第2章2-24
2-24
・チェアリーのターン
気まずくて黙ってしまったけど、このまま歩いていてもしょうがないと思い、彼に声をかけた。
「私は河原を探すから、ユウは土手の上を探してくれる?」
「ああ、分かった」
パーティーであれば、探索中に索敵係と離れて行動する事はあまりしないのだけど、彼の方もばつが悪く思ったのか分かれて探すことを認めてくれた。
(モンスターも少ないし、大丈夫よね)
私が別々に探そうと言ったのには、気まずかっただけではない理由がある。それはスライムがどこにいるのか見当が付いていたからだ。
この先、川を上流に向かって少し進んだところで、流れが蛇行している場所がある。その川の流れに囲まれた場所にスライムが溜まっていることがあるのだ。
2人で行っても良かったのだけど、私がスライム探しが得意だと言ってあった手前、先に見つけて倒しておきたかった。
(また、褒めてもらえるかも、ふふっ♪)
何より、気まずくなってしまった空気を変えるきっかけが欲しい。
モンスターは人を襲うために常に動き回っている。それは草の中だろうが、藪のなかだろうが体が通ることのできる隙間があればお構いなしに突き進んでいく。
しかし、奴らが通ることの出来ない場所がある。それは水だ。水があるとなぜかそれを避けていく。例え水深が浅く足しか浸からないような場合でも。
だから雨が降るとモンスターは活動を停止する。周りが水浸しで動きが止まってしまうのだ。その水を嫌う習性から冒険者は雨の日にわざわざ狩りに出かける。動けないモンスターを見つければ狩るのはたやすい。
けど油断は禁物。雨が降っているからと深追いしてはいけない。水に濡れたからといってもモンスターは死んでしまう訳じゃないのだから。雨が止んで乾けばまた活動を再開するのだ。もし見通しの利かない場所で雨が止み、運の悪い事に周りがモンスターだらけだとしたら・・・・・・狩っていたはずのモンスターに逆に狩られる事になる。
こうした事からモンスターを倒せないと判断したら川に逃げ込むのも、一つの生き延びる知恵だ。川での探索は一番安全な狩の方法でもある。
(ユウは川に飛び込んで荷物が流されたのかな?)
彼の事を考えながら川が蛇行している所まで来てみると、期待した通りスライムが数匹うごめいているのが見て取れた。スライムだけで他のモンスターはいない。
モンスターは川に行き当たると、その流れに沿って進んでいく。川が蛇行して湾曲した場所ではその内側をグルグルとずっと回り続けている事があるのだ。
大型のモンスターであれば内側にとどまらず出ていってしまうのだけど、スライムの場合、周りに転がっている石も障害物になるため運悪くいつまでも抜け出せない事が多いらしい。
(周りが見えてないのかしら?)
こんな所にいつまでも留まっているスライムを見ると、そんな事を考えてしまう。普通の動物なら同じところをグルグル回り続けるなんて事はありえないだろう。実際、スライムには目の様な物はついてない。
私は1匹のスライムに小石を投げつけた。
ヒュッ!
その投げられた石に気付き、こちらへ向かってくる。
腰の剣を抜き上段に構えて待ち、間合いに入ったところで振り下ろす。
ブシャッ!!
難なく、スライムは粉になって消え去った。
地面には魔宝石がコロンっと転がり、太陽の光を受け緑色に煌めいている。
「魔宝石はキレイなんだけどなぁ」
私はぶよぶよとした見た目のスライムが少し苦手だ。
キラキラ光る魔宝石を拾ってポケットへしまい、同じ要領で残りのスライムも倒していくと、時間をかけずそこそこの収穫となった。
「これでしばらくの間は何とかしのげるわ」
集めた魔宝石を眺め、ホッとする。
このスライムが溜まりやすい場所を見つけたのは偶然だった。普通の冒険者ならスライムが数匹いたくらいでは見向きもしないかもしれないが、ソロで細々とやりくりしている私にとってはありがたい場所だ。
私は財布がピンチになるとこの場所を訪れてスライムを狩っている。だけど、いつ来てもスライムがいるわけではない。さすがに全部が全部この場所でグルグル回り続けている訳ではなく、何かの拍子に抜け出せることもあるようだ。
最近はモンスターが減っているので、もしかしたら他の冒険者に狩られてしまったのではと来る前は考えたが、スライムがいてくれて助かった。
彼に褒めてもらえることを期待して、土手の上に登った。
辺りを見回す。
「いた。」
土手の上は見晴らしがいいので、彼の姿はすぐに見つけることが出来た。
だが、彼はモンスターをさがすどころか草の上に寝転がっている。
「またぁ?もう・・・・・・」
昨日、教会で初めて彼を見た時の事を思い出した。その時もユウは朝から芝生の上で寝ていたのだった。よっぽど眠たがりなのかしら?
「いくらモンスターが減ってるからって、街の中ならともかく・・・・・・!!」
嫌な予感がして私は走り出した。
走りながら目を凝らす。彼の顔の上で何かモゾモゾ動いている!
「いやぁーーーー!」
カバンを放り出し全力で彼の元へ駆け付けた。
倒れている彼に馬乗りになり、顔のスライムをはぎ取る。
「イヤ!イヤッ!!やめてっ!!」
顔を覆うぶよぶよとしたゼリー状の肉片を必死にかき分けていく。
彼はぐったりとしていて反応が無い。
「おねがい!!だめっ、ダメ!!」
むしる様にかき分けているうちにスライムへの有効打となり、スライムはプシャー!!と粉散した。
「ユウ!ユウッ!!」
ぐったりしている彼を揺するが起きない。鼻へ手をかざしてみると息をしていなかった。
私は急いで彼のお腹に両手を重ねて添えて思いっきり押した。
ふんっ!
「ボハッ!!」
勢いよく空気が押し出され、口を塞いでいたのであろうスライムの粉が吐き出された。
「ガハッ!!ゴホッ、ゴホッ・・・・・・ハアぁ、はあ、はぁ」
彼は息を吹き返した!
「ユゥ・・・・・・ううっ」
彼の顔を覗き込むと、うつろな表情をしてはいるが、私の顔を目で追っている。その様子を確認して安堵した。
「よかった・・・・・・」
腕で抱きかかえるようにして、ぼーっと放心状態でいる彼の顔を優しく撫でてあげた。
顔に付いている粉を払ってあげると、彼の唇が微かに動いた。何か言おうとしたのだろうと聞き返す。
「え、なに?」
「スライムに・・・・・・やられるなんて、みっともない。ゴホッ、ゴホッ!死んだ方がマシ・・・・・・ハハっ」
”死んだ方が”なんて言葉を聞き、私は堪えていた涙があふれだした。
彼の顔にぽたぽたと流れ落ちる。
「バカッ!!死んだらッ、死んじゃうんだよッ!!」
私は大声で怒鳴っていた。
怒鳴ってから慌てて口を両手で押さえた。エルフが怒鳴るなんてめったにない事だ。
スライムに襲われていた彼を見て気が動転した事と、ユウの口から思いがけない言葉が出た事で、私は頭に血が登って感情的になってしまったのだ。
私自身、怒鳴ってしまった事が意外で決まりが悪くなり、馬乗りになっていた彼から降りた。
彼に背を向け涙を拭いているうちに、高ぶった気持ちは徐々に落ち着きを取り戻し、気の抜けた息が漏れた。
「ハァー・・・・・・」
冷静になってみると自分が怒鳴った言葉が、如何にも当たり前の事を言っていた事に気付き、今度は恥ずかしさが込み上げた。
「ごめん・・・・・・」
ユウが小さな声でポツリと謝った。
(また、謝らせちゃった)
彼が起き上がり、残っていた粉をパンパンと払う音が背中越しに聞こえる。
私は涙を拭きあげ、めいいっぱい作り笑顔をして振り返った。
「酷い顔だよ、川に洗いにいこっ」
ユウの顔は、私が落とした涙とスライムの残していった粉とが混じり合って張り付き、ベタベタだった。




