第1章1-11
1-11
コッレの街は丘を切り崩して開拓された街だ。
切り崩した岩を使い、丘をぐるりと周囲10㎞程の防壁が囲う。
アイオニオン教の信仰も厚く、街には各地区ごとに教会が建てられ人々の心の支えとなっている。
西方教会はコッレの街の西地区にあり、その教会には修道院が併設られ、神にその身を捧げたシスター達がつつましやかな暮らしを送っている。
西方教会へと到着すると夜遅くにもかかわらず、2人のシスターが出迎えてくれた。ジューリアが言っていた今回の任務の為に派遣された者達だ。
「ライリー様ですね。ご足労頂きありがとうございます。わたくしアデリナとこちらのココ、両名がこれよりライリー様のサポート役を務めさせていただきます」
挨拶したアデリナが喋り終わるやいなや、
「はじめましてシスターライリー!ココと申します」
アデリナを押しのけるように前へ出て、ココは自己紹介した。
ココが興奮したように続ける。
「お噂はかねがね伺っています。あの”1本矢のライリー”と共に同行できるなんて光栄です!」
2人とも紺のロ-ブに白いベール姿でシスターの正装だが、受ける印象はまったくの正反対だった。
アデリナと名乗った彼女は白に近い灰色の髪をゆったりと三つ編みに束ね、肩から前に垂らしている。顔には微笑みをたたえ、口調からも落ち着いた印象を受けた。
ココの方はというと、まだ子供っぽさの抜けない天真爛漫といった印象だ。髪は短髪にしているらしく、ほとんどベールの中に納まっている。私の事を1本矢のライリーと呼んでいるあたり、昔の事を伝え聞いているようだった。
”1本矢のライリー”その呼び方をされると気恥ずかしい。
昔は「矢を射れば外すことなく一撃必中」とウワサされ、外したことが無いから2本目はいらないという意味で付いた私の二つ名だ。
自分でもそれなりに弓矢は自信があるが、私だって外すことぐらいある。
私が弓を取り出すと、余りに皆から期待されるので、今は弓を使うのは避けていた。
ココはさらに続ける。
「ライリー様は弓の引きすぎで左腕が10㎝も長いって本当ですか?」
初対面なのに、なかなかと遠慮のない質問をしてくる。
「フフッ、モンスターじゃないんだから。長いと言っても数センチ程度よ」
剣であっても槍であっても、長く扱っていれば武器に合わせて体に歪みが出てくるものだ。弓を引いていると左腕が長く、そして右の二の腕がひと回り太くなる。
普段はそんなに気にする程でもないが、シャツに腕を通す時にはその差がよく分かる。右腕を通す時には少し引っ掛かりを覚えるし、左右で袖の長さが合わない。
私は試しに胸の前で手のひらを合わせ、前に突き出してココに見せてあげた。
突き出した手のひらは多少、左中指が前に飛び出たがほとんど左右で変わらないくらいだった。
ココは私の手をまじまじと見ていたかと思うと、
ぱしっ!
突き出した私の手を挟むように握った。そしてニコニコと笑う。
(この子は、人の心に入ってくるのが上手いな)
そう思った。
私の手を握ったまま離さないココの後ろで、アデリナが彼女のローブをツンツンと引っ張って、小声で喋りかける。
「ココちゃん・・・・・・はやく、お祈り」
「分かってるって、」
アデリナがこちらの顔色をチラチラうかがう。私がイラついていないか気にしているのだろう。
そんなことはないと、微笑んであげると彼女は微笑み返してくれた。
(素直な子ね)
こんなに好意的に迎え入れられれば、こちらも悪い気はしない。遠征帰りの疲れも忘れるようだった。
ココはアデリナの催促に応じて、その場で膝を付き手を差し出してきた。祈りの姿勢だ。アデリナもそれに続く。
私は彼女たちが差し出した手に自分の手を添え、
「あなた達の働きに期待します」
そう応えた。
2人が祈りを終え立ち上がったところでアデリナが尋ねてきた。
「ところでそちらの方は?」
私の後ろでは護衛として連れてきたアンスが直立不動の姿勢で控えている。
「彼女は私の護衛のアンスよ。今回、彼女も同行させるつもりだからよろしく頼むわ」
「よろしくお願い致します」
アンスは素っ気なく挨拶すると、軽く会釈した。
(もう少し愛想よくすればいいのに・・・・・・)
アンスのそっけない挨拶に二人も軽く頭を下げただけで顔合わせは終わってしまった。
アンスとは北方遠征からの付き合いだ。
若いながらに武術に長け、遠征隊の中では実力は抜きん出ていた。その実力を買って私の側付きにしたのだ。
私のもとで指導し、いずれは隊を率いることが出来るようになってほしいと考えている。
隊長ともなればコミュニケーション能力は必須なのだが・・・・・・彼女も遠征帰りで疲れているのだろう。
今は勇者様の事が優先だ。私は早速アデリナに尋ねた。
「で、勇者様はどこに?」
「修室に運び込まれています」
私は3人を引き連れ、修室へと歩き出した。




