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第2章2-15

2-15



・チェアリーのターン


街の門を出る時、ユウは様子がおかしかった。今まで私のおしゃべりに優しくうなづいてくれていたのに、急に前しか見なくなって表情がこわばっていた。

おまけに今度は、門を抜けると私の事は見てくれず遠くばかり眺めている。

(モンスターを探しているのかな?)

ここは街の南門。街道の出発点となる一番大きな門だ。モンスターがいればすぐ兵士が倒して、安全を確保している。この門の前ではスライムだってまずお目にかかれない。

私は遠くを見つめる彼を横目に歩き出した。しかし、彼はついてこない。

しかたないので振り返り尋ねる。

「これからどうするの?」

彼は私の問いかけにようやく向き直してくれ、少し考えてから

「君はどうしたい?」

と、私に意見を求めてきた。


「そうねぇ・・・・・・」

コッレの街は防壁にぐるりと囲まれ、それをさらに道が一周している。この道に沿って見回り馬車は見回りを行っている。昨日は南門から出て右回りに少し進んだ山間でスライムを3匹倒すことが出来た。が、たまたま運が良かったのかもしれない。毎日巡回しているのだからこの辺にはモンスターはいないだろう。


私は南へと伸びる一本道の街道を指さした。

「この道を行くと川が流れている場所に出るでしょ。今日はその川を上流に向かって探索しない?」

「いいね。そうしよう」

彼は私の提案に賛同してくれた。

(ちょうどよかった)

スライム狩りをしなければいけないのは分かっているけど、川へ行きたいと言ったのには理由がある。今日のお昼は河原で火を起こして料理がしたかったからだ。

(ふふっ♪)

彼が私の手料理に喜んでくれるとか思うと、今から楽しみだ。顔がニヤケてくる。

ニヤケ顔を見られないように私は彼の前を歩いた。一応、索敵係として先頭に立たないといけないし、都合がいい。


この辺りは見晴らしがいいので、草陰に隠れられるスライムぐらいしかいないだろうけど、念のため耳を澄ましてみる。

サラサラ、サラサラ、サラサラ・・・・・・

風が草木を撫でる音しかしない。近くにはスライムもいないようだった。

カチャ・・・・・・

後ろで彼が剣に手をかけた音がした。

(そんなに警戒しなくてもいいのに、)

振り返らなくても彼が真剣な眼差しで構えているのであろうことが分かる。

まだスライムも現れていないのに警戒している様子を想像すると、なんだか可笑しかった。でも、

(背中を守ってもらえるって、安心する)

ソロでは得られない安心感に包まれていることが、私にはうれしい。


(彼の為に頑張らないと!)

スライム退治の事もあるが、まずはお昼ご飯だ。私にはアイデアがあった。

(今こそエルフの本領を発揮する時よ)

歩きながら食べられる野草を調達するのだ。

(日当たりのいいこの辺りなら生えてると思うんだけど・・・・・・あった!)

道端に目を凝らすと石積の側で見慣れた葉っぱの植物を見つけた。

私はそのお目当ての植物に駆け寄った。彼も一緒に付いてきて覗き込む。

「ほら!ペパーミントが生えてたよ」

ひと茎摘まんで彼に見せる。

「え?」

ミントを見せてあげたのに彼がすっとんきょうな声を出したものだから私もつられてしまった。

「え?」


彼は植物には詳しくないのかもしれない。

「ペパーミント、知ってるよね?食べるとスースーするハーブ」

私は彼に教えながら葉を一枚ちぎり、食べてみせた。口の中にミントの爽やかな香りが広がる。

「道草食べてる・・・・・・」

(あ、エルフの格言だ)

”道草を食うエルフ”その格言はエルフが草木の利用に精通している事を言い表している。自然の恵みをそのまま利用する。エルフが森の民と呼ばれている由縁だ。

その格言は褒め言葉でもある。森に棲むエルフにとって植物の知識を褒められるのはこの上ない喜びだ。

ミントなんてハーブの中では基本中の基本だけれど彼が褒めてくれた事に顔が思わずニヤケる。

(えへへ)

エルフのたしなみとして、食べられる植物の見分け方は母から教わった。今、見つけたペパーミントも母が好んでハーブティーにしていたので見慣れたものだ。


ペパーミントは日当たりの良い場所に生える。けど、日光が当たり過ぎるのも乾燥してしまい良くない。この生えていた場所には石積があって適度に遮光されるため環境が合っていたらしい。

春先にしては、緑々しく育っていた。

(誰かが植えたのかもしれないわね)

皆が利用できるように、道の脇にこういうハーブなどを植えたり、種を蒔いたりする習慣がエルフにはあるのだ。


私は茎を一本ちぎり、それを手で揉んで香りをたたせた。

「かいでみて」

母からはよくこうしてハーブの葉を揉んで匂いを嗅ぎながら種類を教わったものだ。

彼にも同じように匂いを嗅いでもらおうと、何気なく思ったのだけれど・・・・・・

ユウは私の手をそっと掴むとゆっくり顔を近づけてきた。

(あ、あ!あぁ!?)

手にキスをされるのではないかと、私はドキドキした。手のひらに彼の唇が近づく・・・・・・

クンクン、クンクン。

(きゅぅん!!)

キスはされなかったが、彼の息遣いが手のひらに伝わってくすぐったい!

恥ずかしくて手を引っ込めたい!けど、彼が手を掴んでいるのでそうもいかない。

(私の匂いを嗅いでる!)

実際には手の上にあるペパーミントの匂いを嗅いでいるのだけれど、とても恥ずかしい事をしているような気分になった。


彼がポツリと呟く。

「いい匂いがする」

(あぅーーーんっ!!)

耳元で甘くささやかれれたように感じ、身悶えしそうになる。

彼が時々ポツリと呟く、低く落ち着いた声に私の耳はもう抗えなくなりはじめていた。

(もし本当に耳元でささやかれたら、私どうなっちゃうの!?)

彼は私の反応を楽しんでいるのだろうか?手を離してくれても、こちらの様子をずっと見ている。

私は恥ずかしさを隠す様に、熱い視線を感じながらミントの茎を刈り続けた。

プチ、プチ、プチ、プチ、プチ、プチ、・・・・・・

(とりすぎた、)

お茶にするには取り過ぎてしまった。だけど、あって困るようなものではないし束をからげてカバンのポケットへ突っ込んでおいた。

「行きましょ」

平静を装ったが、ドキドキが収まらない。

さっきまで楽しく話せていたのに、また彼の顔を見ることが出来なくなってしまった。頭の中はユウの事でいっぱいだ。


隣でうつむき加減に歩くうちに、目の端にまた食べられる野草を見つけた。

(あ、アザミだ)

道にしゃがみ込み確認する。

(アザミはトゲトゲしてるからなぁ)

アザミも食べることが出来ると、母から教わった。しかし、トゲトゲの葉が食べた時に刺さりそうで、私はあまり好んでは食べない。

刈り取ろうかどうしようか悩んでいる私の側に彼が寄ってきて尋ねる。

「それ何?」

(ユウは食べてくれるかなぁ?)

「うーーーん、アザミ?」

食べたいかどうか聞こうと思ったのだけれど、まだ手料理を披露するのは秘密だった。そのため中途半端な返事をしてしまった。


やっぱり彼は植物について詳しくはないのだろう。不思議そうにアザミのギザギザとした葉っぱを見ている。

興味はあるようだし食べてくれるか分からないが、せっかくなのでアザミも収穫することにした。

カバンからナイフを取り出し、根元から刈る。大きな葉は固そうなのでより分けてちぎり取り、その葉を刈り取った根元へ戻す。

「根っこを残しておけばまた生えてくるから。乾かないように葉をかけておくの。葉は腐って土に還ると栄養にもなるしね」

アザミは根元で刈ってもまた新芽が生えてくる。新芽が出やすいよう刈った後は、切り口を保護してあげるのだ。

その他にも芽だけを摘んだり、葉だけを収穫したり植物それぞれに合った収穫方法を母から教わった。こうやって収穫した食材を調理するのにも慣れている。

「早く行きましょ」

早く手料理を振る舞ってあげたい。そしたら彼はまた褒めてくれるだろうか?そう考えるとスライムを狩る事など忘れて足取りも軽かった。

(ふふん♪)


歩き出してすぐ、またまた食材を発見した!

「あ!」

今度は野草ではなく、もっといい物だ。思わず私は駆けだした。彼も私について駆けてくる。

(あぁ、楽しい!)

誰かとこうして出かけるなんて久しぶりだ。たわいのない事がとても楽しく感じる。

駆け寄った樹木にはオレンジの実がなっていた。鳥についばまれる事なく残っているなんて運がいい。

(やった♪)

喜ぶ私の隣で彼はまた野草を収穫すると思ったのか木の下を見回している。

「ほら!」

私は木の枝先を指さしてあげた。

実を見つけられない彼が目を凝らす。

「ほら、あそこ!」

「どこ?」

(ふふっ)

いつまでも見つけられない彼の表情は真剣そのもので可笑しかった。


しょうがないので私は木の下まで行き、指をさしてあげた。

「ほら!オレンジがなってる」

エルフの性とでもいえばいいのか、食材探しはスライムを探しているより断然楽しい。


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