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第1章1-9

1-9


「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」

息を切らせて馬車乗り場まで駆けてきた。

この街は丘に張り付くように建物が広がっている。丘の坂を下りきると広場が設けられていて、そこが馬車の発着場所だ。

街にはこういった広場がいくつもあるが、今は彼を見失った場所から一番近い馬車乗り場にいる。


広場を見回す。

何台もの馬車が往来して混雑しているけど、モンスターを狩る見回り用の馬車は荷台に剣のマークが描かれていて分かりやすい。


(あった!)

まだ午後発の馬車は残っていた。願うようにその馬車に近づいて行くと・・・・・・・

「ハッ!!」

私は声にならない声をあげそうになり、両手で口を塞いだ。


(いた!)

彼だ!その姿を見つけたことで思わず泣きそうになり、私は帽子を深くかぶり顔を隠した。

「ハァー・・・・・・」

息をゆっくり吐き、心を落ち着けて改めて見る。彼は馬を撫でて笑っていた。その人の良さそうな笑顔を見たら、安心と申し訳なさにまた泣きそうになってしまった。


目じりに溜まった涙を拭きとり、馬車の様子を見た。まだ御者は来ていないようだ。彼は馬と戯れながら出発まで待っているのだろう。

(やっぱり見回りに参加するんだ)

見回りの馬車は防壁のそばまで集まってきたモンスターを狩る事を仕事にしている。仕事といっても街の安全を守るボランティアの様なのものだ。


大型のモンスターはお金になるのでパーティーを組んだ冒険者達が狩ってくれる。

しかし小型のモンスターでは稼ぎは薄く大抵の冒険者はスルーする。相手をしている時間が惜しいからだ。

とはいえ、そのスルーされたモンスターでも、人々を脅かすモンスターに変わりはない。そこで一般人からも有志を募り、街の周りは毎日モンスターを掃討しているのだ。


1台ではとても街の防壁を回りきれないので何台もの馬車が担当区域を決め、午前と午後の2回、毎日見回りをしている。

人手が足りないから、一般人も参加しやすいように武器が馬車に積まれており貸し出しもしてくれる。

更に参加するだけで、たとえモンスターが出現しなくてもおこづかい程度だが報酬がもらえ、その上モンスターを狩った数で上乗せして報酬が払われる仕組みだ。

だれでも参加出来る事から、よそからきた冒険者やソロにとってはありがたい制度なのだ。私もこの街に来た当初は何度もお世話になった。


彼は武器を持っていなかった。スライムを狩りに行くなら武器を貸してくれ、かつ参加するだけで報酬が貰える見回り馬車だろうと踏んだ予想が当たった。


私は彼に気付かれないよう、ホロ付きの荷台に静かに乗り込んだ。

中には冒険者らしき3人が待機していた。それぞれ適度に距離をとってバラバラに座っている。きっとソロ冒険者の集まりだ。

私は空いていた奥に腰を下ろした。


4人でなら十分モンスターに対処できるだろう。いや彼を含めて5人。

この見回りで現れるモンスターはほぼスライムのみだし、よっぽどの事が無ければ難なく倒せる。

それに万が一、強敵が出てきたとしても、無理はせず逃げるのがルールだ。門まで逃げ切れば鍛錬を積んだ兵士たちに後は任せられる。


私はいつ彼が乗り込んでくるのかドキドキしながら待った。

(彼が乗り込んで来たら、なんて言えばいいんだろう・・・・・・)

いくつか頭の中でシュミュレーションしてみる。


『私も今日はスライムを狩りに行くつもりだったの。よろしくね』

なんだかわざとらしい。なぜ最初から一緒に行かなかったのか不審に思われそうだ。

下手に出ては怒りを増長させるかもしれない。ここはちょっと上から目線で、

『あなたが来るの待ってたのよ』

ダメだ、なんで先回りできたのか聞かれそう。

だったら、あんな告白ぐらいではなびかないクールな冒険者を装って

『あら、奇遇ね』

とか?


(ダメだわ・・・・・・何を言ってもうわべだけ取り繕っているように聞こえる)

こういうのは正直に言うのが一番だ。

ずっと後ろからついて歩いていたことを説明しよう。その上で彼に許してもらおう。

私が腹をくくった時だった。


「いいです。」


ドキッ!!っとするような彼の声が外から聞こえてきた。聞き間違いじゃない、私の良く聞こえる耳が確かに彼の声を聴き分けた。

”いいです”その言葉は、私の謝罪を聞くまでもなく彼に突っぱねられたような気がした。


ガタンッ、ガラガラガラガラ・・・・・・


まだ彼は乗りこんでいないのに、馬車が出発した。

(えっ?)

荷台から外を見ると、彼は一人立って馬車を見送っている。

その姿は小さく遠のいていった。

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