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第2章2-13

2-13


・チェアリーのターン


(うぅ~んっ!楽しい!!)

私は今までソロで冒険者をやってきた寂しさを全て取り戻すかのように、ユウとのおしゃべりに夢中になった。

この街には顔見知りは居ても、心おきなく喋られる相手はいなかったから、彼の聞き上手も相まって喋りたい欲求が爆発してしまっていた。

それに、彼には私の事を知ってほしい。私の生い立ち、家族の事、村の事、エルフの事、全て。


私が冒険者になったのは広い世界を見たかったからだ。その為にこれまで苦労した経緯を話すと彼は「大変だったね」と優しく気遣ってくれた。

私は「そんなことないよ」とだけ答えたが、村を出て冒険者になった理由が出会いを求めていたからとは、そこはさすがに彼にも言えなかった。

(ウソはついてないよね)

村を出て広い世界を見たかったのは本当だし、大変だった事は確かだ。


冒険者になりパーティーを組んだ時、大変だったといえば会話には苦労した。

耳が良いエルフは大きな声で喋られるのを嫌う。小さな声でも拾えるのに、大声を出されると頭がキンキンしてしまう。

私が初めて入ったパーティーはリーダーがやたらと大きな声で話す人だった為、すぐに私の方から抜けた。

モンスターとの戦闘中はしょうがない。みんな殺気立っているから怒号が飛ぶことだってある。しかし、普段から大きな声でしゃべられると威圧されているようでガマンできなかった。小声で喋ってほしいとは言わない、ただ気遣っては欲しかったと思う。


その事があって次のパーティーでは最初に、私の耳がいかに繊細か話しておいた。そうゆうことならとメンバーは私に合わせてトーンを抑えて喋ってくれた。

しかし、最初のうちはよかったのだけれど暫くして「君といると息が詰まるから」と、パーティーをやめさせられた。


耳が良いエルフは索敵係として重宝される。だから、メンバーに入れてほしいと言えば難なく入れてはもらえる。その点は苦労することは無かった。

次に入ったパーティーではモンスターを狩りに行く時だけ召集がかかり、終わればすぐ解散。狩りの間も会話はほとんどなく、なんともドライな関係のパーティーだった。

私の求めていたものと違ったためそこもすぐにやめた。

パーティーを組む大変さが身にしみたため、私はソロになったのだ。しかし、出会いを求めていたのにソロになってしまうとは。自分でも何をしているのだろうと落ち込み、ホームシックになりはじめていたところでユウと出会った。


「・・・・・・ュゥ」

私は彼に聞こえるか聞こえないかの大きさで名前を呼んだ。まだ面と向かって名前を呼ぶのは恥ずかしい。

けど、彼は私の声が聞こえたのだろうか?それとも私の視線に気付いたのだろうか?こちらを見て微笑んでくれた。

(いいわぁ、)

大きな声で威圧することなく、程よくコミュニケーションがとれ、私の事を気遣ってくれる。彼は理想としている人だった。


彼はエルフについてはほとんど知らないようで、こちらもエルフについて喋りがいがあって楽しい。私は全てを聞いてもらうつもりで喋り続けた。

「ほらエルフの家って木の上に作ってあるでしょ?」

「へぇ、そうなんだ」

「見たことないの?」

「うん。でもいいなぁ、木の上で暮らすのって。そういうのに憧れる。将来そういう家に住みたいよ」

(え!?将来そういうって・・・・・・わっ!わっ!わっ!それって私と一緒にエルフの村に住んでくれるって事・・・・・・で、いいんだよね?)

彼は私の方を見て微笑んでいる。

「ふーん・・・・・・」

どう反応していいのか私は困ってしまい、気の利いた返事が出来なかった。


私は別に冒険者を続けたいとは思っていない。

街に行くにはお金が必要だったし、手っ取り早く稼ぐには冒険者の方が都合が良く、旅も出来るからなっただけだ。いい人が出来たらすぐにでも村に帰って、一緒に穏やかな生活を送る事が出ればそれでいいと考えていた。

街での生活はそれなりに楽しいが、やはり自然の中で暮らすエルフの習慣が体に染みついている。


(むふふふっ)

彼との甘い生活を妄想しながら歩いていると、昨日リンゴを買ったマルシェへと続く通りに差し掛かった。

「あ!(いい事、思いついた!)」

「どうしたの?」

「ちょっと待ってて!」

彼に一言いって、私は駆けだした。

(っと、と!)

少し進んだところで、気になり引き返す。

「すぐ戻ってくるから、ユウはここで待っててよ?」

もう、どこかに行ってしまうという事は無いとは思うけど、彼に念を押しておいた。しかもさりげなくあだ名で呼んで。

(うふ♪)

せっかくあだ名を付けたのに使うのをためらっていてはもったいない。けど、彼の名前を呼ぶとにやけてしまう。

私は緩んだ顔を見られないよう、さっと踵を返してマルシェへと向かった。


(今日のお昼は私が作ってあげよう。いいえ、これからはずーっと。)

私がモンスター狩りに行くときは、お昼はパンを持って行くぐらいだ。そんなに凝った物は用意しない。お腹が空けば少しつまむ程度だったし、街に戻ってからしっかり食べるようにしていた。

けど、たまに気が向けば野営のまねごともしている。火をおこし、お湯を沸かしてお茶をすすったり、簡単な調理をしたり。

お昼は私の手料理を彼に食べてもらおう。そう決めた。

(大したものは作れないけど、きっと喜んでくれるはず)

今日は冒険者の装備を一式揃えたバックを持ってきている。中には小さな鍋とフライパンそれにカップが入っている。本当に大したものは出来ないが、温かい食べ物を彼に食べさせてあげられる。


マルシェに着くと朝のピーク時は過ぎていて、それ程混んではいなかった。人の流れに任せ露店を周りながら、何を食べさせてあげようか頭で考えながら品定めをする。

(やっぱりサンドイッチかな)

パンを専門に扱う露店に足を止める。そこには様々な形をしたパンが売られていた。サンドイッチにして食べやすいよう細長い形のバタールを2本買う。

(何を挟もうかなぁ、トマトは持って行くうちに潰れちゃいそう・・・・・・葉物野菜はしなびちゃいそうだし、無難にベーコンとチーズでいっか)

ベーコンとチーズを少量づつ買う。

(あとは何か一品ほしいけど、)

目に付いたジャガイモを1つ、大きなものを選んで購入した。


(パン2つで100シルバ、ベーコンとチーズで200シルバ、ジャガイモ1つ30カッパー・・・・・・それから、夕飯と宿の代金で・・・・・・あぁ、頑張ってスライム狩らないと!)

単純に計算すると出費が2倍だ。

しかし、彼がお金に困っている事は知っている。だから余計な気遣いなどさせたくなかったから一人で買い物することにしたのだった。

(あ、ユウ)

彼の事を思い出したら、どこかへ行ってしまっていないか急に不安になった。待っていてと念は押したが、まだ彼の事は何も聞いていない。はぐれてしまっては大変だ。

買い物を終えた私は、急いで彼の待っている場所へと駆けた。


路地を戻ると彼は腰を下ろして待っていてくれた。階段に腰かけのんびり空を見上げている。

(よかった、待っててくれて)

「何してたの?」

私の事を見つけた彼が微笑む。

「後のお楽しみ!」

ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・

肩で息をしている私にまた彼が優しく気遣ってくれる。

「慌てなくても、どこにも行ったりしないよ」

”どこにも行ったりしない”その言葉にホッとした。

立ち上がった彼が大きく伸びをし、スッキリした表情で言う。

「行こうか?」

「うん、」

明日からは一緒に買い物に行こう。そう決めた。

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