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第2章2-25

2-25


・ユウのターン


「よかった・・・・・・」

すぐ側でチェアリーの声が聞こえる。彼女の顔を探すが、視界がぼやけてよく見えない。

それに頭は重く、ぼーっとする。


暫くまばたきしているうちに徐々に意識と視界がハッキリしてきた。

彼女は仰向けになっているオレの上にまたがり、頭を抱きかかえるようにして顔を覗き込んでいた。

息づかいが分かるほど、すぐ側に彼女の顔がある。


彼女の冷たい手が頬をさする。

(気持ちいい・・・・・・)


何が起こったのか思い出そうとするが、スライムに口を塞がれたところまでしか覚えていない。

彼女がなぜオレの上に乗っているのか分からなかった。どうやら気を失っていたらしい。

(チェアリーが助けてくれたのか?)


オレがどうなったのか尋ねようとしたが、口の中はやたらと粉っぽく上手く喋れなかった。

スライムに顔を覆われた時、ゼリー状のネバネバした物体が口の中に入って来た。それはまるで水の中で溺れるような感覚だったのに、今は粉に水分を全部奪われ砂漠に居るように喉はカラカラだ。


(黒蜜をかけたきな粉餅を、喉に詰まらせたみたいだ)

ねっとりとした液体と、ぶよぶよとした塊、それに粉っぽさ、それらを合わせて丁度そう感じた。

命の危機だったのに、きな粉餅が頭に浮かんでしまいシュールな絵面に笑ってしまう。


それに対してオレの顔を優しく撫でてくれている彼女は、今にも泣きだしそで不安とも安堵ともつかない表情をしていた。

(女の子に助けてもらうなんて情けない・・・・・・しかもスライムなんかに、)


最弱だと思っていたスライムにやられた事と、彼女に助けられた事が情けなくなって、うめくように発した言葉がカラカラの喉から漏れた。

「・・・・・・っともなぃ」

喉に粉が引っ掛かって上手く喋れなかった。

「え、なに?」

彼女が聞き返す。


オレはゆっくり答えた。

「スライムに・・・・・・やられるなんて、みっともない。ゴホッ、ゴホッ!死んだ方がマシ・・・・・・ハハっ」

泣きそうだったチェアリーを心配させないよう強がってみせたつもりだったのだが、彼女はオレの言葉を聞きくとみるみる顔がくしゃくしゃになり、大粒の涙を流し始めた。それがオレの顔にぽたぽたと流れ落ちる。


そして、くしゃくしゃの顔を紅潮させると、

「バカッ!!死んだらッ、死んじゃうんだよッ!!」

オレを叱りつけた。


言っている事は何だか変に思ったが、その真剣な怒気にオレは本当に死にかけていたんだと実感した。

(本当に、みっともない・・・・・・)


彼女が馬乗りをやめてどいてくれても、死にかけていたという事実に力が抜け動けなかった。

「ごめん・・・・・・」

草の上で仰向けになりボーっとしているうちに、ポツリと言葉が漏れた。


昨日、門番に丸腰で外に出ることを心配されたが、その意味が身にしみて分かった。

自分でも「モンスター、舐めんな!」と考えていたのに、考えるのと体験するのとではまるで違う。やはり、オレはモンスターの事を舐めていた。

ゲームの世界のような感覚でいたため、本当に殺されかけるとは思ってなかったのかもしれない。


ゆっくり立ち上がり、側に転がっていた剣を拾い上げた。

(何のために持ってたんだか、)

剣を鞘に納めてから、左手をめいいっぱい、痛いくらいに握りしめてみた。ラノベでは主人公がピンチの時には、何かしらのチート能力に目覚めて乗り切るのがお約束のはずだ。

(ここの神様はいつになったら助けてくれるんだよ)

開いた手のひらには爪の後がくっきりと残っただけだった。


オレは服についている粉を払った。やけになって何度も何度も。

せっかく転生したというのに、オレの思っていたものと違う。その不満をぶつけたいのに神様も現れてくれない。


粉を払っているうちに、足元で緑に光る小石が転がっているのが目に入った。

(もしかして魔宝石か?)

彼女の話ではモンスターを倒した後には魔宝石と呼ばれるモンスターの核だったものが残ると言っていた。その核がこれの事かと思い、緑に光る小石を拾い上げた。見てみるとそれは彼女が河原で火を起こした時に使っていた小石に似ている。


スライムを倒してくれたのはチェアリーのはずだ。

彼女に見せようと思ったが、オレに背を向け泣きじゃくっている。肩が嗚咽で上下していて、かける言葉が見つからない。

取りあえず小石はポケットにしまっておいた。


死にかけたのはオレだというのにチェアリーはまるで自分の事の様に泣く。

声をかけづらく暫く待っているうちに、ようやく泣き止んだ彼女はオレの方へ振り返ってくれた。

「酷い顔だよ、川に洗いにいこっ」

無理して笑ってくれているのが分かる。彼女も涙でぐちゃぐちゃで酷い顔だ。


川で顔を洗っている時も、彼女のカバンを拾いに行くときも、自分が情けなくて何も言えなかった。


無言のまま準備を終え街へ帰ろうと歩き始めた時、後ろを付いてきていた彼女がオレの手を取った。

ギュッと力強く握り、手を引くようにオレの前を歩き始める。

(本当に情けない・・・・・・)

彼女は心配してくれているのだろう。しかし、これでは子供扱いだ。だが、手を振りほどけば、それもまた子供っぽい。また「やめてくれ」と言っても彼女の優しさを無下にしてしまう。


オレは何もできず、ただただ彼女に手を引かれるまま歩いた。

それこそ子供の様に手を引かれて。


(街の中は流石に恥ずかしいな)

門が見えてきてそんな事を考え始めた時だ。彼女が急に立ち止まり振り返って言った。

「今夜、どうする・・・・・・」

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