第2章2-10
2-10
・チェアリーのターン
私はすぐ前を行く彼に見とれた。
(ハァ・・・・・・かっこいい)
思わず見とれてしまった彼は昨日と違い、防具や剣を装備していてとても凛々しい。それだけでもカッコイイけど、今日の服装は着こなし方が素敵だった。
ワンサイズ大きめを選んでいるのか、パンツはゆったりしたものを穿いていたが、裾はロングブーツの中に入れていて足元はスッキリさせている。
上着は昨日のチュニックで、その上から大判のストールを羽織っていて取り合わせのセンスがいい。
更に、ノースリーブのチュニックから伸びる腕はすらりと長く、彼の羽織っているストールが風になびく度、チラチラ見え隠れするのがとてもセクシーだった。
そのストールが先ほどから私の前で風にはためいている。
えぃ!
(つかまえた)
ストールの端を彼に気付かれないようにつまんだ。
(ふふっ)
まだ手をつなぐだけの勇気はない。が、今はストール越しでも彼と繋がっていることがうれしい。
「あのさ、」
ニヤケている私に、突然彼が歩みを止め振り返った!
つまんでいたストールを離し、笑顔を取り繕う。
「どうしたの?(ビックリしたぁ)」
振り返った彼が頭を掻きながら言う。
「これからスライム退治に行こうと思うんだけど、」
(うん、知ってる)
昨日からずっとあなたの事を見ていたのだから。
彼は荷物など全てを失い、教会に援助を求めたのだ。
お金に困っているからモンスター退治をして賃金を得ようとしていたことは昨日、後を追いかけているうちに察しがついた。
だから今日は彼の為に役に立ちたい。
「スライム退治なら任せて。私、スライム見つけるの得意なの」
「スライム見つけるの得意なの?それはすごい!頼りにしてるよ」
「そんな、スライムぐらい・・・・・・」
私はすぐ謙遜したが、彼に頼りにされたことがとてもうれしかった。
最近モンスターの数が減っている。どの冒険者もモンスターを見つけるのに難儀しているのだ。
こんな時こそ私のエルフの耳が役に立つ。
「昨日もスライム倒してきたんだよ」
「へぇ、そうなんだ。」
1人で見回りに参加した孤独感が嘘の様だ。今、彼は私の目の前に確かにいる。私の事を見てうなづいてくれている。こうして受け答えが出来て、二人でいられることが嬉しい。
(えへへ)
浮かれている私の隣へ彼が寄り添ってきた。
(えっ、あ、え?なんで隣に、)
「その話、詳しく聞きたいな。歩きながら教えてよ」
彼は私の耳元でそう呟いた。
ゾワ、ゾワ、ゾワ、ゾワ、ゾワ!!
男性らしい低い声が、私の耳から入り背筋を駆け抜けて行く。
(ぅんっ!)
その感覚に身悶えしそうになるのを私は堪えた。
実際には耳元では呟いていない。
十分に離れて隣に立っていただけ。けど、私の良く聞こえる耳なら隣に立って語りかけられるだけで、耳元でささやかれているような錯覚に落ちる。
彼の声はノイズが少なく良く通る。一生懸命喋ろうとはせず落ち着いていて、それで呟くように二言三言喋るだけなものだからもっと聞きたいと、欲してしまう。
(ハァ・・・・・・いい)
昨日、こそこそ後ろをついて回るんじゃなかった。すぐに返事をすればこうやって並んで歩けたのだ。
「そう?別にいいけど、」
彼のリクエストに私は素っ気なく返事したが、心の中はもう天にも昇る気分だった。
(神さまありがとう!)
歩きながら話しているうちに分かったが、彼はとても聞き上手な人だった。横に居ながらでも、うん、うん、と相づちを打ちながら私の話を聞いてくれる。
(エルフの村を出てから、いつぶりだろう?こんなに喋ったの)
聞き上手なものだから、止めどなく言葉が溢れた。
「でね、それから・・・・・・」
私が彼の方を見ると、それに気づき彼も私の方を見て視線を合わせてくれる。目が合うと照れてしまい、私の方が視線をすぐ外してしまう。
(はぁあっ!ドキドキする)
私は恥ずかしさを隠す様に、昨日起きたことを事細かに話していた。
「私は3匹倒したのに、他の人はね全然倒せなかったのよ」
こんなとりとめのない話を聞かされて彼は退屈じゃないかしらと心配になるが、
「3匹も倒したなんて、すごいよ。」
彼はちゃんと私の話を聞き、こんなくだらない話でも褒めてもくれる。
(あぁ、優しい人だ)
私が初めて会った時に受けた直感は、間違っていなかった。
見回りの話を終えると彼は言った。
「ありがとう。君とまた会えて話をする事が出来て良かったよ」
そして優しく微笑んだ。
「うん、」
また帽子の中の耳が真っ赤になって熱を帯びていくのを感じる。
(なにこれ、なにこれ、なにこれ、もう!完全に私、あなたの虜なんですけど!!)




