第1章1-20
1-20
勇者様がフラフラと歩きまわり、その後ろをエルフの女性が付いて歩き、更にその後ろを私とアンスで尾行する。後をつけているうちに前を行く二人は人通りの多い路地を曲がっていった。
人通りが多いのは、その路地でマルシェを開いているからだ。
色とりどりの野菜やフルーツを扱う露店が並び、それを買い求める人たちで賑わっている。
勇者様は相変わらずきょろきょろと辺りを見回し、当ても無く露店を見て回った。
その後をエルフが追う。彼女は勇者様を追う事に必死で、後ろから私たちが付いて来ていることには気付いていない。勇者様だけを見ているといった感じだ。
私達も置いて行かれないように人ごみをすり抜け、彼らの後を付けながらながらふと気になることが頭をよぎった。
(ココは人ごみの中でも匂いを嗅ぎ分けられるのかしら?)
”もし”という事態が起きることを考え、彼らを見失わない様により気を引き締めた時、
つん!
私の脇腹を誰かが突っついてきた!
「きゃっ!」
不意の事とはいえ自分でもらしくないと思うような、カワイイ声を上げてしまった。
振り向けばココがいつの間にか私のすぐ後ろに立っていた。その顔はニヤニヤとにやけている。
「ライリーさま、かわいい」
(この子はまったく!)
まさか私も後ろから付けられていたとは。これではあのエルフと同じだ。
私は平静を装ってココに尋ねた。
「あなたこれだけの人が集まっていても匂いを判別できるの?」
「できますよ」
ココは事もなげにそう応えた。現に私たちの居場所を匂いを頼りに追ってきたのだろう。
ニヤケ顔で更に付け足す。
「ライリーさまの匂いはもうばっちり覚えてます」
ニヤニヤとした笑いが鼻につく。彼女は完全に私の反応を見て、楽しんでいるようだ。
すると、アデリナがこの状況はマズイと思ったのか、私とココの間に割って入ってきた。
「ブリトー買ってきましたよ。歩きながらになりますけど、暖かいうちに食べましょう」
アデリナの言葉で思い出したようにココが買ってきたブリトーを取り出す。
「ハイ、どうぞライリーさま。私のおごりですよ」
わざわざおごってあげた事を強調しながらブリトーを差し出してきた。
(一言、多いのよ)
ココにそう言いかけたところで、やめた。それこそ一言多くなってしまう。
「アンスさんもどうぞ」
ココはなぜかアンスには普通に渡している。
私やアンスともあっという間に仲良くなってしまったココだが、どちらかといえば私の方が少し甘く見られているように感じる。
これではリーダーとして威厳が保てない。
(やっぱり遠征でモンスターを相手にしていた方がマシだわ)
今さら考えていてもしょうがない事だ。
私は気を取り直し、受け取ったブリトーを口いっぱい頬張った。
がぶっ!
そのブリトーはふっくらとした生地に具材がたっぷりと包まれていて、食べ応え十分だった。
(美味しいわね)
よく噛むほどに大きめに刻まれたポークから肉汁が溢れてくる。
(でも、確か私が頼んだのって・・・・・・)
「んっッ!」
隣にいたアンスが、くぐもった声を上げた。
見ると口からチーズの糸をビロ~ンと垂らしている。
「んんっ!!」
アンスは私に見られたことを恥ずかしがったのか、チーズを垂らしたまま横を向いてしまった。
慌てて口周りを拭いてから私に謝る。
「すいません!ライリー様が注文された方を私が食べてしまったようです」
「ココが間違えて渡したのね。私の方にはポークが入ってたわ。交換しましょ」
私がブリトーを差し出すと、アンスはすまなそうにしているばかりで受け取ろうとしない。
「あの、もう私が口をつけてしまったので・・・・・・」
(気にすることないのに)
アンスは下を向き、交換には応じてくれそうにない。
そういえば、さっき注文する際にアンスがトマトは抜いて欲しいと言っていたはずだ。
「あなたトマト苦手なんでしょ?」
「えっ?はい・・・・・・」
「だったら、ほら」
アンスに押し付けるようにブリトーを差し出す。
「私もひと口食べちゃったから、おあいこ様よ。」
もじもじしながらもアンスは、ならしょうがないといった感じに交換してくれた。
私は間違えて渡した張本人に今度は何か一言いってあげようかと振り返えった。
ココはアデリナぴったり寄り添って歩きながら、ブリトーを楽しそうに食べている。
「肉抜きにしたけど、それ美味しいの?」
「ソースがピリ辛でおいしいよ」
「少しちょうだい」
「辛いの大丈夫?」
「へーき、へーき」
ぱく!
「辛いのもいけるね。アデリナも食べていいよ」
アデリナはかぶっている白いベールが汚れてしまわないように手で押さえながら、ココが手に持つブリトーを口で迎えに行く。
ぱく!
ベールからのぞく白い首筋が妙に色っぽい。
ブリトーを口にした瞬間、上目遣いにこちらを見たアデリナと目が合った。彼女は口をもぐもぐさせながら照れ笑いした。
(楽しそうなのは結構だけど、2人とも少し活を入れた方がいいわね)
彼女達の対処は後にして、私は勇者様の方へ向き直った。
彼は露店に立ち止まり店主とやり取りしている。どうやらリンゴを買おうとしているようだ。
「彼、お金は持っていないでしょうに」
私の疑問にアデリナが答える。
「今朝、教会で詩?か賛歌を歌ってたじゃないですか、あの時周りにいた人たちからお金を集めてましたよ」
「本当に?」
すごい順応力だ。起きたそばからエルフを口説いたと思ったら、お金まで集めていたなんて。
それに比べ、前回の勇者様にはどれだけ手を焼いた事か・・・・・・
やはり言葉が通じるというのは大きいらしい。
露店でリンゴを見定めている勇者様はちゃんとお金を払いリンゴを受け取った。
自分でお金を得て、自分で食料を調達することが出来る。彼には私たちの助けは必要ないのでは?既に街に馴染み始めている彼を見ていると、そんな事を思ってしまう。
勇者様が露店を離れると、今度はエルフが私の視界に入って来た。
彼女もリンゴを買うらしい。
私はその光景を何気なく眺めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ライリー様、ライリー様?置いて行かれますよ」
アンスの呼びかけにハッと我に返る。昔の記憶に浸っていたようだ。
気付くとエルフはリンゴを買い終え、小走りに去っていくところだった。
(やはりエルフは見たくない)
小走りに駆けていくエルフを、私達も追った。




