『八岐水蛇』
GW特集4日目…
――ピロリーン
メインスキル《二重詠唱》の熟練度が最大です。《三重詠唱》に昇華しますか?
はい/いいえ
…「はい」で
――ピロリーン
無属性の魔法の熟練度が一定に達しました【+中級】を取得しますか?
はい/いいえ
…もちろん「はい」
――ピロリーン
無属性魔法中級魔法《砲撃》の取得条件を満たしました。取得しますか?
はい/いいえ
…当然「はい」
――ピロリーン
雷属性魔法の熟練度が一定に達しました。【+中級】を取得しますか?
はい/いいえ
…「はい」以外の選択肢は考えられない
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無機質な声が頭のなかで響く度に魔術師は「はい」の選択肢を取り続けた。
『傷口を再生出来なくさせるために凍らせれば凍った際の内圧で取り込まれてるあの子まで殺しかねない…だから凍らせることは出来ない。かといって焼き潰そうにも相手は水属性…効果は望み薄。』
杖の進行方向を変えて目の前から迫る水流を回避しつつ右手の魔方陣から砲撃魔法を射出しその頭を爆散させる。
『そろそろ魔力が枯渇しそう…《魔力精錬》起動…』
激しさを増す水流の嵐をスラローム状にかわしてお返しと言わんばかりに攻撃魔法を叩き返す。
「さすがは準災害指定の魔物…」
幾条もの水流と魔法による軌跡が幾重にも重なりあう…。
『《魔力精錬》、《魔力炉》フル回転…まだ…まだ足りない…』
右腕から血が吹き出す。
『《多重詠唱》から昇華した《並列詠唱》で光属性魔法初級…《微回復》を追加詠唱…《詠唱破棄》にて詠唱を簡略…《微回復》!《雷鎚》!《雷爆》!《微回復》!《砲火》!《砲撃》!』
魔術師の頭の中で、再び無機質な声が響く。今度は《微回復》の熟練度が最大値になったようだ。新しい回復魔法《小回復》を手に入れ、それも《並列詠唱》の中に組み込む。
『頭が…割れそう…』
魔術師は少しよろめくも 歯を食い縛り、右に左に透明な首から放たれる水の咆哮をギリギリで避けていく。
「っ!」
勢いよく放たれる水流の水飛沫はさながら小さな刃のように魔術師の体を斬りつける。
『諦めるものか…諦めるものか…まだ1年も満たない時間しか一緒にいなかったけど…それでもやっと…やっと出来た長い旅の出来る連れなんだ…お前なんかに…お前みたいな蛇もどきなんかにくれてやるものか…』
「私の妹分を…妹を…返せぇぇええ!」
魔術師の叫びと共に周囲に30を越える白と黄色の魔方陣が四方八方に放たれる。
狙いは不正確ではあったが大量の直射型の魔法が透明な目を、頭を、胴を、撃ち貫く。
水蛇の方の魔力もかなり消耗しているらしく、再生する気配はない。
「もう打ち止めでしょ?返してもらうわよ?」
魔術師は肩で息をしながら死に体の水蛇に近付き、核に《砲火》を叩き込む。
胴体のど真ん中に位置する核は儚い音ともに砕け、透明な体に溶けていった。
魔術師は崩壊が始まるであろう水蛇の体に近寄り、旅の連れを受け止める準備をする。
――ズズズッ…
魔術師は水蛇の胴体がいつまで経っても崩壊する様子がないことに違和感を抱き、尻尾の先の方に視線を向けた。
そして視線の先ではこれまでの首とは比較にならないほどの大きさの首が口を開け、その口腔内では膨大な水が渦巻いていた。
『い、今までの首が全て尻尾…』
魔術師は絶句したと共に今までの首が持っていた異常なまでの再生能力に合点がいった。
「距離をとらなきゃ…」
その考えに至った瞬間、高密度に圧縮された水の咆哮が魔術師を襲った。
前回から察した方もいるかもしれませんが早くもタイトルのネタが尽きてきた。
2時間ちょいで話一本作るのは本当に辛い…でもどこか快楽じみたところが出てきたのは私が変態だからか…
来年のGWはもっと有意義なものにしたいなぁと思う鳥でした。
大型の多頭種の魔物で本命の首が最後に出てくるのは鉄板だよね?という王道…。