プロローグ
「異世界転生」と検索してみてほしい。
すると検索結果には膨大な数の転生もの小説がヒットするはずだ。オレが検索した時点では約5万件のラノベタイトルが検索画面を埋め尽くした。
アニメ化もされたような大ヒット作から個人的に趣味で発表しているような小説まで多種多様な作品が今も生まれ続けている。
おおざっぱに言えば、5万人もの主人公が異世界へ転生した事になる。
5万人という人数を聞いてピンとくるだろうか?東京ドームが満席になる数がおよそ5万人だそうだ。行った事の無い人はテレビで流れるアイドルのコンサートを思い浮かべてみるといい。大きなドーム内に設けられたステージで華やかに歌い踊っているアイドル達。その後ろで暗闇の中ペンライトが無数に光っている。あの1つ1つが観客なのだと考えるとその数の多さが際立つはずだ。
もしそのアイドルのコンサートに集まった観客からスタッフ、アイドルまでそこにいる5万人全ての人がスッパリ異世界転生して消えてしまったとすると、その数の多さにちょっと笑える。それだけ異世界転生ものはラノベでの地位を確立したという事だろう。
おもしろついでに、少し妄想してみよう。
アイドルが異世界転生するなら、こういう小説はどうか?
タイトル:「元アイドル、異世界転生してもトップ目指します!」
プロット:解散の危機が噂される男性アイドルグループ。そのリーダーが公演中にステージ上で突然心臓発作で死亡。しかし、気が付くとそこは異世界だった。天性のカリスマ性で戦った相手を魅了していき、ついには魔王すらも虜にする。
キメ台詞は「俺と一緒にてっぺん取ろうぜ!」
魔王軍の幹部を一人づつ魅了して落としていく元アイドルが主人公のストーリーだ。
「昨日の敵は今日の友」を地で行き、最後に残った魔王はなんと!時、同じくして転生していたユニットメンバーだった!というのがオチ。
話の展開はありきたりかもしれないが、歌いながらバトルする歌劇仕立ての戦闘をアニメ化したのなら・・・・・・無いな。うん。
だったらこんなのはどうだろう?
タイトル:「わたしっ!ギルドのセンターはゆずりません!」
プロット:何千人もの応募があるアイドルオーディションをやっとのおもいでくぐり抜けたのに、いざアイドルになってみるとただ1つのセンターというポジションを巡って競い合う現実(アイドル業)は残酷だった。
センターへの夢をあきらめかけていた彼女に軌跡が起こる!なんと剣と魔法の冒険世界へ転生していたのだ。
行くあてのない彼女を助けて(スカウトして)くれたのは戦士たちの集まる冒険者ギルド。
「私、ここ(ギルド)でならセンター取れるかも」しかし彼女は知らない。センター(ギルドマスター)というのは誰もやりたがらない雑用だということを。
女性アイドルものの王道といえば挫折とそれを乗り越える輝き・・・・・・いや、異世界で輝けるのなら現実でも元から上手くやっていそうだ。
まあ、こんな感じで空想するのがオレは好きだ。
異世界転生ものほど自由な小説ジャンルは無い。なんでもありだ。あり得ないような展開でもそのありえなさがライトノベルの「お約束」という魔法の言葉で片付けられる。
しかし、ありえないのが売りのこの異世界転生小説がテンプレ展開と揶揄されることがある。
そのテンプレを大まかに説明すると、主人公が死んで異世界へ転生→チート能力や前世の記憶など何かしらのアドバンテージを得る→オレ最強→理想の異世界生活(主にハーレム)といった展開だ。
だがテンプレだと言われようが何だろうが、なぜか異世界転生というジャンルは根強い人気があるのも事実だ。察するにそれは読者が空想のネタとしてトンでも展開であろうが、お約束のテンプレだろうが構わず欲しているからだとオレは思っている。
「あぁ、今の生活を全てやり直して自由になりたい」と妄想したことはないだろうか?その欲求を小説に重ね合わせているに違いない。
その気持ちはよく分かる。オレもその一人だったから・・・・・・