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第1章1-10「クレリックのターン」

1-10


「どうぞこちらへ。ジューリア様がお待ちです」

私は従者に促され屋敷の中を進んだ。

屋敷には何度も招かれていたので、勝手知ったる他人の家ではないが大まかな構造は把握している。

だが昔からのよしみとはいえ、さすがにアイオニオン教の首長様にお目通りするのに勝手に上がり込むわけにはいかない。


従者は静々と廊下を進み、私を屋敷の奥まった場所へと案内していく。首長がおおやけに面会を行う迎賓の間は過ぎていった。


案内されたのは首長の寝室だ。

従者は部屋の前で足を止めると、こちらに軽く目配せしてから扉をノックした。

コン、コン、コン

その合図に中で控えていた別の従者が扉を開けた。


私を案内してきた従者がうやうやしく一礼し、一歩前へ出て部屋の入り口に立ち言う。

「失礼します。ライリー様がご到着なされました」

「お通しして」

中からは柔らかな女性の声が返ってきた。


廊下で待っていた私は中へ入るよう促され、部屋の中央まで足を進めた。

目の前にはアイオニオン教の首長ジューリアが私を待ち構えていた。

彼女は既に就寝中だったらしく寝間着姿のままだ。


とりあえず私は儀礼にのっとり彼女の前で片膝をつき左手を胸に当て、右手を前に差し出し祈りの姿勢をとった。ジューリアは私が差し出した手に自身の手を軽く添えると「祈りを」そう言った。

特に祈るような事もない私は形式的に目を閉じこうべを垂れた。


頭を上げると、彼女は従者達に声をかけた。

「もう、下がってよろしい」

従者達は一礼し、そのまま部屋を出ていった。二人だけになった事で少し気が楽になる。教会というのは形式ばっていて苦手だ。


立ち上がった私にジューリアが嬉しそうに微笑む。

「お久しぶりですわ、お姉さま!」

そう言った彼女はいきなり抱きついてきた。

「そうね、半年ぶりくらいかしら?」

私も彼女の背中に腕を回し、抱擁を交わす。


しっかりと抱きしめてから、彼女の肩をポンポンと叩き合図を送る。

(もういいわ)

だが彼女は抱きついたまま離してくれようとはしない。

「半年などと何をおっしゃいます! 季節がいくつ巡ったと、お思いに?」

彼女は私の胸に顔をうずめながら、上目遣いにそう尋ねてきた。


(離してはもらえなさそうね)

彼女の背中から腰へと手を回し、子供をあやすように体を軽く左右に揺らしながら、思い起こす。

(ここへ赴くのはそんなに久しぶりだったかしら?北方遠征に出て以来だと思ったのだけれど・・・・・・)


遠征ではモンスター相手に常に気を張っている。食事の時も、移動の時も、寝るときですら。

街での穏やかで規則正しい生活とは違う。


食事中だからといってモンスターは待ってはくれない。ゆっくり食べてはいられないから時間もバラバラ。おのずと早食いになる。移動しながら軽くお腹に詰めるだけのことだってある。


移動は慎重に慎重を重ねて進む。

モンスターの襲撃を察知しやすいよう邪魔な木々や下草を払いつつ、安全を確保するため払った木などを使い簡易バリケードを築く。

少しずつ安全地帯を広げるのだ。


就寝中でも気を抜けない。モンスターは常に人を探して徘徊しているのだから、モンスターの襲撃があれば見張りの兵にたたき起こされる。

そのため浅い眠りを繰り返し、眠っても疲れは取れず蓄積していく。


そんな不規則な生活を続け疲れがピークとなった頃、最前線での活動は一時解かれつかの間の休暇が与えられる。休暇中は泥のように眠り、寝すぎて体がキシみ出した頃に、また最前線へと赴くのだった。


遠征では戦いと休息の繰り返しだけだ。娯楽などの楽しみなどない。

緊張と緩和が交互に訪れ、街では体験する事の無いギャップに時間感覚がずれていてもしょうがない。

(時が過ぎるのなんてあっという間だわ)


遠征の目的はモンスターを退け農地を広げることだ。

時間をかけコツコツと開拓した事で、ようやく今手をかけている場所も農地とするめどが立ってきた。

これから確保した土地に再び草木がはびこらないようにヒツジとヤギを放牧する。彼らが若い芽のうちに草木をはんでくれることでそこは牧草地へと変わる。またそのフンは堆肥となり肥沃な土地へと変わっていってくれるはずだ。

そしたら次は・・・・・・


私が黙ってゆらゆら揺れているのをじれったく思ったのかジューリアが口を開いた。

「遠征お疲れ様でしたわ。土産話をお伺いしたいのはやまやまですけれど、」

彼女は腕を解き、私を開放してくれた。


わざわざ呼ばれたのは土産話に花を咲かせるためではない。それはジューリアも分かっている。

私は率直に尋ねた。

「降臨は?」

その言葉に彼女は姿勢を正し、向き直った。

「つい先ほど報告がありまして、降臨を確認したとのことです。段取りはつけてありますので、今頃はコッレの街の西方教会へ運び込まれているはずです」


「そう。丁度、間に合って良かったわ」

勇者降臨の兆候が表れたと報告を受け、私は北方より帰還したのだ。

北方からそのままこの屋敷に駆けつけたのだが、勇者様が降臨したのは今日だったようだ。

降臨の知らせを受けたジューリアもたった今、起こされた為に寝間着姿のまま私を迎えることになったらしい。


「お姉さまには、今回もご足労をおかけ致しますわ」

彼女は申し訳なさそうにうつむいた。

「私が対処するのが確実だからしょうがないわ。それよりも、今回の方針は?」

「今回は極力関与はしないとの事で、教会内で一致いたしました」

そう言うとジューリアの表情が曇った。

「前回は残念な結果でしたから・・・・・・」


(前回の降臨からどれくらい経ったのだろう?)

時間が経つのは早いものだ。本当にそう思う・・・・・・


私はモンスターとの戦いに生涯を費やしてきた。その功績により一度は「アイオニオン教の首長に」と言われた事もある。しかし、私は教会自体には興味がなく断わった。

丁度その頃、私の事を慕ってくれていたジューリアを代わりに首長へ押すことにしたのだ。私にとって首長の座は厄介払いのつもりだったのに彼女の方は私に恩義を感じているらしく、今でも私の事を本当の姉の様に慕ってくれる。


私としては彼女に後ろめたさもあるので、頼みごとをされれば断りにくい。

(今回も・・・・・・いや前回の時も)

面倒事には関わりたくないのだけれど、しょうがない。正直なところ遠征でモンスターを相手にしていた方がマシだと思う。


「今回、お姉さまには隠密に勇者様の助けとなって欲しいのです」

(隠密で?また難しいことを)

私の表情を読んだのか彼女が補足する。

「お姉さまの役に立てばと、適任者を2名派遣いたしましたので、ご心配なく。西方教会で待機しているはずです。他にもご要望があれば最大限の援助をいたしますわ」

彼女はにっこり笑った。


「正直言うと勇者様の事はどうでもいいのよ。ただ私は、私の役目を果たすだけ」

「そうですか・・・・・・教会と致しましては勇者様に期待しているのです。人類の発展にぜひとも寄与してほしいと考える者たちが多いですから」

その考えは分からない事も無い。だが気がかりな人物が一人いる。


「エルフの長はなんて?」

「連絡は致しました。ですが、教会の決定に従うという内容の書状だけが送られてまいりましたわ」

(おかしい。なぜ介入してこないのかしら?)

エルフの長であれば真っ先に駆けつけてきてもおかしくないはずなのだが・・・・・・


「いいわ、これから向かいます」

コッレの街まではそんなに遠くはない、ここから目と鼻の先だ。馬で向かえばそんなに時間はかからないだろう。

「お疲れでしょうに。今晩のところは派遣した者たちに任せて、お姉さまは朝までここで休んでいかれては?」

「結構よ」

確かに遠征帰りで疲れてはいるのだけれど、早く対処しておきたい。


「またゆっくり遊びに来るわ」

「いつもそう言いますけど、お姉さまがゆっくりくつろぐ姿を私は見たことがありません!」

彼女は子供のようにすねた表情をした。とても首長を務めているとは思えない、威厳などこれっぽちも無い可愛らしい表情だ。

(またなだめるのに苦労しそう)

そう思ったが、今回は物分かり良くすぐに笑顔に戻った。

やはり首長か、大事の前だという事はわきまえているらしい。


「お気をつけて」

そう言った彼女は片膝をつき左腕を胸に当て、私の前に右手を差し出した。

私は苦笑した。

「首長さま、立場をわきまえて」

私も一応はアイオニオン教の信徒だ。そのいち信徒である私に首長が膝をつくなど順位があべこべだ。

「立場など関係ありませんわ。私は首長になる前から、あなたのしもべなのですから」

私はジューリアの右手に手を添えた。


「ライリー様に天の加護を」

彼女は私の為に祈ってくれた。

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