第1章1-12
1-12
私は修室へと向かいながらアデリナの報告を受けた。
「勇者様は昨晩降臨されまして、ラゴの街で待機していた信者達によって回収されました。ここに運び込まれたのが夕刻です。回収にあたった者に確認したところ、まだ一度もお目覚めにはなっていないようです。修室に運び入れた後もまだ目を覚ましてはいません」
アデリナが心配そうにつぶやく。
「大丈夫でしょうか?」
「心配はいらないわ」
彼女にいらない心配をさせないよう、私は事もなげに答えた。
アデリナは教会から指名されてここに赴いたのだ、きっと今回の役目に責任を感じているはずだ。私が引っ張って彼女の負担にならないようにしなければいけない。そう思った。
それに彼女は勇者様の体の心配をしているようだが、そんなことは気にする必要はない。心配事は別にあるのだから・・・・・・その為に私が来たのだ。
アデリナが報告を続ける。
「それで、勇者様についてなのですが・・・・・・」
なぜか彼女は急に言葉を濁した。
歩きながらアデリナにチラリと視線を送る。彼女は私の視線にどぎまぎしながら言葉を続けた。
「その、勇者様はお召し物を身につけておられませんでしたので、こちらのシスター達に何か服を着させるように頼んでおいたのですが・・・・・・どのシスターも・・・・・・えーと、」
アデリナの言葉は明らかに歯切れが悪い。
その報告を最後まで聞く前に、勇者様が運び込まれた修道院の入り口に着いた。
中に入ると勇者様が運び込まれたであろう修室はすぐに分かった。部屋の前でシスター達が集まっている。
だが様子がおかしい。彼女たちはお互いに肩を抱き合って背中をさすり合ったりしていた。
「何をしているのです」
私は集まっているシスター達に状況説明を求めた。
一人のシスターがおずおずと申し出る。
「勇者様に服を着させるようにと申しつけられたのですが、その・・・・・・部屋に入ると、なんと言えばいいのか・・・・・・」
彼女は顔を真っ赤にしてもじもじしている。
(あぁ、彼女は”あてられた”ようね)
アデリナがシスターに変わって続ける。
「皆このような状態で・・・・・・まともに部屋に入っていられないのです」
(初めてではしょうがないわ)
「いいわ、私がやります」
シスター達では無理だろう。私が着替えさせようと申し出ると、アデリナが止めに入った。
「いえ!ライリー様のお手を煩わせるわけにはっ」
「大丈夫よ、私は慣れているから。それより、あなた達はカモミールティーでも飲んで心を静めるといいわ。ここは私たちに任せてもう休みなさい」
シスター達に言葉をかけると一礼し皆足早に去って行った。
残ったアデリナは申し訳なさそうにしていたが、ココはというとだいぶ離れた場所でこちらの様子をうかがっている。本能的に避けているのだろうか?
彼女達があてられては明日からの任務に支障が出るかもしれない。離れていてくれた方が安心だ。
「アンスもそこで待っていなさい。あてられるわよ」
アンスは何も言わず後ろへ下がった。
すーーーっ
部屋に入る前に、鼻から息を吸い呼吸を整える。何度経験していても勇者様との接触はいつも気が高ぶってしまう。
心を静めてゆっくり扉のノブを回す。
扉を開けるとその部屋は中に入るのをためらうほどの臭気が満ちていた。
「くさい、」
思わず臭いと言ったが、この表現は少しずれている。
なんと言い表せばいいのか自分でも適当な言葉が浮かばない。
例えば、雨上がりに太陽に照らされた地面の匂い、小さな子を抱き上げた時に香る甘ったるい匂い、揚げたてのフライドポテトから立ちのぼる湯気、イカのはらわた、干し草、ネコの耳の匂い、などなど・・・そういった思わず嗅いでしまうような、いい匂いも悪い匂いも一緒くたになって、それが汗の匂いに混じっている。そんな匂いなのだ。
臭いと思うのだけれど、どこか落ち着く匂いでもあり逆に興奮も誘うような・・・・・・体の奥の芯の部分に訴えかけてくるものがある。
その発生源は分かっている。勇者様だ。
私は大きく吸い込まないように浅く呼吸をしながら、勇者様が寝かされているベットに近づいた。
「すぅー、すぅー、すぅー、」
寝ている勇者様の顔は穏やかで、すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てていた。
(黒髪か・・・・・・)
髪をなでた。短髪のその髪はコシがあり手のひらを心地よく撫で返してくる。
(この黒髪はもしかすると、あの人が喜んでくれるかも)
髪を撫でながらそんな考えが浮かんだ。
(いいえ、私には関係ないわ)
ぱしっ!ぱしっ!
勇者様が起きてくれないか、頬をはたいてみた。
「すぅー、すぅー、すぅー、」
起きる様子はなく熟睡している。起こした方が着がえさせる手間がはぶけると思ったのに。
(しょうがないわね)
勇者様にかけられていたシーツをはぎ取る。すると彼はまだ下着も着せられておらず素っ裸だった。
辺りを見渡すとイスの背もたれに服が掛けられているのを見つけた。きっとこれを着させるつもりだったのだろう。手に取ったそれは粗末なチュニックが一枚と腰ひものみだ。下着が無い。
ここは女子修道院だ。急な事で男性用の下着を用意することが出来なかったのか。
私は少し悩んでから、はぎ取ったシーツを手に取り、装備していたナイフで切れ込みを入れ、そこから真っ直ぐに裂いた。
ビッ! ビッリリッーーーー!
適当な幅に裂いたシーツを縦に三つ折りにし、片方の端は折り目を広げておく。次に勇者様の足を持ち上げ作業しやすくするため腰のあたりに枕をあてがう。そして赤ちゃんにおしめを当てる要領で先程の三つ折りのシーツを股蔵に当て、腰ひもで結わえた。
「ふふっ、大きな赤ん坊だこと」
次はチュニックだ。
さすがに一人で上半身を抱えながら服を着させるのは辛い。
「アンっ・・・・・・」
アンスに手伝ってもらおうと声に出しかけ、寸でのところでやめた。
(そうだった、この部屋に入れる訳にはいかないわ)
私はベッドに這い上がり、勇者様の体にまたがった。
「はぁ、」
慣れているとは言ったが、それでもこの匂いにさらされ続けていると頭がクラクラする。降臨したばかりだからだろうか?特に臭気が強いように感じた。
「はぁ・・・・・・」
集中していないと、意識を持っていかれそうになる。
「ハァー・・・・・・」
呼吸をするたびに体の奥の奥、芯の部分が疼く。
(早く終わらせよう)
勇者様の首に腕を回して上半身を抱き起す。そのまま片手でささえながらチュニックに頭を通していく。
しかし片手では上手く着させることが出来きず、早く終わらせたい気持ちとは逆にもたついてしまう。
(手間のかかる子ね!)
ぐったりと何の力もかかっていない体を支え続けるのは結構な重労働だ。
額がじっとり汗ばむ。
上手く着せられない事にイライラしながら、それでもなんとか頭と腕を通し終えたところで私は支えていた腕を離した。
バタン!
抵抗なく彼の体がベットへと沈み込み、ギシ、ギシ、ギシ、とベットの軋む音が部屋に響く。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」
私は彼にまたがったまま、自分のベルトを外した。
熱い。
勇者様の首筋に顔をうずめ息を吸い込み過ぎたせいかもしれない。私も既にあてられていて、どうしようもない衝動が込み上げてくる。
彼にまたがったまま、スカートの裾を掴みバタバタとはためかせた。服の内側にこもった熱を外に逃がすと、襟元から私の汗で湿った生暖かい空気が吹き抜け、頬をさすっていく。
それは彼の臭気と私の汗とが混じり合って、また別の香りへと変化していた。
(あぁ、体がジンジンする・・・・・・)
「フゥ―――」
一息吐き、意識を集中させる。気を張っていないと本当に持っていかれそうだ。
外した自分のベルトを勇者様の腰にあてがう。起きたらまた適当に服を見繕ってあげればいいだろう。
(とりあえずはこれでいいか、)




