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第2章2-19

2-19


・チェアリーのターン


(またボーっとしてる)

川に着いた私は早速、お昼ごはんの準備をするため河原に降りた。しかし、彼は土手の上で遠くを見つめていて付いてこない。

私は呼びかけ、手を振った。

「ユウ、早く」

彼は私の呼びかけに手を挙げると、ようやく河原に降りてきた。

(何を見ていたんだろう?)

この辺りには特に目立つものなんて何もない。


不思議に思いつつも、私は火を起こすため落ちている流木を集めた。彼の方はというと転がっていた石を積み上げかまどを作り上げていた。

「すごーい!これ、鍋が置けるようになってるの?」

「凄くはないよ、これくらい簡単に作れるから」

私がたき火をする時は転がっている石と石の間に流木を詰めて火を起こす程度だ。しかしそれだと、鍋を置くには都合が悪い。いつも鍋を水平に保つために、小石で調整したりしなくてはならず苦労していた。

(やっぱり、男の人がいると頼りになる)

重いので大きな石を運ぼうとは、私なら考えない。


さっそく彼が作ってくれたかまどに流木を入れ、火がつきやすいように枯草を詰める。

「ちょっとまっててね。今、火をつけるから」

カバンから魔宝石を取り出し、

「ファイヤー」

魔法で火をつけた。

この様子を隣で見ていた彼は何か言いかけたのか、手で口を押さえた。

手で口を押さえるのはエルフの間での習慣だ。

くしゃみが出かけたら手で覆うのと同じように、思わず大声を出しそうになった時は手で押さえる。大きな声で話されるのを嫌うエルフ達だけの決まり事だった。


他の種族にこのエルフの決まりごとを押し付けるつもりはないけど、彼は私の事を気遣ってくれているのだろう。

(でも、何を言いかけたんだろう?)

火を自分でつけたかったのかもしれない。こういう事が男性は特に好きだ。パーティーで野営をする時も妙に張り切りだす男性はいる。


私はいつもの調理を始める気分で火をつけてしまったが、次の機会は火おこしまで彼に全部頼んでみよう。

その彼は仕事を奪われたとでも感じたのか、おもむろに大きめの流木を手に取り腰の剣で薪割りを始めた。

何も言わなくても、かまどを作ったり薪を割ったりと手伝ってくれる。そしてエルフである私に合わせて気遣いも出来る。

(完璧だわ)

剣を振るう彼に見とれて思わずうっとりしてしまう。


(よし!)

私も彼の為に美味しい手料理を作ってあげようと気合いを入れた。

カバンからフライパンと鍋、それにカップとナイフを取り出す。まずはフライパンを火にかけた。熱くなるのを待つ間に、バタールを温めようと取り出した。焼きたてパンとはいかないけど、少し温めるだけで格段に美味しくなる。

(そうだユウに持っていてもらおう)

火をつけるのを取ってしまったので、今度は仕事を頼むことにした。

「ねえ、これ火にかざして温めてくれる?」

「ん、温めればいいの?いいよ任せて」

パンを渡すと彼はいつの間に作ったのか流木から箸を削り出していて、その箸にパンを挿すと火にかざしクルクル回し始めた。


(手慣れてる!)

きっとこれまで何度も野営をこなしてきたのだろう。私の行動を先読みしていたかのようだった。

その手慣れた手つきに生半可な物を出す事は出来ないというプレッシャーを感じつつ、私は調理に取り掛かった。

熱したフライパンでまずベーコンを焼く。

ベーコンの脂肪から油が溶け出し、あっという間に肉は揚げた様にカリカリだ。

彼の方はパンを焦げないようにクルクルと回している。

「もういいよ」

パンを受け取り、ナイフで切れ込みを入れた。温めたおかげで中までふかふかだ。そこへスライスしたチーズと、焼きたてのベーコンを挟む。

「はい、どうぞ」


まずは1品目。

だけど、手料理と言っておきながらベーコンを焼いただけのサンドイッチだった事に、私は少し恥ずかしさを覚えた。

「ありがとう」

サンドイッチを受け取った彼が大きな口を開けて頬張る。

「うん、ベーコンがカリカリに焼けてて美味しいよ」

(ふぅ・・・・・・よかった、喜んでくれて)

彼の笑顔を見て胸をなでおろし、私も一緒にサンドイッチを頬張る。

(むふふっ♪)

彼と向き合って同じものを食べているだけでとてもうれしい。昨日隠れて食べていたリンゴとは大違いだ。


サンドイッチを食べ終えたところで、2品目に取り掛かった。使うのは来る途中で刈り取ったアザミだ。

(まずは洗わなきゃ)

私がアザミを川で洗って席をほんの少し離れていた間に、彼は私の分の箸まで削って用意してくれていた。

「わぁ、ありがとう(本当に先読みされてる!)」

アザミは茹でるつもりだったので、ちょうど箸が必要だったのだ。驚く私の姿を見て、彼はニコニコと笑った。その笑顔にまたプレッシャーを感じる。


鍋を用意すると、彼は「何を作ってくれるのだろう?」といった様子でこちらを見はじめた。

(めっちゃ見られてる!)

見てても構わないが、あまり見られていても緊張するので、彼の気をそらすため一緒に料理を手伝ってもらうことにした。

コートのポケットに入れておいたジャガイモを取り出す。

「ねぇ、これ洗ってきてくれる?」

「いいよ」

お願いを快く引き受けた彼が川に洗いに行く。その間に私の方は鍋にお湯を沸かすため、魔宝石を使った。

「ウォーター」

たぷっん!

魔法の力で鍋になみなみと水が満ちる。その水をカップにも取り分け、両方とも火にかけた。


「あー・・・・・・」

彼がジャガイモを洗い終えて帰ってきた。さすがにジャガイモをどうするのかまでは先読みできなかったようでイモを片手に、手持ち無沙汰な感じに私の後ろで声を出した。

「ありがと。次は、ジャガイモを食べやすい大きさに縦に切ってくれる?」

ナイフを受け取った彼が尋ねる。

「皮は剥かなくていいの?」

「うん、皮付きのままで大丈夫」

私が言ったとおりにジャガイモを縦に切っていく。その手つきはそれなりに料理をこなしているようだった。

(やばい!彼、料理できる人だ)

先程からやけに見てくるのは彼も料理好きだからだろう。

私も料理を作るのは好きだが、それは家族の中で振る舞うだけのものだ。他人に振る舞ったことが無った事に急に自身が無くなってしまう。


「お湯湧いてるよ?」

彼に指摘されてハッとする。

「え、あっ、うん・・・・・・」

「ジャガイモはどうするの?茹でる?」

ジャガイモを切り終え、かまどの上にきれいに並べ終えた彼がそれを指さしながら尋ねる。

「茹でちゃダメ!フライパンに並べて」

渡したフライパンに彼は切ったジャガイモの皮を下に向け、キレイに並べ火にかけた。

その表情はフライパンを見つめてニコニコしている。

(まずい・・・・・・)

私は彼の手際の良さに少し焦りを感じながら、グツグツと湧いているお湯の中へアザミを放り込んだ。

本当は料理できるところを彼にアピールするはずだったのに!

思惑が外れてしまった・・・・・・鍋から上がる水蒸気がモヤとなって私の心を曇らせる。

(あっ!)

気を抜いた隙にアザミはグツグツと煮えていた。慌てて火から下ろし、お湯を捨てる。茹でた事で葉に生えているトゲも気にならないはずだ。

今度は水分を飛ばすためそのまま鍋で少し乾煎りする。箸で揺られるアザミはくたっとしてだらしない。

(茹ですぎたかな?)

家族で食べるのならこれくらい気にしないのだけれど、

(家族。)

これからユウとは家族になるのだ。そう考えたら恥ずかしさで頭から湯気が出そうだ。


(あっ!)

煙が出ていたのは鍋の方だった。

慌てて火から鍋を下ろす。水分は既に蒸発しきって焦げる手前だった。

(危なかったぁ)

最後に少し残しておいたベーコンを刻んで入れる。

(味付けは・・・・・・)

私はカバンから油紙に包まれた岩塩を取り出した。その岩塩を彼が興味津々に覗き込む。

「したいの?(やっぱり味付けは自分でしたいのかな)」

「いいの?」

彼は驚いたように聞き返したが、私が岩塩を差し出すと嬉しそうに受け取った。

(ちょっと心が折れそう・・・・・・)

さっきから思うように作れていないし、手料理を作って喜んでもらうつもりが彼にお株を奪われたようで自分が情けなく思えた。


彼は渡した岩塩をまじまじと見つめている。

「どうすれば・・・・・・」

そう小声でつぶやいたのが聞こえた。

「岩塩使ったことないの?ナイフで削ればいいよ」

「ああ、岩塩か」

塩は粉末のものだと湿気を吸ってダメになってしまう事があるから、私がいつも持ち歩くのは湿気りにくい岩塩だ。防水用に油紙を何枚も巻いて持ち歩いている。

(何と勘違いしたんだろう?)


ガリ!ガリ!

岩塩を少し削った彼は、味見をしだした。

ぺろんと手の上の岩塩を舐め、その辛味で眉間にしわが寄る。

彼にも知らない事があったようで、その様子を見て私は少し安心した。

ズッー、ズッー、ズッー

味見を終えると塩梅がわかったようで、彼はナイフで薄く削ぐようにして、塩をアザミにかけてくれた。

「ありがと」

軽く混ぜて味を馴染ませれば、アザミの炒め物の出来上がりだ。


まずは彼に食べてもらう。

「うん!おいしいよ。アザミがこんなに美味しいなんて知らなかった」

「アザミ食べたの初めて?」

「食べられることも知らなかったよ。料理に詳しいんだね」

(ありがとう、お母さん!アザミの食べ方、教えてくれて)

私も鍋からつまむ。

(ホントだ。おいしい)

上手くできなかったのではと焦ったけど、味は申し分なかった。彼はよほど気に入ったのか、パクパクと食べ進める。

(また作ってあげよう)

私の折れかけた心はなんとか持ちこたえた。


3品目はジャガイモだ。

フライパンの上には彼が丁寧に焼いてくれたおかげで、こんがり焼き色の付いたジャガイモが並んでいる。

そこへひと手間加える為オレンジをコートのポケットから取り出し、手のひらで転がしながらよく揉んだ。中の実を潰して果汁をしっかり出させる。

フライパンはたき火で熱せられ、ベーコンの油がジュウジュウ音を立てていた。

(そろそろいいかな?)

オレンジをナイフで半分に切り、熱々のフライパンへ思いっきり果汁を絞り出す。


ジューーーーーウッ!!


彼は音に驚いたのか、また口を手で押さえていた。

「ごめん、驚かしちゃった?」

「うん・・・・・・少し」

あっけにとられたのかジュウジュウ音を立てるフライパンを、ただ見つめながら彼はつぶやいた。

「振って、振って、焦げるから!」

見つめるだけのユウに私は慌てて指示を出す。彼も慌ててフライパンを振った。


ジャガイモは彼に任せ、こちらは食後のお茶の準備に取り掛かる。火にかけておいたカップにはぐらぐらとお湯が沸いている。そこへ摘み取ったペパーミントを適量、そして残り半分のオレンジを絞って果汁を注ぐ。

(ハーブティーはこれでよし!)

ぺろん。

味見のつもりで手についた果汁を舐めてみた。見た目の悪さに反してオレンジはとても甘い。

(これだけ甘いなら、きっとおいしいはず)

ミントだけのハーブティーでも良かったのだけど、オレンジを入れたのは思いつきだ。


ジュウジュウいってるフライパンに目を移すと、オレンジの果汁が煮詰まり、とろみが出はじめていた。

「もっと、振って!もっと!もっと!」

「あ、ああ!」

オレンジソースが焦げないように、彼を煽る。

ジャガイモはオレンジの果汁とベーコンから出た油が混ざり合ったソースをまといツヤツヤだ。見るからに甘くて美味しそうなのが分かる。つられて私は匂いを嗅いでみた。

「ウ~ン(いい匂い)」

オレンジの爽やかな酸味の香りと、糖分が少し焦げたキャラメルの匂いが混じり合い食欲をそそる。

「トロトロだね」

マルシェでジャガイモを買った時、最初から焼こうと思っていたけどオレンジソースにしたのはこれも思いつきだった。思った以上においしそうに仕上がり、デザートとしては申し分ない。ハーブティーと合わせて食後をゆっくりくつろごう。


その前に手を洗うため私は席を立った。

「ちょっと待ってて。手、洗ってくる」


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