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第5章5-24

5-24


・チェアリーのターン


私達は中庭で早めの夕食をとることにした。

「本当に今日は3食パンになっちゃったね」

「おかみさんのパンは美味しいから、別にいいよ」

ユウは紙袋から1つパンを取り出すと残りを私に預け、おいしそうにパンを頬張った。よほどおかみさんのまかないパンが気に入ったらしい。

私もパンをひと口ちぎり、口へ運んだ。彼といっしょに食べられるなら私はなんでもよかった。


パンを食べながら、足元に置いたバケツに入っている毛皮を眺め彼が質問する。

「毛皮ってどこで買い取って貰えるの?」

「街の北東はね、土地が開けていてそこでは家畜が飼われているの。その近くに家畜の剥いだ皮を集めている業者がいるからそこに持ち込むんだよ」

「へー」

「明日は毛皮を売って、そのまま東の門から出てスライム探しに行いかない?」

「ああ、いいね。そうしよう」


パク、パク、パク・・・・・・ゴクッ

パンをあっという間に1つ食べきったユウに、私はもう1つ手渡した。

「食堂に行って何か飲物貰ってこようか?」

「いや、いいよ。節約しないとね」

「そう?・・・・・・」

「ねえ、毛皮ってどれくらいの値段で買い取ってもらえるものなの?」

(・・・・・・やっぱり気にしてくれてるのかな)

彼はお金の心配をしているらしい。夕食をパンでいいと言ってくれたのもそのためかもしれない。


「うーん、私が前にキツネの毛皮を持ち込んだ時には5000シルバだったかな?」

「ふーん、」

「ウサギはまだ持っていったことが無いから、いくらで買い取ってもらえるか分からないわ」

私はパンをつまみながら話を続けた。


「あの時のキツネの毛皮は矢が背中に当たっちゃって破れていたから買い叩かれたけど、ユウの捕まえたウサギは傷がないしきっと高く買ってもらえるんじゃないかな?ちゃんと綺麗に膜も剥がせたし大丈夫だよ心配しなくても・・・・・・ユウ?」


話の途中で返事が返ってこなくなったので見ると、彼はウトウトとして今にもまぶたが閉じようとしている。

「ユウ、もう部屋に戻る?」

「うん・・・・・・」

返事をしたがそのまま目は閉じ、私の方へ寄りかかってきた。

(疲れちゃったんだね)


彼がひと口残して手に持ったままだったパンが落ちてしまいそうだったので、私はそれを摘まみ上げ、口へ運んだ。

しばらくこのままにしてあげようと、紙袋に残った最後のパンに手を伸ばし、ゆっくり頬張りながら彼の寝顔を眺めた。とても穏やかな表情をしている。


(そうだ、今度は私が)

今朝のひざ枕を思い出しお返しをしてあげようと思った時、

「おや」

食堂の方からおかみさんがやって来た。

彼を起こさないようにと私は人差し指を口に当てた。


おかみさんは首を縦にゆっくり振り、静かに近づいて来て、小さな声で話しだした。

「パンだけじゃ物足りないかと思って、スープがいいか紅茶がいいか聞こうと思ったんだけどねぇ」

「ありがとう、でももう部屋に戻るつもりだから」

「そうかい?・・・・・・それにしてもよく寝る人だねぇ」

ユウは私達が喋っている横でスゥ―、スゥ―、と寝息を立てている。


「本当に、フフッ。こっちまで眠くなっちゃう」

「アンタ達、羨ましいくらい仲がいいんだね。この前は大泣きしてたみたいだから、どんなひどい男に捕まったんだろうっておばさん心配してたんだけど、」

「あれはっ!」

私は大きな声を出しそうになり手で口を押えた。

「ハハッ、優しい人みたいで安心したよ。寝顔なんて子供みたいじゃないかい」

どうやら彼はおかみさんに認めてもらえたらしい。


「ユウはとっても優しいんです。私の事を甘えさせてくれるし、いつも見てくれて気遣ってくれるし、私の話をすごいねって褒めてくれるし、頼りになるし・・・・・・」

私がユウの寝顔を見ながらうっとり応えていると、おかみさんが変な声を漏らした。

「くッ!ッ、ッ、ッ」


見ると顔を両手で押さえて体をよじりながら、笑い声を必死に押さえているようだ。

そのおかみさんの様子を見て、私がかなり恥ずかしい事を口走っていたのに気付いた。

(やだ、わたし)

「くッ!ッ、・・・・・・はぁーーー、いや、ごめんよ。あんまりにもアンタがかわいく見えちまったからつい、くッ!」

おかみさんは口を手で押さえながら食堂の方へ戻っていった。

(・・・・・・のろけ話するなんて)

笑われて恥ずかしかったが、彼の事を聞いてもらえたので嫌な気はしない。


スゥ―・・・・・・スゥ―

ユウの気持ちよさそうな寝息を聞いていると、こちらまで眠気を催してしまう。

(私も少しだけ)

私は寄りかかる彼の肩へそっと頭を乗せた。

その時、

ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・

眠気の覚める鐘の音が直接頭の中に響いてきた。


(福音!また!?)

ビックリしてベンチから立ち上がりそうになったが、寄りかかっている彼を起こさないようにその場で福音に耳を澄ます。

ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・

(昨日は鳴らなかったのに)

うっすらと得体のしれない不安にかられた私は隣で寝ているユウの手に自分の手を重ねた。彼の手はとても暖かく、そのぬくもりに安心する。


・・・・・・ゴーン。

(止まった。)

福音はひとしきり鳴り響いた後、ピタリと止まった。私の耳は鳴りやんだ後もその鐘の音を探してピクピクと動き続けていたが、しばらくして落ち着いた。


「うーん・・・・・・ん?」

寝ながらでも鐘の音は頭に響いていたのか、ユウが目を覚ました。

「フフッ、おはよう。じゃなかった、こんばんはかな?」

いらない心配をさせないようにと、鐘の事は黙っておくことにした。


「ん、んん?」

彼は寝ぼけているのか、目をぱちくりさせている。

「ごめん・・・・・・オレ寝てた、」

「疲れてたんだね」

「うん、もう部屋に戻るよ」

彼がのっそり立ち上がったところに、おかみさんが戻ってきた。


「また鳴っちまったねぇ。さて、どうなるんだか」

「鳴ったって何ですか?」

「おや、寝坊助は聞き逃したのかい?福音だよ。一体なんだっていうんだろうねぇ」

(言っちゃった)

彼には心配させないようにと思ったのに、おかみさんは福音のことを話してしまった。まあ、言わなくても明日にはまた街中の噂になっていたかもしれないが。


「福音・・・・・・」

黙り込む彼を安心させようと私はおかみさんに聞いた。

「心配ないですよね。この前も何も起こらなかったし」

「大丈夫だろうと思うけどね。ただ、」

「ただ?」

「また門が閉まる事になったらお客さんが押し寄せてきて困るねぇ。明日はパンを作ってやらないって言っちまったし、アハハッ!」

「そっちの心配?」

おかみさんは私達を心配させないようにとワザと話をそらしたようだ。


「心配いらないよ。何かあるならこの前のうちに大変な事になっているはずさ」

「そうですよね」

「はい、カギ。明日はどうなるか分からないんだ、ゆっくりおやすみ」

部屋のカギを受け取ると、おかみさんは一言付け加えた。

「洗濯物があれば出しておくんだよ」

彼女は私のお尻を指さしてから、そのまま食堂に戻っていった。

(今日、尻もち付いたから)


私達が話している間もユウは余程眠いのかうつろな表情で立ったままだ。

「大丈夫?眠いのなら部屋にいこ」

「はぁー・・・・・・」

彼は眠そうに息をつくと、うなずいた。歩き始めたその足取りは危なっかしい。


部屋まで付き添うと、彼はフラフラとベットに向かい腰を下ろした。

「ユウ、防具外してあげようか?」

「・・・・・・だいじょうぶ」

目の前でゆっくり防具を外していく。


胸当てと前当てを外し床に置き始めたので、私はそれを拾い上げ机の上に並べてあげた。

昼間はとても頼りがいがあったのに、今は眠たくて我慢出来ない子供の様だ。そのギャップがかえっていとおしく感じる。

(かわいい)

少しだらしないと思うけど私に心を許している証の様な気がして、ついつい手を出したくなってしまう。


イスの背もたれには、脱いだそのままといった感じに昨日着ていた服がかけられていた。

「ユウ、これ洗濯に出してもいい?」

その服を持ち上げながら聞くと彼から返事は帰ってこず、代わりに小さくうなづいている。

私は彼の服を腕に掛けた。


「ねぇ・・・・・・今日はもう寝ちゃうの?」

「うん。なんか、ここのところ・・・・・・すごく眠くて」

「そう・・・・・・分かった。おやすみ」

私は彼の部屋を後にした。

(焦っても、しょうがないよね)

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