表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/330

第2章2-21

2-21


・チェアリーのターン


ユウにも手伝ってもらったジャガイモのオレンジソース和えは、良いでき上がりだった。

「食べよっ」

「うん、」

彼に食べるようにすすめたのだけれど1つ口に運んだだけで、いまいちアザミの様に食いつきがよくない。

(甘いのは苦手なのかな?)

私も1つ摘まんでみる。

「はふっ!はふっ!・・・・・・うん!おいしい!」

ジャガイモは噛むとホクホクだった。アツアツの湯気をフーフー言って吹き出しながら、次第に熱さに舌が慣れるとオレンジソースの甘酸っぱさがじんわり広がった。元々甘いオレンジが、トロトロに煮詰まった事で甘さが増し、それがベーコンの油に残った塩味と旨味が合わさり甘じょっぱく、コクのあるソースに仕上がっていた。


(思いつきの割には上出来!)

私の食べる姿を見て、彼が微笑む。

「おいしい?」

「うん!」

その笑顔につられニコニコしてしまう。

(そうだ!)

ミントティーを忘れるところだった。火にかけたまま煮だし過ぎてしまうと、えぐ味が出てしまう。

私はお湯につけておいたミントの茎を摘まみ上げ、彼にカップを差し出した。

「ミントティー出来たよ」


ミントティーは人によって好き嫌いが分かれる飲み物だ。今回はオレンジの果汁を加えたので甘酸っぱくなって、かなり飲みやすいと思うけど。

彼が飲んでくれるのか気になる・・・・・・

「熱いから気をつけて」

「ありがとう」

カップを受け取った彼は慎重にすすった。

ズズッ・・・・・・

「おいしい?」

「はぁー、鼻がスースーする」

ペパーミントは数あるミントの種類の中でも特に香りが強い。初めてそのお茶を飲むとその強烈な清涼感に驚く。

だけど、最初の驚きも飲みなれてくると癖になる。私の母はその清涼感が好きで、いつもペパーミントのお茶を飲んでいた。


お茶をすする姿を見つめていると、彼が何かに気付いたように声を上げた。

「あ、」

「どうしたの?」

「このカップ一つしかないの?ごめん!一人で飲んで」

「いいのっ、いいのっ!大丈夫っ!あなたのために作ったんだから、気にせず飲んで」

モンスターを狩に行く時、邪魔になるので荷物は少ない方がいい。そのためカップは1つしか持ち歩いていない。

(やっぱり気遣いの出来る人だ)

ほんの少し気を遣ってくれるだけで、私はそれで十分だ。それに、ミントはまだ残っているのだから後からでも飲める。


それでも気になったのか、彼は私に飲みかけのカップを差し出してきた。

「はい」

「えっ!?」

「まだ少ししか飲んでないから」

私に飲むように進める。

(えっと・・・・・・それって、その・・・・・・)

彼はにっこりほほ笑んでいるので、私はカップを受け取ってしまった。

カップの飲み口を見つめる。それは今、彼が口を付けていた部分。

(・・・・・・間接キッス)


ズズッ・・・・・・はぁ・・・・・・。


少しすすってから、私はドキドキしながら彼を見た。

ユウは流木でかまどの中をつつきながら、炎を見つめている。彼はこういう事は平気なタイプなんだろうか?

(もう!なんですました顔でこんな事出来るの!私はすっごいドキドキしてるのにぃ)

怒っているわけではない、ただ、彼の反応が素っ気ないような気がしてモヤモヤする。恥ずかしい様なくすぐったい様な、今の気持ちをそのすました顔にぶつけたい気分だった。


私は少しやけになってジャガイモを頬張った。

ぱく!

(むふふっ)

ジャガイモのモッタリとした食感を、ミントティーで潤す。

ズズッ・・・・・・

(でへへっ)

彼が焼いてくれたジャガイモを頬張り、彼に分けてもらったミントティーで流し込む。初めて作ってあげた手料理は彼の為だったはずなのに私にとっても幸せなものになった。


「ごちそうさま」

お昼ご飯を食べ終え、片付けに入ると彼が急ぎ始めた。

鍋を川に洗いに行ったかと思うと水を汲んできて、たき火の始末をしてくれたりとせわしない。

確かにちょっとゆっくりしすぎたかもしれない。空を見上げれば太陽は真上を過ぎ西へ傾き始めている。

このまま火を囲んでおしゃべりしていたい気分だけれど、そうも言っていられない。スライムを倒さないと・・・・・・

(財布が、キビシイ)

私も急いで片付けを手伝う。


片付け終えたところで彼が確認する。

「上流に向かうんだよね」

「そう、」

答えるとうなづいて早々に歩き出そうとしたので、置いていかれそうになった私は彼を呼び止めた。

「ちょっと、待って」

カバンから練り香水を取り出す。やはりどんな時も身だしなみは大切だ。たいした運動はしていないから汗臭くはないと思うけど、煙の臭いが残っていないか気になる。


彼を待たせないよう指に取ったクリームを首筋にだけ急いで塗る。ユウはなにをしているんだろう?といった様子で側に寄ってきた。

「練り香水だよ」

持っていたクリームの入った缶を差し出して見せてあげた。

「へぇ、クリームなんだ、液体の香水と何か違うの?」

「そんなには変わらないけど、ほら、液体だとカバンの中でこぼれたら大変でしょ?」

「なるほど」

彼はこういう物には疎いのか、興味津々に見ている。

練り香水はエルフの村の特産品だ。

エルフたちはただ森の恵みを採取するばかりではない。エルフの村では長の意向で様々な植物を育てたりもしている。

その加工品を売ったりして、生計を立てている者は多い。練り香水もその一つだ。バラやハーブといった香りのよいものから精油を精製し、その精油に蜜蝋とオイルを混ぜて練り香水は作られる。


私はバラの香りの練り香水が好きで愛用していた。華やかな花の香りは気分も上げてくれる。

「バラの香りだよ、嗅いでみる?」

缶を差し出しながら、少し期待して言ってみた。さっきミントの匂いを嗅ぐ時に手を握ってくれたことを思い出したのだ。あの時はとっさの事でどぎまぎしてしまったが、今はこころづもりが出来ている。

私はじっとユウが手を握ってくれるのを待った。

しかし、彼は私の側に寄ると練り香水を持っていた手は取ってくれなかった。いや、手は避けるようにして首筋に顔を近づけてきたのだ!

(えっ!!)

ビックリして私は体が固まってしまった。


スゥ―


静かに鼻から息を吸ったのが聞こえた。

(私の匂いを嗅いでる!?)

ゾク!ゾク!ゾクッ!!

そう分かった途端、首筋から背中にかけて鳥肌が立った。

離れざまに彼が言う。

「甘いにお・・・・・・」

「ダキャン!!」

耳元で、それこそ甘い言葉をささやかれそうになり私は思わず変な声が出た。

「だきゃん?」

彼が不思議そうにこちらを見た。

(はっ、恥ずかしいっ!!)

匂いを嗅がないように「ダメ」と言いかけたのと、彼のささやきに敏感な私の耳が反応して出てしまった「キャ!」がごっちゃになって、口から出てしまったのだ。

手を握るだけと思っていたのに、練り香水を塗っていた首筋の匂いを嗅いでくるなんて!そんなこと思ってもみなかったので取り乱してしまった。


顔中真っ赤にしながら私は注意した。

「人の匂いを嗅ぐなんて・・・・・・失礼じゃない?」

「ゴメン・・・・・・つい」

彼は素直に謝ってくれた。

謝らせてなんだが、私もさっきはこっそり彼の匂いを嗅いでいたのだ。

(人の事は言えないけど、)

お互いばつが悪くなり、黙ってしまった。


・・・・・・・・・・・・


(突然すぎるのよ。心の準備が出来てれば私だって・・・・・・べつに)

顔が熱い。耳の先までジンジンする。

気まずさから声をかけることなく、何となしにお互い川の上流を目指して歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ