通り過ぎるは一迅の風
GW特集7日目(6回目)
さ、流石に限界…
膨大な水の塊を叩きつけられた魔術師は杖と共に墜落していく。それを今かと待ち構え、口を大きく開く八岐水蛇の本体。
あわれ魔術師。口のなかに落ち、その口は無情にも閉じられた。――直後八岐水蛇の眉間から一条の光の線が迸る。
その光の先には先ほど割った核よりも大きく煌々と深紅に輝く核があった。核はほどなくして砕け散り、核を失った八岐水蛇の胴体はボロボロと崩れていく。
「食べるための手心を加えず本気の咆哮ならこんなことにならなくてすんだのにね…それに透明な体だから核の位置が丸分かりなのよ…。まぁ疑似核を精製してたのは気付けなかったけど…」
魔術師は足を引き摺りながらボロボロの体に鞭をうち、空となった湖の中央に横たわる剣士に近付く。魔術師は剣士の手首をつかみ、脈を確認する。
剣士の手は長時間水に使っていたせいもあり、冷えきっていた。しかし…
「生きてる…」
魔術師の手に伝わる剣士の血の流れは微弱ながらもしっかり脈を打っていた。
魔術師はそのことに安堵し、その横に寝そべる。
「遅くなって…ごめん…ね」
魔術師はそう呟くように言うとそっと目を瞑った。
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剣士はガタゴトと揺れる感覚に気付き、目を覚ます。
視界には布張りの天井と知らない少女の顔が映った。
少女と目があった。少女の方もまさか目覚めると思っていなかったらしく驚きを露にしていた。
目と目があって永遠に思える時間が経過してようやく少女の方があわてふためく。
「ととと、父ちゃん!ちっちゃい方の猫族の子、目ぇ覚ましたよ!」
「そうか!話せる状態か?」
頭上で図太い男性の声が聞こえた。
「ねぇあなた話せる?私の言葉、わかる?」
「言語の理解…と言う点では問題ないです」
「何か食べる?魚?肉?それとも野菜主義?」
「血を…」
「ください」と言う前に隣に横たわる包帯だらけの顔面蒼白の魔術師に気付く。
少女は剣士の視線に気付き、言った。
「大丈夫。今は眠ってるだけだよ。長時間水に浸かってた影響で傷口からの出血が酷かったから何度も死線を彷徨ってたけど3日前ようやく峠は越えたの」
「何があったかくわしいこたぁ聞かねぇ。何せこの1か月でこの辺り一帯の湖にいた第3級指定災害獣の水蛇全てとそのなかで一番大きい縄張りを持つ準災害指定害獣の八岐水蛇の死亡が確認されてるんだからな。大方ギルドの赤紙依頼でも受けたんだろ?」
「ギルド?赤紙依頼?…よくわからない…」
剣士の言葉に2人は首をかしげた。
「…嬢ちゃん…あんたどっから来たんだい?」
「アバントの…森?だったはず…」
「あ、アバントの森?!かなり北にあったはずだよあそこ?!」
「…なるほどな」
剣士の言葉に御者をしている少女の父親が納得の声をあげた。
「あの一帯の湖は源流はアバントの森の上の方から流れる川から成る…お嬢ちゃんはそこから流されてあの湖に居たんだろう。違うか?」
男の言葉に剣士は頷く。
「ここから先は俺の推測の域に過ぎないが、そこに横たわっている嬢ちゃんはあんたを探してしらみ潰しに川の終着点を調べた。そして見つけ、八岐水蛇を1人で倒した。言っててなんだが自分でも信じられんがな…」
「確かに信じられない…でも私は姉さんを信じる…姉さんが喧嘩別れして私がドジをして…こうして助けてくれた。それこそ命を懸けて…」
剣士の言葉に男と少女は頷いた。
「俺はガス。ガス・フィンデール。旅商人だ。」
「私はフォス・フィンデール。父さんの娘さ。こう見えて回復魔法は少しは使えるんだ」
剣士は手を差し出すのを躊躇う。
「私には名前がない…姉さんにも…それに血もつながっていない…でも」
「ンなこたどうだって良い。フォスとだって血はつながっていない。養女として家族に迎え入れ、今ではれっきとした家族だ。」
ガスの言葉に剣士は手を差し出し、握手をする。
こうして4人となった旅は暫く続くのであった。
To Be Continued…
「今回は」ここまでで勘弁してつかぁさい…
次回は大型連休に備えておきますm(_ _;)m
とりあえず、章はここで一区切りつけるつもりです。