世界・頂・力祭、予選(6)
「てめぇがミダンだな?」
「いかにも拙者が無刀流師範…ミダンでござる」
男達は剣を構えながらジリジリと修行僧に近寄る。
「「「覚悟ぉ!」」」
3方向から剣を振り下ろす。
修行僧は手を掲げ、左右の剣を腕で受け止める。
後の太刀は修行僧の背を切り裂くことなく、そのまま止まっていた。
「かてぇ…」
3人はそう言って剣を取り落とした。
「お主らの腕では拙者を切ることは叶わぬ。諦めよ…」
「なら私ならどうかしら?」
「む?」
斜め後方からかけられた声に反応して身構えつつ、突き出された細剣を腕で止める。細剣は撫でるように修行僧の腕を滑らせた。
直後修行僧の頬と腕にうっすら切り傷が生まれる。
「さすがは亀人…さすがは無刀流…といったところかしら…硬さは伊達ではないわ」
「拙者に傷をつけるとは流石閃光騎士団団長でござるよ」
修行僧の服の背は無数の切り傷が有るが背中の服の切れ間から覗く緑の六角形の鱗には一切の傷はなかった。
「拙者未熟ゆえ、お主ほどの手練れ相手に手加減出来ないでござる…」
「あらあら東方の亀人は謙遜するって聞いてたけどホントなのですねぇ…」
2人の間でバチバチと見えない火花が散る。
閃光のフォルトナは間合いの外なのにも拘らず細剣による突きを繰り出す。
対するミダンは緑の鱗を真っ黒に染め、細剣の延長線上に手のひらを添え、まるで見えない刃をそらすような動きで前へと進む。
「流石、無刀流!見えざる刃を弾くとは!」
「ただの無詠唱の風刃でござろう?風の流れが読めれば大したことないでござる」
「ひ、人の十八番の仕組みをばらさないでください!」
「む、かたじけない」
十八番を看破された上に公にされたフォルトナは涙目になって訴えつつ連続で突きを飛ばす。
連続の突きを掻い潜り、ミダンはフォルトナの腹に掌底を叩き込む。
「む?」
ミダンはフォルトナに叩き込んだ掌底に違和感を覚え、思わず手を引く。
掌底を叩き込まれたフォルトナの姿が陽炎のように揺れ、空気に溶けるようにして消えた。
「…残像…なるほど閃光は早いってだけではなかったのでござるな…しかし…」
ミダンは無作為に虚空を両手で挟む。
「風の流れが読める拙者には稚技に等しいでござる!」
虚空が揺らめき、フォルトナが持っていた細剣が露になる。
しかし肝心のフォルトナの姿は現れなかった。
不思議に思ったミダンは訝しげな表情を見せた直後、首筋にヒヤリとしたものが添えられる。
「残念ながらそっちは囮…本命はこっちです」
「…魔力剣か…魔力剣は実体がないゆえ風の流れは無い…流石に無理でござる。“りたいあ”でござるよ」
剣を挟んだ体勢でミダンはため息を吐いていった。
「魔力剣は予選の内は隠しておきたかったんですけど風を読むあなた相手なら致し方無いです。」
フォルトナは魔力剣を消して肩の力を抜いた。
しかし今は予選…サバイバルマッチの真っ最中。今が好機と見た男達は四方八方から各々の武器を振り上げフォルトナに襲い掛かる。
「お主ら!武人としての誇りは無いのでござるか?」
「要は勝ちゃあ良いんだよぉぉおおお!」
男達の声にフォルトナはため息と絶望に満ちた声で返した。
「あなた方、あまり派手な動きはしない方が身のためですよ?」
「そんな脅しが通じるかよぉぉおお!」
男の怒声に応じるようにして周りの選手も同調して襲い掛か…れなかった。
男達は皆地面に這いつくばる形で転倒したのだ。
「な…に?」
慌て体を起こすと視界がとてつもなく低くなっていた。
「一体…何が起こって…」
周りを見た瞬間音頭をとっていた男は驚愕した。囲んでいた選手はみんながみんな石畳の舞台から上半身生やしている状態なのだ。
「なんでみんな埋まって…」
男はすぐさま自分の異常な事態に気が付いた。
『下半身の感覚がない』
男はゆっくりと後ろを向いた。
そこには見慣れた下半身が一滴の血を流すことなく倒れていた。
「…断細剣ジャッジメント。一定の防御力を有さない生物を一刀の元に断ち、装備者のある言葉を発すると切断、絶命する。剣匠ザンクによる傑作十二振…」
「剣匠ザンクの傑作十二振…」
男達は顔を真っ青にする。
「降参してくれますよね?」
上半身だけになった選手はコクコクと無言で頷く。
脱落者が運び出され、舞台にはフォルトナ、ガン、ザフの3人が残った。
「第2ブロック決着ぅぅぅぅうう!閃光刃のフォルトナ、双鎚のガン、八刀流のザフが本選トーナメント進出ぅう!」
ヨセフスの声と共に会場は歓声に包まれる。
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