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第2章2-12

2-12


・ユウのターン


「私が村を出るってまだお母さんにしか言ってなかったのに、いつの間にかお父さんより隣のおばさんの方が先に知ってたのよ」

スライム退治の話を終えた彼女は興が乗ってきたのか、今度は故郷の話を始めていた。


チェアリーの話によると、エルフは森の民とも呼ばれ自然の中で暮らしているそうだ。彼女が育った村は数百人程が住む小さな村で、一人っ子として両親と暮らしていたが、広い世界が見たくなって村を出たのだと言っていた。

村を出ることに母親は応援してくれたこと、父親が心配して泣いてしまったこと、いとこのお兄さんは猛反対したことを細かく話してくれた。

今は隣の家に住んでいるおばさんの話をしている。

(この話、数百人分続くのか?)

彼女はとてもおしゃべりだった。喋ることが苦手なオレとしては、話し続けてくれるのはとても助かる。合間合間に相づちを打ってあげるだけでいいのだから。

聞いてもらえるのが嬉しいのか、彼女の方も楽しそうだ。


だが、話している内容は楽しいものばかりでもない。例えば、この街に来るまでに幾つかのパーティーを渡り歩いたが、種族が違うと文化や考え方も違って馴染めなかったようでパーティー探しに苦労したと言っていた。

先ほどオレとパーティーを組んだ時、彼女は泣いていた。それはチェアリーにとってパーティーを組む事は、とても重要だったからかもしれない。

オレが「大変だったね」と共感してあげると「そんなことないよ」と言ったがその返事は少し小声になった。

あえて聞くことはしなかったが彼女もいろいろ苦労してきたようだ。異世界であってもやはり社会の洗礼というものはあるらしい。

そこでオレが勘違いして世界は違えど同じ社会人だからと、アドバイスでもしたのなら聞き手としては失格だ。

彼女は答えを求めているのではない。ただ聞いてもらって共感して欲しいのだ。


この街に来るまでの事はそんなに語らなかったが、エルフの村については事細かに話してくれる。オレもエルフの暮らしがどういったものなのか聞いていて楽しい。

「ふふっ、そうなんだ。それで?」

「それでね、おばさんから初めて私が村を出るって聞いたお父さん、ビックリしちゃって。フフッ、急いで隣の家から渡し板の上を駆けてきたんだけど、あんまり慌てるもんだから落ちかけたのよ」

(渡し板から落ちる?どういう状況だろう?)

彼女は喋ることに夢中になっている為に、話をかいつまみすぎて状況がつかめない場面がある。

オレは質問してみた。

「隣のおばさんの家と君の家は渡し板で繋がってるの?」

「家じゃなくて、木がね。ほらエルフの家って木の上に作ってあるでしょ?」

「へぇ、そうなんだ(ツリーハウスみたいなものか?)」

「見たことないの?」

「うん。でもいいなぁ、木の上で暮らすのって。そういうのに憧れる。将来そういう家に住みたいよ」

子供の頃、秘密基地のようで憧れていたツリーハウス。エルフはそんな家に住んでいるのかと思うと興味が湧いた。


もっとエルフが住んでいる家の事が知りたくなり、彼女に喋ってもらおうと思ったのだが、

「ふーん・・・・・・」

チェアリーにとっては当たり前の事だからか、そっけない返事をした後、話が途切れてしまった。

(あれ?)

それまで立て板に水のごとく喋っていたのに。

”相手がいかに気分良く喋ってもらえるか”それが聞き手として重要だというのに、オレが要らない質問したせいで話の腰を折ってしまったようだ。

(オレの聞き上手スキルもまだまだだな)


会話が途切れたまま歩いていると、彼女が何か思い出したように急に足を止めた。

「あ!」

「どうしたの?」

「ちょっと待ってて!」

理由も言わず、駆けだす。

何事か?と思ったが、数メートル進んだところですぐに引き返してきた。

「すぐ戻ってくるから、ユウはここで待っててよ?」

そう言い残してまたすぐ駆けて行き、人通りの多い路地を曲がって行ってしまった。

(そんな、子供じゃないんだから)

まるで今のは母親の様なセリフだった。”ユウ”と、家族にしか呼ばれないあだ名で言われた為にそう感じてしまったのかもしれない。

彼女にあだ名を呼ばれると、むずかゆさを覚える。


オレは言われた通り、すぐそばの段差に腰を下ろして待つことにした。

(家族か・・・・・・)

オレの家は4人家族だ。両親と2つ年上の姉がいる。姉は実家に残っているが、オレは就職と同時に家を出た。

期待と不安を胸に社会へ飛び出したわけだが、いつの間にか期待は失望へと変わり、このまま会社に飲まれるのかという不安しか残らなかった。

チェアリーが話してくれたように、考え方が馴染めずパーティーを転々としたという言葉には共感できるものがあった。

(オレも簡単に会社を変われたら良かったなぁ)

何度「転職してやる!」と思った事か。だが、そう思っても次の日の朝になれば、いつも通り電車に揺られて嫌々会社へ向かうのだった。その繰り返し。


空を眺めながらボーっと回想にふけっているうちに彼女が戻ってきた。

「何してたの?」

「後のお楽しみ!」

茶目っ気たっぷりに笑うだけで何をしてきたのかは教えてくれない。

彼女は相当急いで戻ってきたのか、肩で上下させ息を切らせている。

「慌てなくても、どこにも行ったりしないよ」

オレは立ち上がり、大きく伸びをした。

うーーーんっ!

(もう会社なんて関係ない。慌てて生きる必要なんて無くなったんだ)

ハァ・・・・・・


「行こうか?」

「うん、」

オレ達は街の出口へ向かった。

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