世界・頂・力祭、予選(1)
観客は唖然として舞台に立つ簡素な服を着て、なんの装飾のない杖を片手にした魔術師を見ていた。
口を半開きにしてこの状態を見つめていたヨセフスは我に返る。
「お…お、俺は夢でも見てるのかぁ?第1ブロックほんの僅かな時間で舞台に立っている選手は1人、他の選手は周囲の川にプカプカ浮いている事態になっているぅ!」
時間は遡ること数分前…
大柄な男はモーニングスターを振り回しながら目の前の魔術師を見ていった。
「てめぇ見た感じ武芸者じゃねぇな?」
「じゃあなんだっていうのかしら?」
大柄な男の言いたいことがわかってるような素振りの女魔術師は飄々と返す。
その態度が気にくわなかったのか男はモーニングスターを魔術師に振りかざす。
「これは“武”の祭典!惰弱な魔術師風情が出る幕なんかねぇ〜んだよ!」
魔術師は右に左に体を振ってモーニングスターを避け続ける。
「詠唱の隙も、陣を描く暇も与えねぇ!」
「…」
魔術師は舞台の淵まで追いやられ、場外に流れる川を見る。
川は緩やかに流れてはいるものの深さはそれなりにある。魔術師は後ろ手に持った杖の先端をそっと川に触れさせる。
「これで…しまいだぁぁああああ!」
魔術師の目の前の男が吠える。それを魔術師はため息で返した。
「水流操…」
大質量の水が魔術師とモーニングスターの間に割って入り、そのままモーニングスターを絡めとる。水はモーニングスターを絡めとるだけに留まらず、モーニングスターを操っていた男を、周囲の選手たちを飲み込んでいく。
「逆巻け、渦巻け…水よ、従え…大海を飲み干す大蛇と化せ!複合魔法!渦潮大瀑布!!」
水は回転し始め、巨大な竜巻と化す。水を伴った竜巻はあらゆる者を根こそぎ吸い上げ、巻き上げた。
そして徐々に竜巻は勢いを失い、元のような川へ変貌する。竜巻がおさまった舞台には簡素な服を着た魔術師に到底見えない魔術師のみが立っていた。
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「ブロックの上位3人って言ってたけどこれってどうなるのかしらね?」
魔術師は舞台に立ってペロッと舌を出した。
ヨセフスはコロッセウス運営規約をパラパラとめくリながら確認する。
「…えっとこの場合は…あった! え~『勝者がブロックで1人だけ残った場合その者のみがそのブロックからの本選出場者である』…つまり第1ブロックからの本選出場者は138564319番の…え?名前の登録がない?じゃあどう呼べば…。」
「『名無しの姉』でいいわ」
「で、では第1ブロック本選出場者138564319番の『名無しの姉』ぇぇぇええええええ!」
ヨセフスが勝者コールをすると会場は湧き上がるような歓声に包まれた。
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