱から、寝る時に羽織る事も出来て使い勝手の良いストールを探した。
「これはどうですか?」
見つけたストールを広げ、彼に見せてみた。大判なので、これにくるまれば多少は寒さが防げそうだ。
「一枚あれば暖かいし、重宝しますよ」
そう言いながらストールを広げシワを伸ばそうとはためかせた時、
(うっ、)
立ちくらみの様な感覚を覚えた。
倉庫の中はそんなに広くはない。扉や窓は締め切っていたので勇者様の匂いが充満しはじめていたか?ストールを広げた事で空気がかき混ぜられ、魅惑的な匂いが私の鼻孔をくすぐったようだ。
(昨日よりはきつくなさそうだけど、)
匂いを確認するためストールをかけるふりをして近づき、彼の首に腕を回し体を寄せた。
「えっ!ちょっ・・・・・・自分で出来ますから」
彼は恥ずかしがり、腰を引いて逃げようとする。
「動かないで」
離れようとする彼を引き寄せ、気付かれないように首筋の匂いを嗅ぐ。
「あ、」
意識はしっかり持っていたはずなのに匂いを嗅いだ瞬間、脳天を貫通するような刺激にほんのわずか声を漏らしてしまった。
(聞かれたかしら?)
変に思われないうちに、彼にストールを巻いて離れた。
(昨日よりはだいぶ落ちついてはいるわね)
これなら近くで匂いを直接嗅ぐか狭い部屋に一緒に閉じこもりでもしない限り、あたり構わず惑わすこともないだろう。そう判断した。
ストールをかけてあげた彼はまだ照れているのか固まっている。
じっとしているものだから、如何にも着させられました感が出ていたが、ズボンとブーツ、それにストールを羽織っただけでもさっきよりはマシに見える。
(胸元も見えなくなったし、大丈夫ね)
「これで外で寝ていても寒くはないでしょう」
私は満足して、施しを受けた彼に感謝の気持ちを祈るようにと手を差し出した。
「さあ」
しかし手を差し出してから気が付いた。
(しまった、つい癖で・・・・・・)
祈りの姿勢を相手に促す為に手を差し出すのは、シスターの務めとして体に身についている。
だけど、昨日降臨したばかりの勇者様には私が何を求めているのか、理解できずビックリしているようだった。
手を出してしまっては私も収まりが悪く、引っ込めることが出来ずにいると勇者様は、
「すいません。今はこれだけしか持っていませんが、いずれ必ず足りない分は返しに来ます」
何を勘違いしたのか、私の手にコインを乗せてきた。
どうやら私がお金を催促したように思ってしまったようだ。
(寄進されたものなのだから、お金なんていらないのに)
手にはお800シルバと2シロが乗せられている。
彼もお金が必要だろうに、自分の事を顧みないその徳の高さに私は感心した。
「そうですか」
お金を返せば彼の気持ちを無駄にすると考え、献金として受け取った。




