第1章1-19
1-19
「近い!ちかいですよ!」
先を行くココが少し大げさな身振りで手招きして私をせかす。
「アデリナの匂いが濃くなってます!」
(勇者様を追っているはずよね?)
ココには調子のいいところがある。ちゃんと仕事をしている自覚があるのか疑わしい。
ココの案内で走っていくと、前方の路地でアデリナとアンスの姿を発見した。彼女たちは勇者様の尾行に集中していてこちらにはまだ気づいていない。
するとココは足を止めることなくアデリナに駆けていき、彼女にそのまま体当たりするように抱きついた。
「ど―――ん!」
「きゃ!」
アデリナは不意の事に悲鳴を上げた。しかし、ココの顔を確認するとすぐ笑顔になった。
「静かにしないと気付かれるでしょ!」
ココの頭を撫でながら言う。
本当に二人は仲がいいのだろう。
ココはアデリナの胸に顔をうずめスリスリしている。
(また胸の匂いを・・・・・・)
そんな二人のやり取りを横目で見ながら、アンスの方は気を抜くことなく路地の先に気を配っていた。
「置いていかれますよ」
尾行を再開したアンスに、私は並んで歩き尋ねた。
「アンス、何か変わった事は?」
「ありません。勇者様はあても無く歩き回っているようです。」
「そう、ご苦労さま。後はココがいるからそんなに気を張ることはないわよ」
私はアンスの肩に手を置きねぎらった。
「はい、ありがとうございます。・・・・・・ただ、エルフの女性が勇者様の後をずっとつけています」
アンスの目線の先を追うと確かに朝、教会でうろついていたエルフが人ごみに紛れて勇者様の後にいるのが確認できた。
彼に何をささやかれたのか知らないが、彼女は真に受けてしまったのだろうか?周りなど見えていない様に勇者様だけに集中して、つかず離れずの距離であとをつけている。
あのエルフが余計な事を言う前に勇者様を連れて帰らなくてはならない。
「ずっと後を付けているだけなのでそのままにしてましたが、追い払いますか?」
「そうねぇ・・・・・・」
私が思案していると、ココもエルフの姿を見つけ、話に割って入って来た。
「あのエルフ教会からここまで勇者様の後をつけて来たんですか?」
スンスン・・・・・・ココが鼻を鳴らす。
「あの人かな?ずっと勇者様の匂いに混じって、バラのいい香りがしてたんですよねぇ」
ココは茶目っ気たっぷりに語り出した。
「ああ、勇者様。私の蝶よ~♪他の花に行かず~♪私の蜜を吸いに、さぁ~いらっしゃい♪」
あのエルフはこんな風に後をつけられ、観察されているとは思いもよらないだろう。私はエルフが嫌いだが、ココに冗談交じりで話の種にされているのには少し同情する。
「ココ、それ以上続けるなら、またお仕置きをするわよ」
「ライリーさまのお仕置きなら何度でも!」
ココが減らず口を叩く。キッと睨むと素早くそっぽを向かれる。
(まったく、)
知らん顔するココが何か思い出したように「あ、」とつぶやいた。
「みなさんお腹すきません?少し先の広場でおいしいブリトーを売ってる屋台があるんです。私、買ってきますよ」
空を見上げると太陽は真上に昇っている。丁度お昼にはいい頃合いだ。
しかし、アンスが困ったように言う。
「急いでいたので、お金を持ってきてないです」
アデリナも続く。
「私も、」
「ふっふーん!心配いりませんよ。今日は私のおごりですから!わたし太っ腹~っ!」
朝に罰としてお昼をおごるようにと、言ったことを思い出したらしい。ココは自分の平らな胸をドン!と叩きながら肩から下げているポシェットを見せびらかした。
(この子はどこかズレてるのよね・・・・・・)
真面目なのか狙っているのか、分からないところが妙に笑いを誘う。
「でも、ココちゃんそんな無駄遣いしたら、お小遣い無くなっちゃうでしょ?」
アデリナが心配して母親のようなことを言いだした。
「大丈夫!私には”コレ”がたんまりと・・・・・・シッ、シッ、シッ!」
ココはしたり顔で親指と人差し指で輪っかを作りアデリナに見せつけている。
「なにせ、これから・・・・・・」
「ココ、」
私はトーンを下げた声で呼び、ココが喋ろうとしたことを遮った。
真剣な表情を察したのだろう、彼女は口をつぐんだ。
(この子は調子に乗ると何を言い出すか分からないわね)
街の人々を混乱させないため、私達の計画は秘密にと。あれほど言ってあったのに。
「まぁ、とにかくお金の心配はいりませんよ。遠慮なくおごられてください」
「そうなの?」
アデリナはココにそう言いつつ、こちらに視線を送っている。私はそれに対しうなずいてあげた。
「さあ、注文取りますよ。何がいいですか?わたしはもちろんチキンですっ!」
「ポーク」
「じゃあ、チリビーンズ」
「私は、ハムとチーズを倍盛りで」
「あ、お肉は抜いてもらってね。あとソースはたっぷりで」
「私もソースはマシマシで、トマトは抜いてください」
「あ、あ、あ、あ、あっ」
注文を聞いているうちにココは小刻みに声を発しながら、なぜかバタバタと地団駄を踏み出した。
そして、
「チキン4つ。かしこまりー!」
勢いよくそう言って走り出した。
「覚えきれなかったんですね」
あまり表情を表に出さないアンスがかすかに笑っている。
「私、心配なので付いて行きますね」
母親が付き添う様にアデリナもココを追って駆けていった。
「さぁ、私たちは勇者様を追うわよ」
「ハイ」
私とアンスは人ごみの中、勇者様を見失わないよう後を付けた。




