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第2章2-14

2-14


・ユウのターン


(うおーーーぉ!広いなあ!)

街の防壁を出た先に広がる景色にオレは感動した。辺り一面草原だ!何もない!

あるのは馬車が往来する真っ直ぐな道と、ポツン、ポツンとその道脇に生えている樹木、そして、遠くの方で群れているヒツジ。さらにその向こうに小高い山が連なって見えるぐらいだ。

そこは日本で言うなら北海道。海外ならヨーロッパの田舎町といった印象か。

(テレビで見るような風景だなぁ)

大声で叫びたくなるほど雄大な景色が広がっている。実際に大声を出したらチェアリーに怪しまれるため叫びはしなかったが。


(日本人じゃなければ、この感動は分からないかもしれないな)

右を向いても、左を向いても建物ばかりの日本ではこれだけの解放感そうは味わえない。

しかし、チェアリーにとってはありふれた風景なのだろう、いつまでも遠くを眺めているオレを置いて歩いていく。

少し歩いて、彼女が振り返り尋ねてきた。

「これからどうするの?」

その質問は困る。どうするのかは街を出てから決めようと思っていたのだから。

(もっと、こう、一歩街を出ればモンスターとの死闘が待っているかと思って、緊張してたんだけど・・・・・・)


昨日は、装備を整えた方がいいからと門番に脅されたが、今日は剣を差していたのが認められたのか街をすんなり出ることは出来た。

門を出ればこれから戦闘が待っているんだろうと身構えていたのに、そこには拍子抜けする程のどかな風景が広がっている。

そう言えば彼女が言っていた。昨日は3匹スライムを倒したと。1日の成果が3匹だとすれば、結構探し回らないとモンスターは見つからないのかもしれない。


オレが思案している間、彼女は返事を待ってこちらを見つめてくる。

こういう時の対処法もオレの買った参考書には載っていた。質問されて困ったら質問で返すのだ。

「君はどうしたい?」

「そうねぇ・・・・・・」

彼女は少し考えてから、南へと伸びる一本道を指さし、

「この道を行くと川が流れている場所に出るでしょ。今日はその川を上流に向かって探索しない?」

「いいね。そうしよう」

オレは彼女の意見に同調した。


大抵の場合、選択を迫るような質問してくるのは、答えを求めているのではない。どうするかの答えはもう自分の中にあって、ただ同調してほしいだけの事が多いのだ。

「何をしたい」、「どこに行きたい」、「どれがいい」、といった答えを聞きだして「いいね」と、言ってあげれば相手は満足する。

参考にしていた本にまた助けられた。


それにチェアリーは冒険者としての経験があるのだから、素直に従っていれば間違いないだろう。

オレ達は街道を南へと歩き出した。

歩きはじめると、さっきまでのおしゃべりだった彼女とは打って変わって静かになった。

先頭を歩き、辺りを見回して警戒しているようだ。

(やっぱりモンスターが襲ってくるんだよな、)

スライムぐらいならと考えていたが、彼女の張り詰めた空気に当てられオレの方も徐々に緊張が増す。

カチャ・・・・・・

オレは左手を剣の鞘に掛け、いつでも抜ける様に身構えた。


と、前を行く彼女が急に駆けだす!

(来たか!?)

オレも彼女の後を追う。

彼女は道脇に積み上げられていた石積みに身をかがめた。オレも続き、身をかがめる。

石積みは塀の様に連なっていて、反対側がうかがえない。この向こう側にモンスターがいるのだろうか?

待ち望んでいた初めての戦闘だが、やはり実際その場面に出くわすと緊張する。体はこわばり、剣の鞘にかけた手にはうっすら汗をかいて湿り気を感じる。


(どうする?)

むやみに飛び出しては危険だ。ここはチェアリーの判断を待とうと思い、隣の彼女の様子をうかがうと、

「ほら!ペパーミントが生えてたよ」

オレの緊張とは対照的に、はしゃいだ声が返ってきた。嬉しそうに足元に生えていた草の茎を摘まんでオレに見せてくる。

「え?(モンスターは?)」

「え?」

オレが腑に落ちない表情を浮かべると、彼女はその草の説明をしだした。

「ペパーミント、知ってるよね?食べるとスースーするハーブ」

”ペパー”かは分からないが、ミントなら知っている。歯磨き粉に入っているやつだ。

彼女は葉を一枚ちぎるとそれを頬張ってみせた。

「道草食べてる・・・・・・」

オレはてっきりモンスターが出たのだとばかり思ったのに!まさしく、とんだ道草を食ってしまった。


チェアリーがオレの言葉に笑う。今度はその茎をひとつちぎると手で揉んで、目の前に差し出してきた。

「かいでみて」

言われた通りかいでみると、スースーとした爽やかな香りがした。

「いい匂いがする(うん、歯磨き粉だ)」

どうするつもりかは知らないが、彼女は生えているミントを次々に茎ごとちぎり始めた。一握り摘み終えると最後に一本、長めの茎を器用に巻いて結わえバックのポケットに差し込んだ。

「行きましょ」

今のはなんのつもりだったのか、訳が分からない。

(オレの緊張感、返してくれ)


そういえばと、うちの母親もこんな事が好きだったのを思い出した。

(確か、コサージュ?)

花やハーブを束にして、逆さに吊るして乾燥させるのだ。匂いだったり、花の形を楽しむために作っていたのだろうけど、うちでは窓辺にいつまでも吊るされたままホコリをかぶっていることが多かった。

彼女はミントを芳香剤代わりにするためにコサージュを作ったのかもしれない。

(やっぱり異世界でも女性はこういう物が好きなんだな)

そんな事を考えながら歩いていたら、いつの間にか隣にいるはずの彼女が消えていた!


(襲撃された!!)

一瞬、モンスターに襲われたのかとヒヤッとしたが後ろを振り返ると、彼女はまた道端でしゃがみこんで草を眺めているようだった。

近づいて聞いてみる。

「それ何?(今度はなんだろう)」

「うーーーん、アザミ?」

(いや、オレが聞いたんだけど・・・・・・)

足元には、ギザギザの葉を付けた草が生えている。

(確かアザミって紫の花が咲く雑草だよな)

花が咲いていないので、オレには区別がつかない。ギザギザの葉はタンポポの葉の様にも見えなくはなかった。


(花も咲いてないのに、見ていて楽しいのかな?)

その彼女はカバンからおもむろにナイフを取り出し、その草を根元で刈り取ってしまった。

今度は何をするのか見ていると大きな葉はより分けてちぎり取り、そのちぎった方はいらないのか刈り取った場所へ戻している。

「根っこを残しておけばまた生えてくるから。乾かないように葉をかけておくの。葉は腐って土に還ると栄養にもなるしね」

そう説明してくれたのはいいのだが・・・・・・

(根っこより、その刈り取った葉はどうするんだろう?)

オレの疑問をよそに彼女が歩き出す。

「早く行きましょ」

(それはこっちのセリフだ)

前を行く彼女はとても楽しそうだった。

(おかしい、)

こんなにのんびり歩いていて、いいのだろうか?これではまるで散歩か、ちょっとしたハイキングのようだ。


「あ!」

彼女が急に声を上げ走り出した!

(今度こそモンスターか!)

オレも彼女の後に続いて走り出す。

少し走っただけで彼女は急に足を止めた。オレはモンスターを探して、辺りを見回した。

(何もいない)

警戒するオレに、彼女は道のわきに生えている樹木を指さし声をあげる。

「ほら!」

盲点だった!

てっきりモンスターは地面を歩いているものだと思い込んでいたのだ。まさか樹木の上に潜んでいるなんて!

オレは目を凝らして、彼女の指さす方にモンスターの影を探した。

「ほら、あそこ!」

「どこ?」

枝葉の影に目を凝らしてみるも、元々モンスターを見たことのないオレにとっては探すのは困難だ。


探せないでいるオレに彼女が木の下まで行って指をさす。

「ほら!オレンジがなってる」

その指の先にはオレンジ色の実が枝先に付いていた。

(はぁーーーーーーぁぁぁ)

オレのモンスターに対する緊張感は、ぽよぽよのスライムのごとく緩みきった。

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