第2章2-27
2-27
・ユウのターン
「今夜、どうする・・・・・・」
「・・・・・・うん」
どうすると聞かれてもオレには行く当ては無かった。その上、スライムを倒すことも出来ず、お金も無い。
さっき拾った魔宝石らしきものならあるが、どこで換金するのか分からない。しかも、いくらぐらいになるのかも分からないし、宿屋もいくらで泊まれるのか分からない。
「ねぇ?」
「あぁ、」
返答に困る。分からないことだらけだ。
(こんなはずじゃなかったのに・・・・・・)
今朝、勇んで教会を出発したが、恥を覚悟でもう一泊させてもらえないか行ってみようか?ダメなら野宿するしかない。
そう考えているうちに、彼女が言葉を続けた。
「明日からも一緒なんだから、その・・・・・・私の泊まっている宿に来ない?」
”明日からも”そう言ってくれた彼女の気持ちは嬉しい。
明日も一緒にパーティーを組むつもりでいてくれるのだ。同じ宿にいた方が連絡が取りやすいから、誘ってくれたのだろう。
だがオレとパーティーを組んでいても、彼女にはメリットが無い。なにせスライムにやられてしまうような男だ。今回は運よく助かったがこの先、他のモンスターが現れた場合にまた足手まといになりかねない。チェアリーにはただ迷惑をかけ続けるばかりだろう。
それならば1人でいた方が気を使う事もなく、やりやすいのではないかと考えた。
「ここで別れよう、オレと一緒にいてもキミに迷惑がかかるだけだから」
彼女にはパーティーを解消するよう伝えた。
しかし、チェアリーはオレを離しまいと手を握ってくる。
「私っ、迷惑だなんて思ってないから!お願いだからそんな事言わないで!」
力のこもるその手からは、同情ではない優しさが伝わってくるようだった。
(やっぱりいい子だな)
スライムなんかにやられるようなオレでも見捨てようとしない優しさ。
彼女はパーティーを組む難しさをこれまで経験してきたのだと、昼間話してくれた。オレがパーティーをすぐ、解消しようとしたことに自分の経験を重ねているのかもしれない。
それに彼女にはスライムから命を助けてもらった恩義もある。
(借りは返さないとな。お昼もごちそうになったし)
このまま分かれてしまうというのも身勝手かと思い直し、彼女の申し出を受けることにした。
「あぁ、分かった・・・・・・本当に、いいの?」
「うん」
オレ達は宿屋へと向かった。
案内されるまま辿り着いた宿へ入ると、そこは見るからに食堂だった。
「ちょっと待ってて、手続き済ませてくるから」
彼女はそう言い残し、店の奥へと向かっていく。オレは言われた通り入り口付近で待つことにした。
側にあったイスに座り待っている間、辺りを見渡してみる。
(宿?・・・・・・なのか?)
店内に入って奥の正面に長いカウンターがある。その壁面の棚には食器やらグラスやら酒のボトルやらがビッシリと飾られていた。カウンターの中にウエイターが一人と恰幅の良い女性が立っていて、チェアリーはその女性と話している。
ここからは見えないがカウンターの奥、壁に仕切られた反対側が厨房になっているようだった。出来上がった料理をウエイターが運んでいく。
まだ外は明るいものの、早めの夕食に数人の客がテーブルに着いていた。
店の中はそれほど広くはない。テーブルやイスが所狭しと並べられ、ウエイターはわずかな隙間を縫うようにしてお客の元へ料理を運んでいる。
ごちゃごちゃはしているが、テーブルやイスが飴色の木製品で統一されているからか、落ち着きのある小洒落た印象を受けた。
ウエイターが運んできた料理を美味しそうに食べ始める客を見ていたら、少し胸やけを感じた。
スライムが口の中へ入ってきた感覚を思い出してしまい、気持ち悪い。
(夕飯は食べられそうにないな、)
観察するのをやめ、胸やけが収まるのを腹をさすって待っているとチェアリーが戻ってきた。
「部屋借りてきたよ。ユウは1階ね、私は2階。部屋は別々だけど呼んでくれれば、すぐ行けるし」
「ああ、分かった。それで言いにくいんだけど、オレお金がまったく無くて・・・・・・今晩だけ宿代建替えてもらえないかな」
スライムを倒してお金を得るつもりでいたのだ。今日は完全に当てが外れてしまった。
(ハァ、申し分けない)
彼女にまた借りを作ってしまう事が心苦しい。
しかし、オレの頼みに彼女は困惑した様子を見せなかった。その声色は明るい。
「気にしないで、おかみさんがあなたの部屋の代金は特別にタダでいいって言ってくれたから」
「いいの?」
「うん。私この宿の顔なじみなの。おかみさん私の事、娘みたいに思ってくれてるみたい」
タダで泊めてもらえるのはありがたかったが、結局は彼女のおかげだ。申し訳なさは変わらない。
「さぁ・・・・・・いこ?」
彼女の案内で部屋へと向う。
カウンター横の通路を奥へ進むと、とても小さな小さな中庭に出た。ベンチが1つと花壇があり、鉢植えなどが周りに置かれている。
四方を建物に囲まれているが、壁面は蔦に覆われていて緑にあふれ、圧迫感はない。
「すてきな所でしょ」
彼女が歩きながら言う。
その中庭を数メートル程のアーケードが通っていて別の棟と食堂は繋がっていた。
(食堂兼宿屋か)
食堂の雰囲気も良かったし、中庭のある宿屋なんていくらかかるのだろうと、タダとはいえお金の心配ばかりしてしまう。
(やっぱり、今日はのんびりなんてしている場合じゃなかったな)
小さな中庭を横切り、1階の部屋に着くと彼女はまた気遣ってくれた。
「あの・・・・・・いつでも呼んでくれていいから」
「うん、」
心配してくれるのはありがたいが、今はその優しさがかえって辛い。自分が如何にも情けなく思えてしまう。
彼女と別れ、部屋に入った途端に力が抜けた。カバンを置き、剣を壁に立てかけ、防具を外し、帽子を投げ捨て、一連の動作を流れ作業のように終えると、
ドサッ!
オレはベットにそのまま倒れ込んだ。
(あぁ、疲れた・・・・・・)
横になったら、どっと疲れが押し寄せてきた。
(チェアリーには迷惑かけたなぁ・・・・・・もう、頭が上がらない)
明日こそは頑張らないといけない!そう気合いを入れるも、まぶたが重い。
(明日は・・・・・・スライムを・・・・・・たくさん・・・・・・)
急激な睡魔に襲われ、オレはそのまま眠りこけてしまったのだった。




