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第1章1-21

1-21


私がエルフを眺めてぼーっとしていたせいで、勇者様の姿は見えなくなっていた。

とりあえず小走りに駆けていくエルフを追いかけると、彼女は階段の降り口で一旦足を止め、そのまま腰を下ろしてしまった。

(勇者様はどうしたのだろう?)

見渡す範囲に彼の姿は見えない。


私は鼻の利くココに尋ねた。

「ココ、彼はどこに行ったの?」

「きっと階段の下の方で座ってリンゴを食べてますよ。下から吹き上げてくる風に乗って、勇者様とリンゴの匂いがします」

エルフの側に行って階段下を覗くわけにはいかない。けどココがそう言うならそうなのだろう。


見ると、エルフもリンゴを取り出しかじり始めた。お昼にするらしい。

それを見て私もブリトーを食べかけだったことを思い出し、急いで平らげた。


(それにしても、私がぼーっとしてしまうなんて)

こちらがしっかりしていなくては、ココを叱ることもできない。

これもあのエルフのせいだと、私は階段に腰を下ろすその後ろ姿に鋭い視線を送った。


すると、私の気配に気付いたのかエルフがこちらを素早く振り返った!

バレたのではないかと一瞬ドキリとしたが、それより頭をよぎったのは別の事だった。

(こんな事が朝にも)

一瞬早く私は後ろからローブを引っ張ろうとする手を振りほどいた。


ドスッ!


音を立てて豪快にココとアデリナが尻もちをついている。

「いったーい」

「隠れないと見つかりますよ!」

「どこに隠れようとしているの、堂々としてなさい!」


ここは見通しのいい路地だ。隠れる場所などどこにもないが、あえて挙げるならアンスの後ろぐらいだ。

そのアンスは私達を横目で見ながらエルフとの間に立ち、すました顔でいる。一応、壁の役割をはたそうとしてくれているらしい。

しかし、アンスの引き締まってスリムな体では3人が隠れる部分などほとんど無い。


そもそも相手が耳の良いエルフであることを考慮して十分に離れた位置にいたのだ。話し声は聞こえないだろうし、見られたとしても怪しまれるはずはない。


ココが立ち上がりながら言い訳する。

「だって、いきなり振り向くからバレたのかと思ってビックリするじゃないですかぁ」

「見られたところで、顔見知りじゃないから大丈夫よ」

変に慌てる方が余計に怪しいというのものだ。


「あ、そっか」

と、あっけらかんとした返事をするココ。その横では、アデリナが座り込んだまま痛そうに腰をさすっている。

「もう~っなんで私まで巻き込むの?」

ココは立ち上がれないアデリナに手を差し伸べながら、妙にカッコをつけ

「どんな時も二人一緒さ。アデリナは私が守ってあげるよ」

また芝居がかった演技を始める。


アデリナがココの手を取って息巻く。

「守れてないから!巻き添え喰ってるのよ!守れてないからね!」

おとなしい印象のアデリナには珍しく、怒っているようだ。

「ハハッ!何をそんなに怒っているんだい?カワイイ顔が台無しだぞっ」


ココの三文劇を背中で聞いていたアンスが急に声を上げた。

「ライリー様、エルフが慌てて階段を下りていきます」

そう言うやいなやアンスは素早く駆けだした。

小芝居をしていた2人を置いて私も追う。


エルフが座っていた場所まで来て下を確認すると、彼女が慌てた様子で階段を降りていくのが見えた。

相当慌てていたのだろう、側にはエルフが放り出した食べかけのリンゴが落ちている。

「これだから森に住むエルフは、何でもかんでも土に還ると思って・・・・・・」

私はそのリンゴを拾い上げた。


(しまった、つい)

拾い上げつつ私は思わず愚痴っていたことに気付いた。

エルフは自然と寄り添う暮らしをしている者が多い。命あるものはいずれ土に還って次の息吹の糧になるのだと、そういう地に根差した生活をしている。

今、捨てていったリンゴはいずれ腐って大地の栄養になると考えたのか、もしくは鳥のエサにでもなると思ったのか。

いずれにせよ、街の中にごみを捨てるのは迷惑だ。自分たちの主張を押し通さないでもらいたい。


「さあ、追いかけるわよ」

愚痴ってなどいなかったように尾行を再開し、階段を降りる。

踊り場まで来て一旦足を止め、下の様子を眺めた。

エルフは階段を下りきったところで、辺りを見回している。

「勇者様を見失ったようですね」

アンスの言う通りだろう。遠目に見ても彼女が動揺しているのが分かる。


それを見つけたココが階段を2、3段駆け上がると、また小芝居を始めた。

「あぁ!私の勇者様はどこ?なぜ神様は私達を引き裂くの?だれか!教えて、勇者様はどこに行ってしまったの?」

左腕を空へ掲げ、右腕を胸に当ておどけてみせる。

「ココちゃん、やめてあげて」

私がやめるように言うより先にアデリナがココを止めた。


言ったアデリナは少し涙ぐんでいた。目の良い彼女にはエルフの表情が手に取るように分かっているのだろう。

完全にエルフへ肩入れをしてしまっている。

(優しい子ね)

フォコン族の遠くまで見通せる目は監視役に最適だ。しかし監視役の本人が私情に流されてしまっては任務に差しつかえる。アデリナは優しすぎるのだ。

ココはばつが悪そうに頭を掻いた。


そのうちエルフは右往左往しながらも左の通りを走って行ってしまった。

私達はエルフの姿が見えなくなってから、階段を下りきった。

ココに尋ねる。

「ココ、勇者様はどっち?」

「そっちですね」

ココはエルフが走っていった方とは逆を指さした。


「追い払う必要はなくなりましたね」

アンスは仕事が減って助かったというような言い方だ。

エルフが走っていった通りを振り返ったが、彼女の姿はもうなかった。

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