第2章2-4
2-4
(オレ、どっかでチュートリアルすっ飛ばしたんじゃないかなぁ)
教会を後にし、ライリーさんに教えてもらったギルドへ向かう道すがらオレはそんな事を考えていた。
最初からギルドへ向かってさえいれば武器も借りられて、スムーズに街の外へ旅立つことが出来たのかもしれない。
目覚めた時ギルドへ行くように言ってくれる案内役がいたはずなのに、チュートリアルを飛ばしたせいで会えなかったのでは?と、オレのゲーム脳が言う。
説明も無いまま歩き回ったせいで、昨日の一日が無駄に思えてくる。
(やっぱりチュートリアルは大事だよな。親切に教えてくれているんだから)
冒険者ギルドは教会を出て左に曲がり、道沿いに行くとすぐだからと、チュートリアルの代わりにライリーさんは教えてくれた。
「ここか」
教えてもらった通り、難なくギルドは見つけることが出来た。
「コッレ ニシ ボウケンシャ ギルド」
看板にそう掲げられている。
(コッレ?街の名前か?ニシは西だよな)
この街が何という名前なのかオレは知らない。本当はライリーさんに色々質問したかった。でもオレが何者なのか不審がられるのを恐れて何も聞けないまま出て来てしまったのだ。
彼女の方もオレが野宿をしなくてはいけないような境遇なのを気遣ってか、何も聞かず受け入れてくれたのでそこは助かった。
(しかしあれだな、全部カタカナで書かれているとレトロゲームのおもむきがあるよな)
看板を見ながらそう思った。この世界の文字は全部直線で表されたカタカタだ。
ゲーム好きとして、昔のレトロゲームもそれなりにかじっている。その時プレイしたゲームの仕様に似ている気がしたのだ。
昔のゲーム制作ではテキストを打ち込む際、デフォルトのフォントがカタカナしかなく、ひらがなはドット絵で表現していたとネットの記事でかかれているのを読んだ事があった。
カタカナだけで書かれた看板を見ていると、丁度そのレトロゲームのように見えるのだ。
(どんなこだわりだよ。この世界の神様は。ゲーマーか?)
建物の中に入ると、そこは意外に小綺麗な空間だった。
(イメージしてたのと違う)
冒険者が集まるギルドだから、てっきり荒くれ者たちがたむろしているような場所をイメージしていた。
室内は清潔感のあるタイル張りの床で、そこに待合室の如くイスが整然と並べられ、正面のカウンターには受付嬢が座っていた。
壁際には掲示板も設置されている。雰囲気としてはお役所といった感じだ。
中に居た冒険者といえば、長椅子で順番が回ってくるのを待っている人達が数人と、部屋の隅に設けられたラウンジで雑談している集団くらいだった。
ギルドに対するイメージが先行して内心ビクビクしていたのだが、取り越し苦労で済んで良かった。
オレは『トウロクシャ ウケツケ』という札が掲げられているカウンターを見つけ、そこで尋ねた。
「ギルドの登録をしたいのですが、ココでいいですか?」
「ハイ、そうですよ。登録ですね」
受付嬢が営業スマイルで迎えてくれる。
彼女は用紙とペンを取り出した。
「これからいくつか質問いたしますので、お答えください。では、お名前は?」
「ユージン」
「年齢は?」
「26です」
オレの本名は東悠人
いつもゲームの名前入力では、悠人を音読みして「ユージン」という名前を使っている。せっかくの異世界なんだし本名を名乗る必要はないと思い今もその名前を使った。
外国人の様な音の響が気に入って使っているのだが、受付のお姉さんは特に気にする事もなく用紙に記入していく。
(顔は典型的な日本人顔なんだけどな)
「26歳、男性と。種族は・・・・・・ヒューマンですね」
彼女はオレの方をチラって見ただけでヒューマンだと決めつけた。
(人を見た目で判断するなんて!そういえば、エルフは耳が長かったっけな。見た目で区別できるという事か。他にはどんな種族がいるんだろう?)
オレの疑問をよそに、彼女は質問を続ける。
「では、住所を」
そう聞かれてオレはライリーさんから渡された保証書を取り出した。
ライリーさんは『ギルドへの登録には身分を照明できるものが必要となりますので、この教会が保証する旨の書状を書いてあげましょう』と、この保証書を持たせてくれた。
(何から何までありがたい)
受付嬢は渡した書状を開き見ると、
「教会の保証書ですね・・・・・・今、照会を致しますので、席についてお待ちください」
そう言って奥の方へと下がって行ってしまった。
オレは言われた通り長椅子に座り待つことにし、持て余した時間で辺りを見回した。
日本にいた時ならばこうしたちょっとした空き時間はすぐ携帯を取り出し暇をつぶす。流石に異世界生活2日目ともなると、持っていない携帯を探してポケットをさすることはなくなっていた。
四方を見渡し、壁に張られた冒険者ギルド規約という文字が目に止まったので何気なくその文字を追う。
・ボウケンシャギルド キヤク
パーティー ハ 4ニンマデトス。ソレヲコエル トキハ トドケデヲ ダスコト。コレヲヤブリシトキハ トトウヲクンダツミトシテ ソノモノタチヲ バッス。
(疲れる・・・・・・)
目の奥、芯の部分に凝りを感じ、目頭を押さえた。カタカナだけで書かれた文章というのは読むだけでも一苦労だ。内容など頭に入ってこない。
(復活の呪文かよ)
頭に入ってこない文章を眺めて時間を潰すうちに奥から受付嬢が帰って来るのが見えた。
「ユージンさん、お待たせしましたー」
彼女は大きな声でオレの名前を呼んだ。ゲームじゃないのだから、実際にこの名前で呼ばれると違和感がある。
(目立ってるな、)
静かな部屋の中で自分の名前が響き渡るのは気恥ずかしい。オレは小走りにカウンターに向かった。
「ハイ、確認できましたので登録は以上で終了です」
受付嬢はオレの前にメダルのようなものを差し出してきた。
「こちらは冒険者ギルド会員バッチです。会員であることを証明するものですので、常に衣服の見えるところへ付けておいてください」
「分かりました」
カウンターの上に置かれたバッチには、会員番号だろうか?数字が刻まれている。オレはバッチを受け取り、ポケットへしまった。
「バッチは紛失した場合、再発行となりその時は料金が掛かりますのでお気をつけください」
「はい」
「冒険者として登録された事により、ただ今よりあなたにはギルドの規則を守ってもらう義務が発生します。規則を破った場合、厳罰が課せられるのでご注意ください」
「はい」
「会員規則はあちらのボードに書かれている通りです。お帰りの際にご確認ください」
「はい(さっき読んでたヤツか)」
彼女は少し早口に、これまで何度も繰り返してきたのであろう定型文を語った。
(長くなりそうだな、これ)
ギルドの中はお役所の様な見た目だが、その仕事もお役所の事務仕事といった印象だ。
スラスラとセリフを言い終えると、受付嬢は営業スマイルをオレに向けた。
「ここまでで何か質問はありますか?」
「いいえ」
(はっ!!)
長い説明を聞き終えたところで、オレは気付いた。
(オレ今「はい」と「いいえ」しか言ってねぇ!本当にレトロゲームの世界かよ!)
神様から見たら、今オレの頭の上に「はい」と「いいえ」の書かれた選択コマンド画面が出ているように見えているのだろうか?
自分がまさにゲームの世界のキャラクターになった気分だ。
気を取り直し、聞きたかった事を質問した。
「あの、武器を借りられると聞いたのですが」
「武器ですね。武器については、4番カウンターに行ってお聞きください」
彼女は手で4番カウンターの方を示し、そちらへ行くように促した。
仕事が縦割りにされていて一カ所で完結しないのもお役所仕事と同じ様だ。
「登録は済みましたので、借りることが出来ますよ」
オレは促された通り、すぐ側の4番カウンターへ向かった。
「あの、武器を借りたいのですが」
「ハイ、では会員バッチを出してください」
オレはさっきポケットへしまったバッチを取り出した。
「バッチは見やすい場所へ常に付けておいてくださいね」
「すいません・・・・・・(今、そこで言われたんだった)」
彼女はオレのバッチの番号を書類へ書き込むと、
「では、ココにサインを」
そう言ってペンを差し出す。
(ユージン、っと)
いつも通りのカタカナで書きそうになるのを堪え、直線のカタカナを見よう見まねで書く。それは慣れないために子供が覚えたての文字を書いたようになってしまった。
「ハイ、結構です」
受付嬢はオレの下手な字など事気にすることなく書類を受け取ると、棚をさし示した。
「では、武器には剣と弓がありますがどちらになさいますか?」
「えっ!?」
武器を借りられると聞いたので、色々な種類の中から選べると思っていたのに当てが外れた。棚にはいくつかの剣と、弓が立てかけられているのみだ。
(弓はいきなり難易度高すぎだろう。剣でもいいけど、)
接近戦か遠距離戦しかないのだ。どちらも素人には厳しい気がする。
間合いを取って攻撃できる中距離戦向きの武器は無いのだろうかと聞いてみた。
「槍は無いんですか?」
「申し訳ありません。槍は今朝、全て貸し出してしまいました。」
(槍、人気)
やはりリーチの長い槍はモンスター退治に有利なのかもしれない。
しょうがなくオレは消去法で剣を借りることにした。
「じゃあ、剣でお願いします。」
「ハイ、剣ですね」
彼女は壁に立てかけたあった剣を取り出してカウンターの上に置いた。
ゴトッ
音だけで重そうなのが伝わってくる。
(リアル剣だ)
初めて見る本物の剣にまた変な単語が浮かんでしまった。
「こちら、貸し出し期間は7日となっています。7日を過ぎますと延滞料金が掛かりますのでお気を付け下さい」
(DVDのレンタルみたいだな)
「なお、破損、紛失した場合は弁償となり、悪質な場合はギルド会員のはく奪もありますので、大切にお使いください」
「はい、分かりました」
オレは剣を手に取った。
(重っ!)
剣の長さは1メートル度で見た目は細身なのだが、持ってみるとずっしりと重い。
(これを振り回すんだろ?絶対筋肉痛になるって!)
だが、初めて取る剣の重さより、その剣と共に抱いているファンタジー世界への憧れのようなものにオレは徐々に興奮してきた。
胸の鼓動が高まるにつれ、顔の筋肉が緩んでしまう。
(ダメだ。何だかニヤける)
オレの目の前では受付嬢が営業スマイルを向けている。こんなところで剣を手に取ってニヤケていると危ない奴に思われてしまうだろう。
「では、お借りします」
必死にニヤケ顔を抑えつつ、一緒に渡されたホルダーを腰のベルトに取り付け、剣をさしてカウンターをあとにした。
ギルドの建物を出たところで早速、剣を抜いて・・・・・・みたかったが、さすがに人目もある。
それでも興奮を抑えられず、腰の剣に手をかけた。
(ちょっとだけ)
鍔を親指でほんの少し鞘から押し出し、そして戻す。
スッ・・・チン!
鍔と鞘が当たった瞬間の澄んだ金属音が親指を通して伝わってくる。
(しびれる~ぅ)
スッ・・・チン!スッ・・・チン!スッ・・・チン!
これだけでも楽しくなってしまって、子供の様に何度も繰り返してしまう。目の前には誰もいないが、今のニヤけた顔を見られたら完全に危ない人だと思われてしまうだろう。
剣で遊んで悦に入っていた時だった、
「あのっ!」
「おっぅ!!」
自分の世界に浸っていたのに、後ろから急に誰かが声をかけてきたのでビックリして変な声が出てしまった。
(ビビったー)
振り向くとそこには帽子を目深にかぶった女性が立っていた。




