第5章5-27
5-27
・ピコのターン
山の中での食事は捕った獲物をそのまま焼く事が多い。シンプルなだけにそんなに外す事無く口にできる。しかし今日の昼食は久々に失敗した。なんだか胃の奥の方が少し重い。
その昼食の口直しにしようと、リュックからマシュマロの入った袋を取り出した。携行食を作るために買っておいたものだ。
1つ摘まみ、口に放り投げる。
口を塞ぐ様なその空気の塊を噛むと、もぎゅもぎゅとした不思議な食感とともに優しい甘さが口の中に広がった。
このまま食べても美味しいが、
(やっぱり焼きマシュマロは外せないわよね)
串にマシュマロを刺し、火にかざす。するとあっという間に表面がジュワと泡を吹く。焦がさないように注意しながら串を回してキツネ色になったところで火から外し、爪を立てて熱いうちに表面の焼けた部分だけを抜き取る。
中は溶けかかっているのでぬぽっと外側だけが抜け、その焼けた部分だけを口に入れるとサク!、シュワ、とろっ、っとなんとも不思議な食感が楽しめる。
残った中身もまた焼けば何回も焼いた部分だけ食べる事ができ、火であぶる遊び感覚も手伝って、マシュマロを焼いている間はついつい時間を忘れてしまう。
遠征にも持っていきたいところだが、かさばる割に空気ばかりのマシュマロは山に持っていく食料としては不向きだ。こうやって携行食を作る時だけの楽しみにしている。
(そろそろ、作るとしますか)
マシュマロも十分堪能したところで、私は携行食作りに取り掛かった。
まず、買っておいた豆や雑穀、ナッツ類をフライパンで乾煎りする。香ばしい匂いが漂い、十分火が通り水分も抜けたところで布にあけ、こぼれないように端を握ったら、
バシッ!バシッ!バシッ!
近くの石に打ちつけて砕く。
(こんなもんかしらね)
あまり叩きすぎて粉になってしまうと歯ごたえが無くなってしまうので、いつも叩きすぎないように注意している。
舐めるように食べている携行食も、口の中に残った豆などのつぶつぶをいつまでも噛み砕いていると、空腹を紛らわすのにちょうどいいのだ。
次に、フライパンを火にかけそこへバターを落とす。
(これも使い切っちゃお)
持っていたヤギのバターは少し多すぎる気もするが、リュックの整理の為に全部入れた。
バターが溶けてくるとフライパンに波打つほど油が広がってしまった。
(まぁ・・・・・・気にしない、気にしない)
その油の中へマシュマロを投入する。見る見るうちにマシュマロはジュウジュウ音を立て、バターの海へ溶けていった。マシュマロの糖分が焦げ、キャラメルの甘く香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
「う~ん・・・・・・いい匂い」
マシュマロが溶けきったところで味付けだ。
(今回はどうしようかな)
前回のは甘みも塩気も強すぎた気がする。あの時は、はちみつが手に入ったので沢山入れすぎたのだった。
今回はマシュマロの甘みだけにして、塩だけ加えることにした。塩は汗をかいた時に欲しくなるので私の携行食には欠かせない。
それに塩を入れるのはワザとマズくしているのだ。甘くて美味しいとついつい途中で食べたくなり、最後まで残せない。それでは非常食として持っていく意味がなくなる。だから携行食は手を付けないように少しマズイくらいでちょうどいい。
塩を取り出し、ふつふつと煮えたって茶色く色づき始めたマシュマロとバターの液体の中へ入れる。
塩が溶けきれば、他の具材を入れてもいい頃合いだ。
(そうだ、ドライフルーツを貰ったんだった)
いり豆を買った時にドライフルーツを貰ったことを思い出し、リュックから取り出した。
味見に一粒摘まんで口に含むと干されたことで味が凝縮したフルーツは噛みしめるほどに甘みが口に広がる。干されているのでこのまま山に持っていっても良さそうだが、それだとおやつ感覚ですぐ食べきってしまうだろう。
このまま食べたい気持ちをグッとこらえてドライフルーツをフライパンへ投入した。
(これだけでも十分ね)
甘みは加えなかったが、ドライフルーツのおかげで十分の様な気がする。
あとは、砕いたナッツ類を入れて良く混ぜ合わせれば、ほぼ出来上がりだ。
冷えてくるとマシュマロに使われているゼラチンが具材同士をくっつけて固めてくれる。
水分は抜かれているし、塩と甘い味付けだけなので日持ちする。
(最後は・・・・・・)
仕上げに保存性をさらに高める為に炒り豆の粉をまぶすのがポイントだ。
先ほどと同じ要領で炒り豆を布に包んだら、今度は粉にするため石を手に持ち丁寧に潰していく。
粉になったら油紙に広げ、そこへ出来たての携行食をスプーンを使ってひと口大に取り分けながら粉をまとわせれば完成だ。
(どれどれ)
出来たものを1つ食べてみると、まだ温かいのでゼラチンは固まりきらず、食感は柔らかかった。
最初に口に広がるのは、粉にしてまとわせた炒り豆のこうばしい香り。
そして、噛んでいるとドライフルーツと雑穀やナッツが口の中で混ざりあっていく。バターはたっぷり使われているのでコクはあるのに、甘さは抑えられていて味はしつこくない。
永遠と、いつまでも噛んでいたくなってしまう。そう思わせるのは程よく利いた塩気のおかげだろう。飽きが来ない美味しさだ。
・・・・・・ゴク。
飲み込んでから確信した。
「失敗した!」
おやつなら大成功だが、携行食としては大失敗だ。美味しすぎて遠征の最後まで手を付けずに残せる自信がまったく無い!
(うーん・・・・・・)
今さら他の味を加えるつもりは無かった。失敗とはいえ、とてもおいしいのだから。
(おやつに食べればいいか)
携行食は遠征に行くまでにまた作ればいい。今はこの偶然の産物を美味しく頂きたい。
そう思い、リュックから茶葉を入れてある包みを取り出した。
食後のティータイムだ。




