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第1章1-4

・1-4


プラン、プラン、プラン・・・・・・

指に摘まんでいるリンゴの芯が、歩くたびに揺れる。

防壁を目指しつつ、さっき食べたリンゴの芯を捨てるため、ゴミ箱を探しているのだが見当たらない。

どこかその辺に置いていこうかとも思ったのだが、この街はやたらとキレイで落ち葉すら落ちていない。だからゴミを捨てることに抵抗を感じる。


(ゴミは持ち帰っているのか?)

捨てたゴミが次のゴミを呼ぶと聞いた事があるけど、まったくゴミが無いとゴミは貯まらないんだ、きっと。

この世界の文明水準は低いように感じたが、生活水準は高いのかもしれない。通りを歩いていても清潔で、どことなく几帳面さを感じる。

(この世界の神様は日本人で放任主義で綺麗好き)

オレの中の神様像が固まっていく。


(いっそのこと食べてしまおうか、芯を)

まだお金を稼ぐ目処が立っていない以上、この芯だって貴重な栄養源・・・・・・

リンゴの芯を捨てるか、食べるか、そんな事を考えてフラフラしているうちに、ちょっとした広場に出た。そこには馬車がずらりと並んでいる。


(そうだ!馬に食べてもらおう)

自分で食べようかと思っていたものだ。馬に与えても問題は無いはず。

そう思い、馬車に繋がれている一頭の馬に近づいてみた。


「馬でけぇー」

さっき馬ではファンタジー要素が足りないとか思っていたのに、目の前に来るとその大きさに心が躍る。こんなに近くで馬を見るのは初めてなのだから。


鼻筋を撫でてみると、オレの手に残ったリンゴの匂いを嗅ぎ取ったのか、鼻がヒクヒクとしきりに動き出した。

リンゴの芯の匂いを嗅がせてから与えたら、芯は一口で喉の奥へ消えていった。

だが馬はいつまでも咀嚼し続けている。奥歯が空を捕らえ、歯音だけが鳴っている。

カッポ、カッポ、カッポ・・・・・・


まだ食べたり無さそうな表情の馬をなだめて首筋を撫でてやる。触り心地は以外にもツルツルとしていた。ブラッシングされて良く手入れされているのかもしれない。

「もうないぞ、フフッ」

戯れるオレの後ろから声がした。

「兄さん、乗ってくかい?」

振り返ると声をかけたと思われるオヤジが歩いて近づいてくる。

「えっ?」


(乗っていく?どこに??)

疑問が浮かんだが、オレは反射的に断っていた。

「いいです。」

「そうかい」


オレとのやりとりに足を止めることなくオヤジは馬車に乗り、手綱を引いて行ってしまった。

去り際に見えたホロ付きの荷台には冒険者らしき人たちが乗っているのが見えた。

(ひゃー!あれに乗ったらどこへ連れていかれるんだよ!)

もしかするとここに停まっている馬車は、タクシーかバスの様なものなのか?


馬車の後姿を見送りつつ、せっかく声をかけられたのだから断る前に話を聞けばよかったと気付いた。

(今度は情報収集しよう)

そう思った矢先、また別の馬車を引くオヤジが声をかけてきた。


「兄さん乗ってくかい?」

早速、チャンス到来だ。

「どこまで行くんですか?」

「隣町のラゴまでだよ」

オレは後ろの荷台に目をやった。先ほどの馬車には冒険者が乗っていたが、この馬車には樽や木箱など荷物が載せられている。


視線が荷物に向いているのを察したのか、オヤジが言葉を続ける。

「荷物を載せているが一人くらいならそこの木箱を積み上げれば乗れない事は無いよ」

「どれくらいで隣町に着きます?」

「なに、そんなにはかからないよ。陽が沈む前にはつくはずさ。その間は木箱を支えてもらう事になるけどね」

「お金は?」

「500シルバ」

オレは腕を組み、アゴに手をやって考えているフリをした。


「まだ済ませないといけない用事があるので、今はいいです」

そう言って馬車から一歩後ろへ離れると、オヤジは手を挙げてオレに挨拶をくれ、手綱を引いて行ってしまった。


今のやり取りで少しわかった事がある。

隣町の名前が「ラゴ」であること。

その街が馬車で数時間の距離にあること。

お金の単位がシルバであること。


(ああ!メモを取りたい!!)

オレはゲーム中、集めた情報をメモに取りながらプレイするタイプなのだ。メモを取りながら少しづつ世界の全貌が明らかになっていくのがRPGの醍醐味だと考えている。

(メモ帳って売ってるのかな?)

また1つ疑問が浮かんだ。文明が十分発達していないような異世界では紙が貴重だったりする。


オレはポケットからお金を取り出した。メモ帳を買うためではない。それに、この場所にはそんなメモ帳を売っていそうな雑貨屋など見当たらない。

メモ帳の事は後でいいが、お金の単位で気付いた事があったのだ。手に乗せたコインを見ながら確認する。きっと数字の後に言っているのはお金の色のことだろう。馬車のオヤジは”シルバ”と言っていた。


持っている500と100の数字が書かれたコインはシルバー色だ。

100の単位がシルバだとすると、先ほどリンゴを買った時に使った10と書かれたコインの色は銅色、オレの早とちりで妖怪のかっぱと聞こえたが、銅色をカッパーと言っていたのだ。


(まてよ?なんで銅なのにブロンズじゃないんだ?カッパーってなんだっけ?あぁ、携帯で検索したい!)

ブロンズでもカッパーでもどちらでもよい。隣街まで500シルバで行けることが分かっただけでもこの世界の物価水準が何となく掴めた気がする。


コインをポケットへ仕舞い、オレは再び町の出口を目指すことにした。隣町に行くと言っていた馬車のオヤジが通っていった路地を追って。


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