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第2章2-18

2-18


・ユウのターン


チェアリーが言っていた川というのは街を出てすぐの所を流れていた。

(1キロも歩いてないんじゃないか?)

道草を食わなければ、30分もかからず着いたはずだ。

街の門を出た時は、見渡しても川など見えなかったのでかなり歩くのかと覚悟していたが、川はその流れによって大地を削り、くぼ地を流れていたため遠くからは見えなかっただけだった。

(小川だな)

川というから目の前に広がる広大な草原と相まって、もっと雄大な流れを想像していた。しかし、眼下に流れていたのは穏やかで水深もひざ下程しかなく、向こう岸まで数10メートルそこそこの小川と呼ぶにふさわしいものだった。


オレ達が今歩いてきた街道は、川に架けられている石造りのアーチ橋を越え更に南へと伸びている。

その石造りの橋と穏やかな小川、そして河原の土手沿いに生えている樹木が織りなす風景は、まるで絵画のようだ。

(あー・・・・・・こんなのんびりした場所にモンスターいるのかなぁ)

あまりに平和そのものの景色に、彼女がスライム狩りにこの場所を選んだことを疑ってしまう。

その彼女は土手を下り河原に出ると、オレの事を手招きした。

「ユウ、早く」

その表情はとても楽しそうだ。

(いいのか!こんなのんびりしていて!)

スライムなら簡単に倒せるだろうと思っていたのに、肝心のスライムが出てくる気配がまったく無い!オレは少し焦っていた。今日中にスライムを倒してお金を得なければいけないのにもう昼だ。


彼女の話によればモンスターを倒すと魔宝石というものが残るらしい。それが価値のあるものなのだろう。それを換金すればいいのか分からないし、そうだとしてどこに持っていけばいいのかも知らない。

それに1匹倒せば十分とは思えない。モンスターによって魔宝石の価値は違うはずだ。ザコ扱いされているスライムのことだ、それ程価値があるとは思えない。弱いモンスター程、得られるお金が少ないのはゲームのお約束だし、少しでも多く倒しておくに越したことはない。

(チェアリーは3匹倒して喜んでいたんだから、せめてオレも今日のノルマは3匹・・・・・・)


ハッ!!


(・・・・・・オレは今、何を考えていたんだ!)

いくらお金に困っているとはいえ、ノルマという単語が自然に浮かんだことに驚いた。

常に時間に追われ、のんびりしていることが悪とされ、仕事の為にプライベートの時間を削るのが当たり前という環境に慣れていたオレは今、自ら追い込んで社畜的発想をしていたのだ!

オレは河原で待つチェアリーに手を挙げて応えた。彼女がにっこり笑い返してくれる。

(のんびりすればいいじゃないか・・・・・・とりあえずは昼飯だ。後の事はその時になったら考えるさ)

オレも河原へと降りていった。


彼女は河原に落ちている流木を集め始めた。火をおこすつもりなのだろう。

そういう事ならと、オレは転がっている河原の石でかまどを作ることにした。

かまどといっても簡易的な物だ。その辺の大きめの石を集めて並べるだけだが、その形にはちょっとしたポイントがある。

それは、炎が立ち上がる縦穴と薪をくべるための横穴を作ること。形にするとL字型の空間を作ってやるのだ。

まず、なるべく平たく長細い石を集める。その中で一番大きい石を垂直に立てる、これが竪穴の壁になる。

立てた石を倒れないように両脇と後ろを石で固定したら、固定した両脇に沿って何個か石を積んで壁を作る。

この時、立てた石と壁がL字型になるように配置する。後は、両側の壁の上に長い石を渡し、立てた石と高さを合わせるように調整して石を積み増せば完成だ。

ものの10分程度で出来る簡易かまどだ。

石で囲う事で風の影響を受けないし、炎が一点に集中するので熱効率がいい。縦穴の大きさを調節しておけば鍋を乗せることが出来るので、焚き火用の鍋を吊るす三脚を用意する必要もない。河原で調理するならおススメの方法だ。


(オヤジに教えてもらったんだよなぁ)

子供の頃、父親とよく釣りに出かけた。オレは正直、魚が釣れようが釣れまいがどちらでもよく、楽しみだったのは昼ごはんに父親とするキャンプの真似事だった。

父親に手伝ってもらいながら大きな石を運んでかまどを作ると、そこに拾った流木で火を起こしお湯を沸かす。

食べていたのはいつもカップラーメン。けどそれが外で食べると、ことさら美味しく感じた。

カップラーメンを食べ終われば次は箸にウインナーを挿し、たき火にかざしてクルクル回しながらじっくり焼く。

ジュウジュウ音を立て始めたら熱いと分かっていても頬張る。すると肉汁が染み出して口の中は火傷でべろべろに皮がむけるが、そんな事お構いなしにかぶりついた。ワイルドな大人の男ぶっていたのかもしれない。

最後は余ったお湯でインスタントコーヒーを飲むのが恒例だった。この時も大人ぶっていたオレは我慢してブラックを飲んでいた。それがカッコイイんだとブラックのコーヒーをすする父親を見て子供心に感じていた。


休日をオヤジと二人で過ごしたが、特別何か語り合っていた記憶はない。父親はおしゃべりな方ではなかったし、オレも子供らしくはしゃぐような事はしなかったと思う。ただ釣りをして、ラーメンを食べ、無言でたき火の炎を見つめているだけで良かった。

今思うと自転車のカゴに片手鍋と釣りざおを放り込み、コンビニでカップラーメン2つと粗挽きウインナーを一袋、紙カップのインスタントコーヒーとペットボトルの水を買い、近所の河原で日曜を過ごすだけでよかったのだから、なんと安上がりな家族サービスだったと思う。

だが、それがとても贅沢な時間の使い方だと感じたのは社会人になってからだった。


かまどを作り終え、オレが少し感傷に浸っているところへ彼女が流木を抱え戻ってきた。

「すごーい!これ、鍋が置けるようになってるの?」

彼女は少し大げさに褒めてくれた。

「凄くはないよ、これくらい簡単に作れるから」

謙遜はしたが、内心は褒められたことが嬉しくまんざらでもなかった。

彼女は早速オレの作ったかまどに流木と、着火材として枯草をくべた。

「ちょっとまっててね。今、火をつけるから」

そう言ってバックから小石のようなものを取り出し手に握ると、人差し指を枯草に近づけ・・・・・・

「ファイヤー」

そう言った。確かに言葉に出してファイヤーと言っただけ。おどけているのではない。その言葉を実現するように彼女の指先が青白く光ったかと思うと、たちどころに枯草が燃え上がったじゃないか!


(すっげーーー!!)

唐突な出来事に、叫びそうになったオレは口を手で押さえていた。

かまどを作って自慢げだったオレなんて、何もないところから火を起こした彼女と比べれば子供のお遊びみたいなものだ。

(えっ、今の魔法だよね?魔法なんだよね!?)

彼女にどうやったのか聞きたいが、素性を隠すため質問出来ない事がもどかしい!

魔法の使い方を探ろうと、オレは彼女の一挙手一投足に注目した。

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