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第2章2-7

2-7


「それじゃあ」

(あ、行っちゃう)

彼は教会から出ていくところだった。

諦めていたところに不意にチャンスがやって来た!その事に現実感が湧かず、私はふらりと立ち上がり彼の後をついて行った。


昨日、必死に追いかけていた黒髪の後姿。

(あぁ、また出会えた・・・・・・)

この広い街ではもう会うことは出来ないだろうと思っていたのに、私の願いを神様が聞きとってくれたのだ。

(ううっ、)

拭いても拭いてもまた涙がにじみ、私の前を歩く彼の後姿がぼやけてしまう。せっかく蒸しタオルで涙目を直してきたのに、これでは彼に話しかけられない。

歩きながら息を整える。

ハァー、スゥ・・・・・・ハァー、スゥ・・・・・・


落ち着いてから改めて前を行く彼の姿を見ると、昨日のチュニック1枚姿ではなく今日はちゃんと装備を整えていた。スライム退治に行くと言っていたけど、さすがに装備が不安だったのか教会に引き返して援助してもらったのだろう。

それにスライム退治なら見回り馬車に参加するより、装備を整えてソロで狩っていた方がもうけは大きい。

(だから見回り馬車に乗らなかったのね)


彼が昨日言った「いいです」は馬車には乗らないと言っただけで、私に向けて言った言葉ではなかったのだ。そもそも馬車の中に私がいる事は知らないはずなのだから。

(勘違い・・・・・・)

私の勝手な思い込みだった。

そう思うと心が少し軽くなった。まだやり直せる。

しかし、彼を困らせたことに変わりはない。街中私の事を探し回り、一日を無駄にさせてしまったのだから。

(怒ってるかな、)

前を行く彼は空を見上げながら歩き、なんだか考え事をしているように見える。私の事をまだ思ってくれているのだろうか?


その彼が不意に足を止めた。私もピタリと止まる。

「ここか」

そこは冒険者ギルドの建物だった。

「コッレ西、冒険者ギルド」

確認するように彼が看板の文字を読み上げる。


冒険者ギルドには当然私も登録している。が、あまり施設を利用することはなかった。ギルドは仕事の斡旋が主な事業なのだが、それはパーティーを組んだ冒険者向けの仕事がほとんどだからだ。私のようにソロで冒険者をしている者には難しい依頼内容ばかりだ。

例えばプラントハント。

珍しい草木を採取してくる依頼だが、”珍しい”とはつまり滅多に人が目にする事の無いということだ。それは人が立ち入らない未開の地にあり、手ごわいモンスターがいる事を意味する。

機材など十分な準備を整えることの出来るパーティーでないと無理だ。ソロの冒険者が行けるわけがない。


(なにか依頼を受けるつもりなのかな?)

彼は建物の中へ入っていった。私も後を付いて行く。

中は冒険者の姿は少なく閑散としていた。

最近モンスターの数が激減している。その為多くのパーティーは人の立ち入らない遠方まで狩りに出ているらしい事を噂で聞いた覚えがある。

だけどそれは博打だ。遠方まで足を運んだとしても、そこにモンスターがいるとは限らない。ここに残った冒険者達は堅実な選択をしたと言えるが、パーティーを組んでいるのであればソロの様に細々と街の周辺でスライムだけを狩っている訳にもいかない。


辺りを見回していると、ラウンジで雑談している冒険者の声が耳に入って来た。

「今回はどっち方面に行くんだ?」

「北の山中は、ほとんど狩りつくしたんだろ?西の聖都は教会私設の兵隊さんがたが根こそぎ狩り尽して、スライムすらいないっていうじゃねぇか。後は南か東か・・・・・・東の街道沿いをボチボチ狩りながらラゴの街まで行ってみるかねぇ」

やはり冒険者達はモンスターの数が減った事で困っているようだった。


(彼はどうするのかな?)

厳しい選択ではあるけど、冒険者としてやっていくつもりなのだろうか?

一緒に旅をしてくれるパートナーを探して私を選んでくれたのだからそのつもりなのだろう。

(ドキドキする)

私も彼の告白に返事をしないと・・・・・・前にいる彼を急に意識しはじめた。再び出会えた嬉しさが、緊張へと変わっていく。


彼は受付カウンターの方へと向かって行った。

その用事が済むまで私は依頼内容が張り出されている掲示板を眺め、心を落ち着かせることにした。

(えーっと・・・・・・あった)

プラントハントの中で最高額依頼。何度も目にしているから内容は覚えてしまったが、まだ残っているのか気になってつい確認してしまう。


・ツギノ ショクブツノ サイシュヲ イライシマス。


ナンポウノ チニ ハエル ジョウリョクジュ。

コウタクノアル タマゴガタノ ハ。ソノハノ ネモトニ 2センチダイノ アカイミヲ スウコ ツケル。

ミノナカニハ ムカイアワセニ ハンエンガタノ シュシガ 2ツ ハイル。


ナエギ、 モシクハ ソノ ジュクシタ シュシヲ モッテカエッタ モノニハ アカイマホウセキヲ10000コ ゾウテイスル。


(イライヌシ:エルフノ オサ)


普通、プラントハントでは有用そうな植物を冒険者が持ち帰ったのち、価値があると判断されれば値が付くのが一般的だが、この依頼は植物が指名されている。

冒険者はモンスター退治のついでに、赤い実を見つけるとこぞって収穫して持ち帰ってくる。しかし、未だにエルフの長から認められたものはいなかった。

破格の値段が付いているその赤い実はいつしか”赤い宝石”と呼ばれ冒険者の間では知らない者はいない依頼になっている。


エルフの長はこういった珍しい植物を集めている事で有名だ。

(これだけまとまったお金が貰えたら、彼と・・・・・・)

お金さえあれば冒険者の様に危険な思いをしなくても、穏やかな生活が送れる。

(えへへ、)

甘い生活を妄想して顔がにやけてしまう。


妄想にふけっているところへ受付嬢が大きな声で呼ぶ声がした。

「ユージンさん、お待たせしましたー」

(あ、もしかして)

振り向くと彼が長椅子から立ち上がりカウンターに向かって行った。

(彼の名前だ!)

ユージン、ユージン、ユージン、ユージン、ユージン・・・・・・

昨日聞きたくても聞けなかった彼の名前を何度も繰り返し心に刻む。

(ユージン・・・・・・うふっ)

名前を知った事で目の前に彼がいる事がようやく実感が持ててきた。


あとは私が勇気を出して声をかけるだけ。

(あぁ!ドキドキする!!)

もう掲示板の依頼内容など頭に入ってこない、彼の用事が済むまで掲示板の前でフラフラしながら見ているフリをした。


カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、


しばらくして彼のものであろう足音が近づいて来るのを私の耳が捉えた。

(来たっ!)

チラリと後ろを確認。彼はこちらに気付かず出口へと向かって行く。

(今だ!今しかない!!)

私は彼に近づき、建物を出たところで声をかけた。

「あのっ!」

「おっぅ!」

急に声をかけた事でビックリしながらも彼が振り返った。


昨日、叶わなかった念願がやっと今日、叶った瞬間だった。

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