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第1章1-13

1-13


「ハァ―――――ッ」

私は部屋の窓から顔を出し、肺に溜まった臭気を出し切るように息を吐いた。

「すぅ―――――」

代わりに、夜のひんやりと澄んだ空気を思いっきり吸い込む。

「ふぅ・・・・・・」

外の新鮮な空気を吸ったことで、頭は冴え、なんとか落ち着いた。


部屋を振り返り勇者様の様子を眺めながら、今後の対策について考える。

ジューリアからは隠密で勇者様の助けになるようにと頼まれたのだ。

”隠密で”それは前回の勇者降臨の失敗を踏まえての事だろう。前回の時は教会をあげて勇者様を至れり尽くせりで迎え入れたが、それが失敗だった。


人というのは与えられるものには満足はしないのだ。自分で望んだものでないと意味がない。

自分で体験し、得た知識や経験こそ今は寝ている彼にとって必要な物となるはずだ。

まずは手を貸さず陰から監視をして、助けを求められれば手を差し伸べることにしよう。

私はそう判断した。


だとすると、このまま教会で目を覚ましてもらっては困る。どこにいるのか何もわからない状態の方が都合がいい。

(外に運び出すか、)

教会が関与していることは今のところ伏せておこう。


それに、なんといっても彼の匂いをなんとかしたい。

今のままではこの部屋だけではなく、修道院全体に臭気が充満してしまいそうな勢いだ。

これではシスター達も穏やかに眠る事などできないだろう。


私はベットの脇に揃えてあったサンダルを勇者様の足へ履かせると、外へ運び出すため担ごうとした。しかし、

(重い!)

遠征から帰ってきてすぐに、休むことなくこの街までやってきたのだ。それに加えてさっきの着替えで体力は使い果たしてしまっていた。


「ハァ、」

担ぐのを諦め、力の抜けた私は彼と一緒にベットへ倒れ込んだ。

このまま私も勇者様の隣で眠ってしまいたい。その腕を私の首に回して、胸に顔をうずめて、この香に包まれて・・・・・・そんな誘惑にかられる。


(いけない!)

自分の妄想を払うように起き上がり、部屋の外に控えているアンスを大きな声で呼んだ。

「アンス!!」

一人で運び出すのは無理だ。アンスに手伝ってもらうしかない。


「ひゃい!」

アンスは妙な声を上げると扉を開けた。

部屋の外まで匂いが漏れていたのかもしれない。彼女もこの匂いにあてられてしまったのか、少し様子がおかしい。


「外に運び出すから手伝って!」

「あぁ・・・・・・うぅ」

彼女は入り口に立ったまま、もじもじして入ってこようとはしない。

「早く!!」

私は思わず声を荒げた。

「ハイっ!」


私が勇者様の頭の方を、アンスが足の方を抱えた。

「いい?落とさないようにしっかり持って」

歩き出すとアンスはまるで酔っ払っているかの様によたよたとふらついた。その顔も真っ赤だ。普段、護衛として使えている時の隙の無い彼女とは大違いだった。


(しまった。足を持たせるんじゃなかったわ)

その位置だときっと目のやり場に困ったに違いない。それにこの匂い。早く済ませないとアンスが可哀そうだ。

けど歩きだしてしまった後ではしょうがない。そのまま勇者様を運び出す。


部屋を出たところでアデリナが声をかけてきた。

「私も何かお手伝いを、」

「二人は修道院中の窓を開けてきなさい。換気して!」

イライラから思わずキツイ言い方になる。アデリナはビックリしてココと連れ立って駆けていった。


バタバタしながらなんとか勇者様を教会の入り口まで運び出し、芝生の上に寝かせた。

ここは教会の敷地内だ。勇者様が起きた時、最初に目に付く教会に助けを求めてくるのではないかと予想した。


始めから私達が手を貸すのと、自分から助けを求めるのでは意味が違う。

それに彼を寝かせたこの場所は修道院の部屋から見通せる。起きるまで部屋から隠れて、見張っていればいいだろう。


「ライりぃー、サマぁ・・・・・・」

甘えるような声を出してアンスが私の名を呼ぶ。

彼女はお腹を両手で抱えるようにして、小刻みに震え、今にも崩れ落ちそうだった。


慣れている私でも頭が真っ白になるほどの臭気だったのだ、初めてあの匂いを体験したアンスには辛いものだっただろう。しかも修道院からここまで直接勇者様に触れていたのだし、我慢できただけで大したものだ。

「大きな声を出して悪かったわね」

優しく声をかけ、私はアンスの側に寄って彼女の肩をさすってあげた。


「ゆっくり深呼吸して心を静めなさい」

「ふぁい、」

バフッ!

彼女は私にすがるように抱きついてくると

「すぅー、ハァー、すぅー、ハァー」

私のお腹に顔をうずめて深呼吸を始めてしまった。

(ちょっと!)


警護の間はキリッとした戦士の顔をしているのだか、アンスは時々やけに甘えた行動をとることがある。

「ふふっ」

隙があるのが彼女のかわいい所だ。


「そうだ、帽子」

私はすがって頭をこすりつけてくるアンスから、ズレ落ちそうになっていた帽子を取り上げた。

「この帽子、貰っていい?」

彼女はお腹に顔をうずめたまま、うなづいている。


シュッ!

帽子を勇者様の寝ている方へ投げると、ちょうど彼の胸へ帽子が乗った。

(上手くいくといいのだけれど・・・・・・)

アンスが落ち着くまでしばらくの間、私は夜風に吹かれながら彼女の髪を撫でてあげた。

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