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第1章1-22

1-22


ココの指さした方へ路地を進むと、勇者様にはすぐ追いつくことが出来た。

「道を1本間違えただけで、人生は変わってしまうんですねぇ」

先ほどのエルフの事をいっているのだろう。ココは小芝居すらしなかったものの、やはり一言口を出してきた。


「ライリー様、どうなされます?」

アンスが私の指示を仰ぐ。

エルフがいなくなった今が勇者様に近づくチャンスだった。

「もうしばらくこのまま様子を見ます」

しかし私は今、彼に接触することを迷っていた。


彼にはなんと言って話しかければいいのだろう?

目覚めたら見覚えのない場所に居た。そんな状況なら普通は取り乱しそうなものだが、彼は至って冷静だった。いや、彼の様子を見ているとこの状況を楽しんですらいるように見える。街を歩き回って、観光でもしているかのようだ。しかも誰かに頼ることなくお金を得て食料まで調達しているのだから驚きだ。


私の計画では頼ってきた彼を迎え入れ、徐々に信頼関係を築いていくつもりだったのに・・・・・・

(完全に予定が狂ったわ)

やはり言葉が通じるというのは大きいらしい。


もし今ここで言葉の通じる彼と接触したのなら質問攻めにあうだろう。

私が知っている事なら全部話してあげてもいい。だが、彼は私の話を信じてくれるだろうか?信頼関係も築けていないうちに話しても彼を混乱させるだけだ。


前回の勇者降臨の失敗が脳裏に甦る。

「ココ、ドコ」「コレ、ナニ」「アレ、ダレ」

片言だが喋れるようになった勇者様から私は様々な質問を受けた。場所、食べ物、文化、人・・・・・・質問攻めだった。私は丁寧に1つずつ教えてあげたのだが、教えるほどに勇者様から笑顔は消え、ひどく悲しむようになっていった。

「チガウ!!」「チガウ!!」「チガウ!!」

私が答えてあげた”何か”が勇者様の心をひどく傷つけてしまったようだった。


教会をあげて手厚く迎え入れていたのに彼はいつしか食事もろくに摂らなくなり、酒ばかりを要求するようになっていった。酒に溺れ、周りにひどく当たり散らすようになり、見かねて酒を取り上げると、今度はワンワンと泣き続けた。

見ていられない状況だった。


前を歩いていく勇者様は人当たりの良さそうな好青年に見える。

(彼も・・・・・・)

以前の記憶と重ねてしまい接触するのをためらってしまう。

とはいえ、連れて帰らなければ結局は失敗しかねない。


(だから嫌だったのよ、)

ジューリアの頼みだったから今回の件を引き受けたのだ。今からでもジューリアのところに出向いて文句を言ってやりたい気分だが、彼女を悪く言ってもしょうがない。

これは教会一致の決定なのだから、彼女一人の意思ではないのだろう。だからこそこの苛立ちを誰かにぶつける事も出来ず、やり場のないモヤモヤが貯まっていってしまう。

(神様にでも愚痴ったら何とかしてくれるかしら)


どうしたものかと取りあえず勇者様の後をつけて行くと、開けた場所に出た。広場には何台もの馬車が停まっている。馬車乗り場だ。

彼は一頭の馬に近づくと、昼食に食べたのであろうリンゴの残った芯を馬に与えた。動物好きなのか馬を撫でるその表情は穏やかで、優しい人柄がうかがえる。


私も側の馬車に近づき、さっきエルフがポイ捨てした、かじりかけのリンゴを馬に与えた。

馬はリンゴをひと飲みにすると、いつまでも咀嚼しつづけている。

カッポ、カッポ、カッポ・・・・・・


馬の鼻筋を撫でる私にアデリナが興奮気味に声をかけてきた。

「ライリー様!」

何か見せたいものがあるのか、私の袖まで引っ張って呼んでいる。

「戻ってきましたよ!」

言われて見れば息を切らせて先程のエルフが駆けてくるところだった。そして私たちの横を通り過ぎ広場を見渡した彼女は勇者様がいる方へと歩いていった。


「わっ!わっ!わっ!」

アデリナはエルフに聞こえないように小さな声を出しているが、その様子は興奮気味でココの手を取り上下にブンブンと揺らした。

「ドウ、ドウ、ドウ、落ち着いてーぇ、いい子だから、よしよし」

ココが馬をなだめるように、アデリナを落ち着かせる。


エルフは勇者様から少し離れた場所で立ち止まると息を整え始めた。アデリナとココまで同じように合わせて息を大きく吐く。

本当は戻ってきて欲しくは無かったのだけれど、私も二人につられエルフの行動に注目する。


エルフの彼女は決意したように歩き出すと、そのまま勇者様に声をかけることなく、馬車の荷台に乗り込んだ。

(え??)

皆、同じ気持ちだっただろう。なぜ?

「あの馬車、見回り用のものですね」

アンスが素っ気なく応えた。確かに馬車には見回り用の印である剣のマークが描かれている。


なぜエルフは馬車に?誰も理由がわからず口を閉ざした。

あっけに取られているうちに馬車は出発してしまった。


馬車の姿が見えなくなったところで、アデリナが声を殺した静かな叫びを上げる。

「なんでーーーーぇ!!あのエルフさっきは勇者様を泣きながら探していたんですよ!ここは彼に駆け寄って抱きつくところでしょう!?」

アデリナは私に詰め寄ってくる。

「私に聞かれても、」

「すっ、スイマセン。つい興奮して・・・・・・」


エルフがなぜ馬車に乗って行ってしまったのか知るよしもないが、残された勇者様はエルフの事など気付かずまたフラフラと歩き出した。

(勇者様っていうのは罪作りね)

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